妹に婚約者を奪われて追放された無能令嬢、追放先で出会った男性と一緒に小説を書いてベストセラーを目指します!妹達が邪魔してきますが負けません!

ゆうき

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第20話 都合の良い道具じゃないわ!!

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「お久しぶりです、お父様、お母様」
「ふんっ」

 一応娘としての建前がある私は、ドレスの裾を持ってお辞儀をするが、向こうは短く返事を返すだけで、とても貴族とは思えない失礼な態度を取っていた。

「お久しぶりですわお姉様。随分と気合の入った格好ね。それでも私の足元にも及びませんけど」
「よしなさいニーナ。そんな本当の事を突きつけたら、ルイスが泣いてしまうわ」
「……ちっ」

 相も変わらず、両親はニーナの事を溺愛しているみたいね。この扱いの差、昔を思い出してイライラするわ。

 あと気のせいかもしれないけど、ユースさんが軽く舌打ちをしていたような……? 空耳かしら。

「どうしてニーナがここに? アベル様と帰ってきたのは聞いてたけど」
「お姉様とお話をするためよ。あの日は外せない用事があって会えなかったので。アベル様から全部聞きましたわ……アベル様のお願いを断るとか何を考えてますの? もしかして仕返しのつもり? あ、わかったわ! 私とアベル様に嫉妬してるのね!」
「なに言ってるのよ。あんな意味のわからない要求なんて受ける訳ないでしょ」

 正直、酷い事をしたアベル様に仕返しをしたかった気持ちも無かったわけじゃない。けど……あんなふざけた要求なんて、私じゃなくても断るわよ。

「話は全てニーナから聞いておる。貴様のせいで、エクエス家の面目は丸つぶれだ」

 何が面目よ。そもそも私はもうエクエス家の人間じゃないのに、こんな時だけ都合よくエクエス家の人間にしないでもらいたい。

「ところでルイス、その男は誰だ。ワシが面会を許可したのは、従者はマリーだけだが」
「そんな話は聞いておりませんわ」
「ふんっ、一々口答えしおって。忌々しい娘だ。おい、この男をつまみ出せ!」
「なに勝手な事を仰ってるんです? この人を追い出すというなら、私は何も話さずに屋敷を去ります」
「…………」

 流石に私に帰られたら困るのか、お父様は忌々しそうな顔をしながら、やってきた使用人達を手で静止してみせた。

 そこまでして私と話したい事って何なのかしら? まあろくでもない事だろうけどね。

「仕方ない、この場にいる事を許そう。で、貴様は何者だ」
「はじめまして、私はユース・ディオス。彼女の担当編集者を務めております。プライベートでは恋仲でもあります」
「恋仲ぁ!? ドブネズミみたいに醜いお姉様を選ぶなんて、よっぽど見る目がないのね! あ、目が腐ってるとか?」
「よさんか。失礼をした、ディオス殿。娘は少々正直者なところがありましてな」
「いえ」

 相変わらず私を貶し続ける家族達に呆れていると、家族側からは見えないテーブルの下で、ユースさんが握り拳を作っているのが目に入った。余程力を入れているのか、両方の手のひらからは、血が滴り落ちている。

 私のために怒ってくれる気持ちは嬉しい。でも、そんなに怒らなくてもいいから。そんな痛い思いをしなくていいから。そう思いながら、そっと拳に手を乗せてあげると、私の意図を察してくれたのか、ユースさんの手から力が抜けた。

「ルイスと恋仲なのはどうでもいいが、編集者として話せるのは都合が良い。貴様とは後で会話の時間を設ける……まずはベストセラーおめでとう。ルイスを育てた親として、ワシらは鼻が高い」
「は、はぁ」

 って……ちょっと待って、育てられた覚え無いんだけど? 物心がついた時には、マリーの前任の侍女に面倒を見てもらってたし、ごはんは当然コックが作る。勉強は家庭教師が教えてくれてた。それ以外の生活面の事は、使用人達がやってくれた。両親からは何かされた事も、教わった事もないわ。

