そこは獣人たちの世界

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第二章

宿への帰還

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まだ腕に鉄の感触が残ってるみたいだ。腕だけじゃない。尻尾を入れられたところだってまだ少し感触が残ってるようで、気持ち悪い。気持ち悪いはずなのに、思い出すと自分のなのに立ち上がってしまう。
尻尾が半分ほど入った時、もう根元のあたりにまで来てたのがわかったのに、さらにその奥にと入ってきたんだ。僕の中に無理やり入られてきて、もう駄目なんじゃないかって思った時に、ガロが来てくれた。来てくれると、信じていたけど、不安もあったのは確かだ。
もう忘れたい。裸のままだから頭に残るのかもしれない。幸い、服は破かれていなかった。なぜかきれいにたたまれて部屋の外の小さな棚に置かれていた。服を着つつ、ちょっと疑問に思ったことを聞いてみる。

「この後、あの死体はどうなるんだろうね。」

「どうもならないさ。俺が殺したネズミは死んだということすら公表されないだろう。雇い主はおそらくあのデブ竜だろうが、聞く前に殺しちまったからな。」

「捕まってる時よりも急に首飛んだ時のほうがちょっと怖かったけど、今となってはさっさと処理してくれてありがたかったかな。」

「・・・そうか。着終わったなら出るぞ。」

鉄のはしごをさっさと上り始めるガロに僕も後ろから続く。梯子なんてリアルに上るのはこれが初めてだけど、登ってみるとそんなに力もいらないもんだ。この体だからかな?
ガロが明けた天井のハッチをくぐり外に出ると奥まった路地だが、少し顔をのぞかせればすぐに通りが見えて、村の人々が少ないが歩いているのも見える場所だった。こんな場所にあんな地下を作るなんて。

「なんか、ちょっと意外な場所にあったね。僕、運ばれてるの見られたと思うんだけど。」

「さすがにメインの通りは使ってないだろう。裏道にいるやつらは人を運んでるのを見ても何も言わないだろうしな。」

「そういう感じなんだね。普通に生活してる人もいるのになぁ。」

「そうだな。だが普通に過ごせるのもある意味そういう裏の奴のおかげでもある。この村がいびつにもやっていけてるのはな。」

「うっ、そうなんだね。」

もしかしたら僕が捕まって、そのまま奴隷にされ、売りとばされればこの村がまた潤っていたのかな?それとも今日あったあのデブい竜の懐に入るだけだったか。まぁ、そんなことは考えてもしょうがないか。

「もう時間も夕飯時だな。どうする?飯を作るなら外に出てそのまま寝るのもありだが。」

「外で寝たほうがいいならそうしようか。でもあんなことあっても宿で寝る方がいいなら宿でいいよ。」

「ほぉ、ちょっと意外だな。大丈夫だ。二度目はない。」

「そっか、外も悪くはなかったけど、あんな宿でも外よりましだったからね・・・」

すぐに起こされたけど、すぐに眠っちゃって熟睡できたことを考えるとテントより宿なのかなって思うところはある。

「いっておくが、すぐに寝ちまったのは睡眠ガスのせいだぞ。俺も落とされたところを考えると、かなり強力なのを使われていたようだからな。」

「え、そ、そうなの?」

「少し怖気ついたか?」

それを聞いてちょっと不安になってくるけど、平気といった手前、なんかいまさらおびえるのもあれだ。それに二度目はないと言い切ったガロを信じたい。

「大丈夫だよ。夕飯は作り置きのをポーチから食べるのでいい?」

「それがよさそうだな。宿で食おう。」

まだ村の中だから緊張感は持たなきゃいけないんだろうし、ガロも警戒態勢強めで歩いてるけど、助けられて少し落ち着いてきたのか、一気に疲労感が出てきた。
攫われた宿につくと、受付の人が変わっていた。こちらをちらっと見たけど、ガロが受付側に鍵を見せると、すぐに手元に目を落として眠そうにしていた。

「なんか言わなくてよかったの?」

「変わっていただろ?おそらくもう前の奴はいない。」

「えっ・・・」

いないって、つまりそういうことだよね?一人捕まえるために犠牲を問わないって、かなり怖い。僕を捕まえるために、何人犠牲になったのか・・・

「まぁ気にするな。この村ではよくある話だ。金に騙された奴が悪い。」

「そういうものなのかなぁ。」

「そう考えるしかないさ。一回俺の部屋のほうに来てくれるか?一緒に食おう。」

町にいたときには感じなかったけど、村に来て、今の言葉を聞いて、よく分かった。この世界は人の死が近いものなんだ。おそらく、魔物とですら戦闘経験が浅い僕にはまだ実感がわいてなかっただけだろう。
切り替えが大事だ。狭い部屋に二人で入ると余計に狭いけど、小さく座りあって瓶箱のおにぎりをほおばる。今日の中身は鮎の切り身だった。コンビニでは見たこともないけど、かなりいける。でも魚ならやっぱりイクラとか鮭とかほしくなるな。
食べたことで落ち着いたら、さらに眠気が強くなってくる。昼にだって寝たはずなのに、精神的疲労が原因なのかな。

「えっと、ガロ、眠くなっちゃったから、寝るね?」

「ん、そうか。どうしてもきついなら、眠って忘れろ。壁の消音も消しておく。嫌な夢見て起きちまったら、たたいてくれて構わないぞ?」

「うん、ありがとう。おやすみ。」

かなり心配されてるみたいだったけど、さすがに嫌な夢を見たくらいでガロに来てもらったりしたら子供っぽいからするつもりはないけど、確かに夢見は悪いかもしれないなぁ、少し寝るのが億劫になってきた。でも眠気は変わらず強かったようで、結局部屋に戻って横になったらすぐに眠ってしまった。
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