そこは獣人たちの世界

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第二章

また一難

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あれだけ大量に盛ったはずのイカリングとタコと帆立のペペロンチーノ風パスタのどちらもあっという間に完食してしまった。ドラドさんもやっぱりかなりの大食いだったようだ。少し二人よりも食べるのは遅めだったけど。
そういえば王都に帰ってからレシピを書くことになったけど、この二つのレシピでいいのかな?今日使った魚介類はドーパーじゃないと手に入らないかもしれないんだけど。

「そういえばドラドさん。レシピは今日の二つでいいんですか?」

「とりあえずはな。なんでだい?」

「いえ、今日使った食材はドーパーじゃないと手に入らなさそうだなと思ったので。」

「それなら問題ない。必要だと感じたら転移石を買って買い付けに来る。」

そっか、転移石があれば買いに来れるのか。僕はガロに十分な量買ってもらったからしばらくはいらないだろうけど、どうしても欲しくなったらまた連れきてもらえるかな?

「ドラドそんなに気に入ったのかよ?確かにうまかったけどなぁ。毎日はさすがに飽きるぜ?」

「そんなことはしない。そもそも自分に作れるかは不明だからな。だがイカとタコくらいは先に買っておいてもいいだろう。」

「それならさっき買えばよかっただろ。俺たちも付き合うのか?」

「良いじゃねぇかガロ、買うところ決まってるんだ。少しくらいい付き合え!」

がしっと水竜がガロの方に腕を回したけど、即座にガロが払い落した。僕がじっと水竜のことを見る。ついでにドラドさんもいぶかし気にみつめていた。慌てるように水竜が外にと逃げていく。
ドラドさんがこちらに視線を向けてきて、肩をすくめていた。パートナーになったらしいけど、苦労しそうだと思って、僕も肩をすくめておく。そんな和やかな雰囲気は店を出るまでだった。
キャーだのわーだの悲鳴が港のほう、しかもさっきまでいた市場のほうから聞こえてくる。明らかに逃げて来ている人たちが見えて、ガロもドラドさんも水竜もすぐに真剣な顔つきになった。

「シーサーペントだとよ、どうする?クラーケンやリヴァイアサンに比べたら大した相手じゃねぇぞ。」

「だが市場にいたような民間人にとっては脅威となるだろう。」

「オレとしては今すぐにでも助けに行きてぇけどな。」

「カレント、分かっていると思うがギルドで正規に依頼を受けずに討伐しても報酬は倒した魔物の素材だけになる。シーサーペントレベルの相手だと、場合によってはすでに依頼を受けていた相手が不利益になることもある。」

対した相手じゃないと言いながら今港の市場にまだ残ってるかもしれない人を心配して今すぐにでも行こうとしている水竜に対して、民間人には虚位だと言いながらも依頼を受けずに討伐した場合の問題点を出してなだめるドラドさん。
この場合、多分ドラドさんのほうが正しいんだろうけど、僕としては今すぐに助けに行きたいと思う水竜のほうに心が行く。どうしようと僕がガロを見るのと、水竜がガロに振るのはほぼ同時だった。

「んじゃ、ガロはどっちがいいと思うんだ?」

「俺に聞くのか?パートナー同士で決めるべきだと思うが、俺としては依頼を受けてからがいいと思う。だが、キオはどうやら、今にでも助けてほしいようだな。」

「え!?う、うん。まぁそうだけど・・・」

「ならシーサーペントを倒しに行けばいい。」

「はぁ、全く。キオ君、今回は仕方がないが、誰だって避難はできる。それに町には結界があるからある程度までしか近づけない。危険性は低いのだよ?」

「そう、でしたね。」

「まぁ決めてしまったようだから自分も見張りとして付き合うけれどね。」

僕のほうの意見を採用するってことでガロが賛同したことで行くのは決まっちゃったみたいだけど、確かに結界があるらしいから町の近くに魔物が出たとしてもすぐどうこうなるわけじゃなかったか。みんなの逃げる時間と、依頼を受けるくらいの余裕はあるんだろうな。

