そこは獣人たちの世界

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第三章

出し尽くす

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確かに僕はベラルにスロウをかけるために打ち出したはずだった。まだぎりぎりスロウはかかってる時間だったはず。それでも切れた瞬間に、スロウがかかる前よりもあきらかに早く動いたようで、一瞬で僕の目の前に来た。
気が付いた時には大きく吹き飛ばされていた。後からくる腹部の異常な痛み。切られてはいない、蹴られただけのようだけど僕の魔素纏いなんて無駄だといわんばかりのダメージだ。

「貴様・・・」

「死んじゃいないよ。殺しちゃったらもらえないからね。ガロももらうつもりだから、殺しはしないつもりだけど、あんまり抵抗するようだと分からないよ。」

結構遠いのに二人の会話がしっかりと聞こえた。意識が飛びそうなくらいに痛いのになんで?うずくまる僕の上に影ができる。ゆっくり上を向くと世界竜がちょうど真上にいた。

「部外者扱いではつまらぬだろう?付き添ってきたものの最後かもしれぬというのに。」

「・・・さい、ご?いや、そんなこと、させない。」

こんな苦しいのに意識が飛ばずに、むしろよく二人の会話も戦闘も見えるのは世界竜が何かしたからのようだ。でも付き添ってきたもの、つまりガロの最後なんて言われて、うずくまってじっとなんてしてられない。
さっきまで優勢だったのが嘘のように劣勢だ。完全にガロは受け切るので精いっぱいといった様子。クイックは付けてるはずなのに、それ以上の速さで動いてるのかもしれない。


「させぬというが、動けもしないだろ?」

「世界竜は、なにもしてくれないんですか?」

「我は手を出さぬ。手早く処理するよう言ったのだが、時間がかかっているからな。もはやどちらの決着でも構わぬ。」

「それじゃあ僕がどうなっても構わない、と?」

「そうならぬよう其方がどうにかするしかないな。其方の力はまだ覚醒しきっていない。思い出せ失う恐怖を、奪われた怒りを。」

「恐怖、怒り・・・」

「そうだ、そしてすべてを振り絞れ。」

そういえばリヴァイアサンの時に暴走するように打ち出したっていうサンダーガンはリヴァイアサンを完全に打ち抜いたそうだ。弱っていたからとかも思ったけどあれが僕の真の力?
狼種の姿を一時的に失うくらいの覚悟で魔素を集めて打てば、僕の魔法があのベラルにでも当てられるのか?体は動かないけど魔法一発くらいなら、無理すれば打てなくもない。
でもどんな魔法なら通じる?基本の8属性じゃきっと見えやすくてどんなに威力があってもさっきみたいに避けられてしまうだろう。闇も同じようにダメだと思う。それならもう空間じゃ意味は少ないから時しかない。
相手の動きを完全に一時的に止めるストップをガンに込めて打ち出せば、見えずらいし当たればガロがそのすきに倒せるかもしれない。けれどストップガンは精度がないからガロに当たる可能性もゼロじゃない。いや、それでも、このまま押されれば確実にガロが負けちゃう。
全部振り絞るつもりで魔素纏いも魔素感知もなんもかんも解除して、僕の中の全部の魔素を込めるくらいの気持ちで時の力を込めた弾を作り合上げる。体の力が余計に抜けていくようだけど、世界竜のおかげかしっかり二人の姿は見えてる。次にガロがうまく打ち逃げたその瞬間を、ねらう。

「ストップ、ガン!」

打ち出した瞬間に、僕の体が真っ白に全身光り始めた。この光はあれだ、人間に戻ってしまうときの光。目の前が真っ白に変わる。そして視界が戻った時にはベラルの胸元から鮮血が噴き出していた。

「ぐはっ・・・なんだ、いまの、私のすべてが、一瞬、止まった・・・」

「キオのストップガンだ。いつもよりも強力だったようだな。見えない高速の弾丸だった。」

「あの魔素の力の塊に、反応して受け止めたのは、間違いだったか。だけど、よけれる位置じゃなかった。」

「あぁ、キオがかなりうまく狙ったようだな。」

「なるほど、人間の姿に戻ってでもと撃った力か。」

血をだらだらと流しているのにベラルは結構流ちょうにしゃべっている。もしかしなくてもこのくらいじゃ決着がつかない?完全に殺すしかないの?もちろん僕たちを狙った相手なんだけど、それはガロが人を殺すってことだ。でもこちらを見たベラルが笑みを深めるのを見ると、それしかないのかもとも思う。

「ばれたからといってそれほどに力を使うべきじゃないと、跡で叱らないといけないが、まずは貴様の処理からだ。」

「いいのかい?いくらガロでもSSランクの私を切ってしまえばそれはギルドカードの履歴に残る。拘束して連れ帰るのが本来ではないのかい?」

「いつ拘束を解くかわからない貴様をこの後連れ帰るなど、正直考えたくはない。」

「それについては気にせずともよい。それを縛れ。レヴイーアに送る。」

「そ、それは、レヴィーアさんが困るのでは?」

「我から声を入れておけば問題なかろう。」

そういえばレヴィーアさんは世界竜から話を聞いて僕たちを世界竜のもとに行くように言ってきたんだよね。といっても急にベラルが縛られて送られてきたらどっちにしろこまると思うけど、ガロはポーチからロープを取り出して縛り上げてしまった。

「ふっ、こんな日が来るとはね。これでもかなり戦いには自信があったんだけど。」

「戦いとはそんなものだ。思わぬところで足をすくわれる。其方は力に溺れすぎたのだ。」

そんな言葉をかけて爪の先をベラルにと向けると、一瞬で消えて居なくなった。転移したようだけど、いつもの転移よりも圧倒的に早い。やっぱり世界竜というだけあってただものではないんだろう。

「とりあえず、終わったな。ぐっ・・・」

「ガロ!うぐっ!」

ガロが膝をついたのを見て腕を伸ばそうとしたらめちゃくちゃ蹴られたところがずきずきしてきた。そういえば人間の体だから余計に弱くなってるんだろう。そんな僕たちを見て上からため息が聞こえてきた。

「仕方のないやつらだ。癒してやろう。」

今度はでかい金色の爪が僕とガロに向けられる。体の痛みが引いていくどころか、人間の体とは思えないくらいに体が軽くなっていく。さっきまでたつのもきつかったのに簡単に起き上がれてしまった。こんなのあるならもっと早く使ってほしいものだけど、手を出さないって言ってたし、ほんとに何も手伝う気がなかったんだろう。
ガロのほうもちょっと不思議がりながらも立ち上がった。よかった、もう大丈夫みたいで。

「ありがとうございます。」

「こうでもしなければ我の話も聞けぬ状態だっただろ。それだけだ。」

「どうやら、治してもらって終わりとはいかないようだな。」

真剣な表情で、かつ緊張感を持った表情で世界竜を見つめるガロ。あぁそっか、これからどういう話がされるのか考えてなかったよ。話を聞かせるために直されただけかなんて暢気に考えてる場合じゃなかった。
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