そこは獣人たちの世界

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第二章

*思わぬとどめ

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ガロの剣は確かに致命傷ではある。だが水の膜の影響か想定よりは浅かったようにも見える。あれでは仕留めきれていないな。カレントも隣で舌打ちしている。自分は浮島を維持するので手一杯。無意識に歯ぎしりが起きる。いけないな、悪い癖だ、直さないと。
ガロが浮島にと戻ってくる。水にと沈んだようにも見えるリヴァイアサンだが、ただ潜っただけなのは感知でわかる。海の中からブレスを打ってこられると厄介だがカレントの水龍砲があれば相殺はできるか。先走らなければいいんだが。

「浅かった、仕留めきれなかった。すまない。」

「それは仕方ない。それよりどうする?たとえもう一度顔を出させても次はもう完全によけられるぞ。」

「そうなんだよなぁ、オレがウォーターアローぶち込んだらまた顔出すには出すんだろうが、ガロの攻撃に意識バリバリだろうな。他のをよけないくらいの勢いでよ。」

自分が動けるなら、ガロがよけた後に大きく一撃を入れるんだが、浮島を消すと海に落ちる。確実に仕留めらるとは言い切れないから悪手だ。カレントでは同じ水で効果は薄い。となるともう残るのは一人しかいない。

「キオ君、君が決めるしかない。」

「えっ!?僕ですか!?」

「おいおい、ドラド、そりゃ無理だぜ。キオのサンダーショットだって警戒されてただろ?それに威力だって問題じゃねぇか。」

「いや、今は俺の攻撃のほうを危険視してるだろう。わざと大降りに攻撃すれば必ず隙ができる。そこに打ち込ませれば良い。威力もこの距離ならそれなりに出る。行けるか、キオ?」

ガロも少し不安げにキオ君にと目を向ける。キオ君も一瞬たじろいだけれど、すぐにガロのほうにと強い目の光で見返す。

「うん、わかった。やれるだけやってみるよ。」

「おー、良い目をするじゃねぇかキオ。オレも援護するから頑張れよ!」

「タイミングはこちらでいう。ありったけの魔素を込めて打つんだ。」

「わかりました。」

「よし、行くぜ!ウォーターアロー。」

カレントのウォーターアアローが海面にと消えていく。直後にリヴァイアサンが浮き上がってくる。どうしても攻撃されれば顔を出すのか。いや、ずっと海中に居られたほうがこちらとしては不都合なのだからかまわない。
体中の切り傷、最も深い傷からはいまだに紫の血が出ていて弱ってはいるようだが、まだまだ戦意は衰えていないことを、今だ紫色に怪しく輝く目が物語ってる。

「さすがにしぶといな。あれだけの怪我で気配が揺らいでいない。行くぞキオ。雷装、大剣。」

「了解!」

ガロが浮島から飛び出す。カレントもいつでも魔法での援護ができる体勢だ。キオ君もサンダーショットを準備し集中し始めている。自分たちと比べてしまうとまだまだ未熟、魔素の集まりかたはいい。当てさえできればリヴァイアサンとはいえ、あれだけ消耗しているんだ。致命傷になるだろう。
ガロが雷を纏った大剣にを握り、ひどく大振りに剣を振る。リヴァイアサンはやはり先ほどのガロの攻撃を意識しているようで大きくよける。そこが隙となるからキオ君でも狙い撃ちのはずだった。
よけるだけじゃなく、水で作った鞭のようなものがガロを襲う。もちろんガロは剣で軽くあしらったが、そのあとが問題だった。水の鞭に続き、リヴァイアサンの尻尾が鞭のようにガロにと襲い掛かった。剣で受けはしたようだが、大きく海にと叩きつけられてしまった。

「んなっ!?ガロ!?」

「嘘っ!?ガロ!?」

「キオ君!集中を切らしたらいけない!」

ガロはおそらく無事だろうが、キオ君が魔力集中状態だったのに気がそれてしまった。それがよくなかった、キオ君の中の魔素が激しく荒れ始める。

「やべぇぞ!ガロは問題ないだろうがリヴァイアサンはこっち向いてやがる!」

「そっちもまずいがキオ君のほうがまずい!魔素の反応が異常に上がっている!」

「なにっ!?ちっ!そっちは頼む!ガロが戻るまで俺が見てる!ウォーターボール!」

カレントがウォーターボールを体の周りに浮かせて戦闘態勢をとった。不安だが任せるしかない。今はキオ君のほうを収める方が先だ。どうにかなったらガロに顔向けができない。

「キオ君!落ち着くんだ!魔素が暴走してしまう!落ち着くんだ!」

ダメだ、聞こえていない。肩を抑えているが、それにも反応していないうえに、サンダーショットを打ち出すために手を構えたまま動かない。これはトランス状態か、それにしてもどんどん魔素の反応が膨れ上がっていく、止めないといけないんだろうが、首裏に当て実をして意識を落とすべきか?
いや、下手に刺激を与えて完全に暴走した方がまずい。後遺症が残るかもしれない。手をこまねいている間にも魔素が収束していく。これは、一点にしっかりと集中していっている?完璧なショット、いやガンの魔素の集まり方だ。

「・・・サンダーガン。」

「っ!カレント!よけろ!」

「はっ!?うおっ!?」

にらみ合っていたカレントの背後からキオ君が急にサンダーガンをすさまじい速度で打ち出した。今までのサンダーショットの速度の比ではない。それが幸いしたのか、カレントはよけれてもカレントの動きに集中していたリヴァイアサンには直撃した。けたたましい叫び声をあげている。
それもそうだろう。サンダーガンが体に当たったというだけじゃない。体を貫いている。なんて威力だ。そうだキオ君は!?こんな高威力の魔法を打って大丈夫なのか!?

「キオ君!っ、気絶してる。」

「おい、今のは何だ!?何かすごい音が・・・キオ!?」

浮島にタイミング悪くガロが昇ってきた。自分がキオ君を軽く抱え込んでいる状態だ。寝かせたほうがよかった。さすがにキレたりはしないだろうな?

「おそらく魔素の使い過ぎだ。気絶はしているけれどな。」

「ドラド!い、いや、俺に預けてくれ。それとリヴァイアサンは?」

キオ君を抱きかかえるように受け取りつつもリヴァイアサンにと意識を向けるのは良い心がけだ。自分もキオ君に気を取られすぎていた。

「大丈夫だ。今の一発で伸びたみてぇだよ。にしてもすげぇなキオ。でもオレに当たるところだったぞ?」

「ほとんど無意識に打ち出したようだから仕方あるまい。」

「でもよ、あれオレが食らってたら俺もあんな風に体に穴開くところだったぞ!」

「っ!確かに俺が消耗させていたとはいえ、あの穴を作ったのか。」

自分も海を覗くと伸びて無様に浮かぶリヴァイアサンの姿。その胸元に風穴があいている。鼠種の拳程度の大きさの穴とはいえ、海が貫通して見えている。トランス状態だったとはいえすごい威力だ。
それだけに意識を失ったくらいで済めばいいのだが、軽く今後の魔法に影響が出ないかと不安もある。ガロも不安なのか、キオ君をだく腕が少し震えていた。それをカレントが見つめていたのもちらりと横眼に見えた。
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