そこは獣人たちの世界

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第三章

世界竜からの話

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表情に出さないようにと思っても自然と表情が硬くなるのがわかる。もしかしたらこの世界から元の世界へ帰るようにって話なんじゃないかという不安がよぎるからだ。

「その不安の必要はない。むしろ逆、其方は死するまでこの世界にいることになるという話だ。」

「え!?今僕が考えてたことを読んだんですか?」

「強い感情の揺れを起こしかねなかったから心を読んでいた。だが杞憂だったようだな。」

どうやら突然元の世界に戻されるって心配はないようで心底ほっとした。もう僕はこの世界というか、ガロの隣にずっといたいと思うようになってしまったんだ。忘れることも出来ずに元の世界に戻ったりしたら喪失感はどれほどのものだろうか。いや、たとえこの世界での記憶を消されたとしても・・・

「キオが元の世界に戻ることはないというのは、どういうことなんだ?キオも望んでいることだからこちらとしてはありがたいが。」

「其方の疑問に答えればキオの過去を話すことになるが、我が話してしまってよいのか?」

僕のほうを見つめて過去の話をするという。まぁ本当は自分で話した方がいいのかもしれないけど、どの話をするのかわからないし、ガロが世界竜から聞くんでもいいならそれでもいい。

「ガロが決めていいよ。僕から話せばいい?世界竜から聞く?」

「キオの過去か・・・気にはなるところだが無理に話すことはないぞ?」

「でもその話をしないと僕が戻ることがないって質問が答えられないってよ?」

「そうだな、世界竜よ。キオの過去の話とは何の話なのだ?」

「キオの両親の話だ。」

あぁ、なるほど。その話をしないといけないわけね。別にいまさら思い出してつらくなる話ではないけど、あえて話したい話ではない。

「まさか、俺と同じ状態、なのか?」

「そうだ。」

「ガロと同じ状態?」

「俺も両親を失っている。どちらも冒険者だったからな。」

思わず息をのんだ。別に聞きたかったわけじゃないけど、ガロの両親なんて見たことないからもしかしてとは思ってた。でもほんとに僕と同じなら聞かなくって正解だったようだ。

「まぁ、僕もそう。両親は交通事故・・・っていってもわからないか。とにかくいないんだ。」

「そう、なのか・・・」

「キオをはじめとした人間を呼び込んでいるのは我ら原初の竜の作り出した力によるものだ。完璧に頼り切れると言えるような相手のいない魔素保有量に素質のある人間を1000年に一度呼び込む。どの世界のどんな時代の人間かは我らにもわからぬが、異世界に飛ばされそこで朽ちる運命となっても悲観しないものが選ばれる。」

なかなかとんでもない選出理由だけど、確かに僕には元の世界に未練ってものがあんまりない。しいて言うなら家賃は大丈夫かなとか銀行の残高はどうなったのかとかくらい。僕が行方知れずになったとしても僕のうちに直接大家とかでも来ない限り騒ぎにもならないだろう。

「どんな理由でニンゲンを呼び込んでいるんだ?」

「この世界の魔素の循環だ。魔素竜の生み出した魔素は濃厚で常にあふれ続けている。1000年もすればこの世界の住人だけでは濃くなりすぎて異変が起こり始める。大きく受け止める器としてこちらの世界に人間を呼び込み魔素を吸ってもらう。来た時点で大量に吸いこむので魔素が安定するのだ。」

「じゃあ、僕じゃなくって誰でもよかったってこと?」

「いったであろう?魔素保有量の高いものだと。魔素のない世界でも魔素保有量は一人一人違うものだ。そのなかでも先ほど言ったようにその世界に飽いたものが選ばれる。もちろん今回キオが選ばれたのは偶然だろう。」

やっぱ偶然は偶然なんだ。でも偶然でも何でも、今はこれでよかったと思えてる。

「そのニンゲンを呼び込むことは止められないのか?1000年後とはいえ、また騒動が起きてほしくないんだが。」

「無理だ。」

「・・・じゃあ、また1000年後にニンゲンはくるのか。」

「そうなる。我らがはるか過去に作った永久機能だ。四竜でつくりだしたものだから四竜そろわなければ解くことはできない。つまり今後解かれることはないだろう。」

「四竜集まるのが、難しいってこと?」

「その機関を作ってすぐに神創竜が消えたからな。すでにこの世界にはいない。」

「まさか、原初竜の一匹が死んだのか!?」

「いいや、他の世界にと旅立ち、そこで自ら神となるといっていた。詳しくはもはやわれにもわからぬ。」

ガロが焦ったように問い詰めたけど、死んでいなくってもこの世界にいないんだから同じようなものだ。神創竜ってくらいだから神となる三神を作り出したような存在だったのかな?でも自分が神になりたいって羨ましくでもなったんだろうか。

「神を作りし竜が、すでにいないのか・・・」

「悲観したところで、生命の巡りという点においてはこの世界はすでにほぼ完成している。発展の中で新たな神を必要としたとしても神創竜がいなくとも三神が作り出せる。もはや我ら原初の竜がいなくとも滅亡することなどまずあり得ぬ世界となったといえる。」

「・・・それもそうなのかもしれないが、レヴィーアさんはこのことを知っているのか?」

「我はレヴィーアと時折話している。そのなかで神創竜の話も魔素の循環の話もしている。レヴィーアの先代神殿長であったものとも話した。次の神殿長にも話すことになるだろう。」

「そうか。」

レヴィーアさんは僕が来るよりも早く人間が来るだろうってきっとしてったんだろう。神殿で囲い込むために一斉捜索とかされてなくってよかった。それとも人間には教会方面は不干渉なんだろうか?今となってはわからないけど、レヴィーアさんにまた話す機会があるかもしれないか。
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