 強いて言うなら、私の成長を支えてくれた様々な人を雇うお金を払ってもらってたくらい? あと、散々私の事を貶したくらいかしら。

「その情報、どこから聞いたんです?」
「ニーナが教えてくれたのよ。名義は違うけど、この作家はルイスだってね」
「うむ。ルイスとニーナを育てるため、ワシらは多額の投資を行った。それ以外にも、ベルナール家への支援やニーナの小遣いなど、何かと出費がかさんでおってな。最近やや資金難に陥ってきておる。そこで、ルイスにはワシらのために物語を書き、印税を家に収める事を命ずる」
「「「……は?」」」

 あまりにも言っている意味がわからなすぎて、話を聞いていた私達の間の抜けた声が、綺麗に被ってしまった。

「言っている意味がわからんか? ルイスが書いて稼いだ金を、全てワシらに渡せと言っておる。何もアベル殿のような事を要求してるわけじゃないのだ。専属契約とか関係なかろう? ああ、その代わりに、屋敷に戻って来ることを許そう。またエクエス家の娘としての生活に戻れるのだぞ? これほど喜ばしい事はなかろう」

 ……なんていうか、『お金のためとはいえ、邪魔だから追い出した娘をまた迎え入れる自分達って本当に懐が深いなー』と言いたげに、三人揃って満足げな顔で頷いてる人達と、少しでも同じ血が通ってるって思うとゾッとするわ。

「そうですか。お断りしますわ」
「……ルイス? 良く聞こえなかったわ。もう一度言いなさい」
「ええお母様。ぜっっっったいに嫌です! お・こ・と・わ・り!!」

 わざと大きな声でゆっくりと、確実に伝わるように突きつけてやったら、お父様は顔を真っ赤にして、今にも掴みかかって来そうな勢いで立ち上がった。

「こ、この親不孝者が! アベル殿だけでは飽き足らず、ワシらの頼みも断るとは! 誰が育ててやったのか忘れたのか!?」
「忘れておりませんわ。生活は従者が、食事はコックが、勉強は家庭教師が……それ以外で言うなら、安全に暮らすために警備をしてくれている方たちや、その他諸々をしてくれた使用人。沢山の人に育てられました。ですが、その中にお父様とお母様は含まれてません」
「な……なんて酷い子なの……!」
「では聞きますが、お二人は私に何をしてくれました? 何を教えてくれました?」
「「…………」」

 私は眉間に力を入れながら両親を睨むと、怒られた子供の様に一気に大人しくなった。

「答えられるわけないですよね? ずっとニーナだけを愛していたんだもの。私の私物をニーナに奪われた時、一回でも味方をしてくれたことがありましたか? 私がアベル様に、ありもしない事で責められ、婚約破棄をされた場で便乗するように追放も宣言して、私がベストセラー作家だと知ったら、ここに住まわせてやるから金をよこせ? 舐めるのもいい加減にしなさいよ! 私は都合の良い道具じゃないわ!!」

 言ってて段々と怒りや憎しみ、そして悲しみが沸々と湧いてきた私は、最後の方には言葉を荒げてしまったが、両脇に座っているマリーとユースさんに手を握ってもらったおかげで、なんとか感情を抑えることが出来た。

 ほんと……自分で言っててなんだけど、何なのこの家。思い出せば出すほど、つらくて嫌な記憶しかないんだけど。

 そんな事を思っていると、ずっと黙っていたニーナが、一人でニヤニヤしながら私を見つめてきた。その目は、完全に私を見下しているのがわかる、とても嫌な目だった。

「なにキーキー喚いてるの? お姉様に拒否権なんてあるわけないじゃない。もうこの際、家にお金なんて入れなくていいから、早く私とアベル様の物語を書きなさいよ」
「は……? あんた、今までの話聞いてた?」
「聞いてたけど」

 アベル様に断った事も知ってるうえに、目の前で断られてるのに、普通そんな言葉が出てくる? 信じられないんだけど……。

「だから? 私の言葉は絶対なの。あ、あと私に逆らった罰として、マリーとその男を寄こしなさい。そうしたら許してあげる」
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