「よっしゃ!そう来なくちゃな!ならリヴァイアサンの時にはできなかったあれやろうぜ?」

「はぁ、ペアでもなく一時的なパーティーだぞ?そういう技はパートナーとなったドラドと合わせるべきだろ?」

「ドラドとは昨日今日パートナーになったばかりだぜ?ペアの回数もそんなにない。」

「以前のリヴァイアサンを沈めた技だろう?今後の何かの参考になるかもしれない。見せてもらおう。」

「おう!任せておけ!」

なんか秘策があったらしい。僕がトランス状態になって倒してなかったら使うつもりだったんだろうな。というか僕のトランス状態での技ってその秘策くらい強いってこと?いや、リヴァイアサンが弱り切ってただけか。
それにしても3人とも早い。あっという間においていかれそうになる。何とかついていけてるけど、多分緩めてくれてるだけだな。水竜がちらちらとこっち見てるし。人はいないけど市場はほとんど店がそのままで、なんというか即座に逃げてきたって感じがすごい。
海岸につくと、かなり近いところにシーサーペントがいた。え?結界があるとか言ってなかった?リヴァイアサンより小さいんだろうけど、距離が距離だから大きくみえる、まさに巨大ウミヘビ。しかも首を伸ばされたら届きそうな位置にタコを売ってた黒毛の猫種のおばあちゃんが膝をついてシーサーペントに手を伸ばしていた。

「何やってんだあのばばぁ!ドラド!」

「老体にその言葉はひどいと思うがわかっている。ロープツリー、ブランチ!」

ドラドさんがその場にとどまって地面をドンと蹴ると、その足元から木が生えてきて、まるで紐のように枝が伸びておばあちゃんをからめとって引き寄せる。交代するようにガロと水竜がシーサーペントの前にと立つが、どうやら二人には目もくれず、何かを食べているようだ。

「タコが、あたしのタコが・・・」

「タコ?あのタコを食べているのか。タコは戻らないが取られた仇はあの二人があっけなくつけるだろう。」

どうやらタコを食べているらしいが、そんな隙を二人が見逃すはずがない。即座に二人とも魔法を打つために軽く構える。

「雷装。」

「化身!水龍砲!」

水竜の出した水龍砲にガロの雷が纏わる。あれが秘策か、たしかにガロの雷とあの水龍砲の威力が合わさったらすさまじそうだ。実際まっすぐにシーサーペントを貫き、大きな風穴を開けてしまった。

「すごいが、あれでは素材の量が減るな、まぁいいだろう。参考にはなった。」

「確かに、ちょっとやりすぎちまったぜ!派手にやろうとしすぎた。」

「全くお前は。すまないドラド。おばあさん、大丈夫ですか?なぜあんなところに。」

ささっとシーサーペントを回収した二人が戻ってきた。ガロがドラドに軽く謝るとおばあちゃんにと声をかける。確かに危険だから早く逃げてほしいものだ。

「必ずタコを買いに来るお方がいるんだよ。あそこは見やすいからね。いくつかは残ってるはずなんだ、見に行ってもいいかい?」

「それくらいならば。」

ドラドさんの紐の木にずっと捕らえられていたけど、そうか、シーサーペントのほうに行っちゃう危険性があったからか。決して守るためだけってわけじゃなかったようだ。みんなで蛸壺のほうに行くと壺は7個だけ残っていた。

「あぁ、7個しか残っていない。しばらく取れなかったから10は持っていきたかっただろうに。」

「・・・ガロ。」

「何が言いたいのかはわかるが、やめておけ。買ったものを返すのはマナー違反だ。」

「おぉ、そんなことを考えてくれたのかい君?でもね、商売人として戻されるのはほんと、ダメなんだよ。それにあたしが意地張って守れないのに守ろうとしたりしたのがいけなかったよね。そもそも全部あなたたちに売っていればこんなことにならなかっただろうし。」

さっきまではちょっと混乱状態だったんだろう。落ち着いたことで冷静な判断ができてる。僕が買ったものを返してあげたらなんて思うことのほうが失礼だったようだ。

「全くだよオクトさん。いつも言ってるでしょう?ここは結界がないから店を構えないでくださいって。」

「やはりその気配、ギルドマスターのフィンルさんでしたか。」

急に後ろから声をかけられて僕はびっくりして振り返ったけど、他3人はゆっくり振り返ったから気づいてたみたい。なら教えてほしいものだけど。そこにいたのは一見イルカのような人だった。ドラドさんが言うにはギルドマスターらしい。多分この町のってことだよね。

「おー、後ろからだれが来てんのかと思ったらギルドマスターが登場かよ。なんでここ結界がないんだ?」

「広めに結界を張ってしまうと釣りで何も釣れなくなってしまうからね。少し手前側になっているんだ。」

「なるほど、だがこのおばあさんのように結界のない場所で店を出すものがいると危険なのでは?」

「オクトさんくらいだよ。ほら、残った蛸壺は買ってあげますから、早く非難してください。市場の再開はギルドからお伝えします。」

「あぁ、フィンルさん、7個で済まないねぇ。」

「わかったから、ほら、早くいきなさい。さて、私たちはギルドで話しましょうか。」

僕以外の3人が真剣な顔でうなずく。ちらっとガロが僕に目線を向けてきた。どうやら僕も含めて全員ギルドのマスタールームへ招待されるようだ。
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