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第五話 いつか必ずお救いいたします!
「…………」
馬車に揺られながら、私は変わり果てたぬいぐるみを膝の上に置き、イヤリングが無くなってしまった耳をさすりながら、唇を強く噛みました。
悔やんでいたって、失った人も物も帰ってこない。それでも……悲しみや怒りがとめどなく溢れ、それが一筋の涙となって頬を伝いました。
「私……普通に生活出来れば、それでいいのに……どうしてあんな家に生まれてしまったのかしら。どうして……お姉様の代わりに、大変そうな家に嫁がないといけないのかしら」
なぜ……なぜ……なぜ……。
数えきれないほどのなぜには、一つも答えは無い。今の私に出来ることといえば、ただ自分の身に起こった不幸なことに対して、なぜそうなってしまったんだと、問いかけることだけだった。
「絶対に許さない……いつか必ず、後悔させてさしあげますわ……」
改めて家族への復讐を誓っていると、寂れた村へと到着しました。
この村は、フィルモート家の領地にある村の一つです。農業で生計を立てているのですが、重い税のせいでとても貧しく、村人達には活気がありません。
ここのような村が領地にはいくつもあって、苦しむ民がたくさんおります。
私はそんな方々を少しでも支えておりましたが……お相手次第では、もう来ることが出来なくなるかもしれません。
そう思ったら、いてもたってもいられなくて……気が付いたら、私は馬車を飛び降りておりました。
「なっ、シエル様!? 一体何を……おい、早く捕まえろ!」
私を送迎するために一緒に馬車に乗っていた使用人の命令で、護衛をしていた傭兵が私を追いかけてきます。
このままでは、間もなく私は捕まってしまうでしょう。その前に、彼らに……今も苦しんでいる彼らに、一言でも謝罪をしたい。
「皆様ー!!」
「えっ、シエル様?」
「どうして馬車から出てきたのかしら? いつもはお忍びだから、歩いて来られるのに……」
大きな畑で農作業をしていた村人の皆様に、急いで事の経緯を話し始めました。
「申し訳ございません、私……ローランお兄様以外の方と婚約をさせられてしまって! これからそのお方の家に行かされるところなのです!」
「な、なんだって!? 一体何があったのですか!?」
村の方々には、ローランお兄様のことは話しているから、今の言葉だけで私の身に起こっている異常事態は理解してくださいます。
「ローランお兄様が亡くなって、お姉様が婚約を破棄して、その身代わりに私が……もうこの地には、二度と来られないかもしれません……ですが、私は諦めません! 皆様にお伝えください! いつか必ず、皆様をこの地獄からお救いします! だから、希望を捨てないで!!」
「いたぞ! 捕まえろ!」
なんとか自分の気持ちとお別れの言葉を伝えるとほぼ同時に、追ってきた傭兵のお方に捕まった私は、村の皆様の動揺や悲しむ言葉を背に受けながら、無理やり馬車のところまで連れていかれてしまいました。
「まったく、お前が逃げたら俺達が何を言われるか、わかっていやがるのか!」
「がはっ……」
私を馬車に放り投げるようにして連れてきた傭兵のお方は、私のお腹に拳をめり込ませてきました。
痛みと衝撃で、一瞬意識が飛びかけましたが……こんな痛みなどに負けていられません。私は……家族に必ず復讐をして、皆様をお助けしなければなりませんもの。
そんなことを考えている間に、無事に新しい婚約者が待っている屋敷……シャルディー伯爵家に到着しました。
屋敷の入口では、この屋敷で働く多くの使用人達が、私の到着を出迎えてくれました。
当たり前ですが、実家の使用人との態度の違いに、少々動揺を隠せませんわ。
「ようこそお越しくださいました、シエル様。先にこれからあなた様にご利用していただくお部屋にご案内いたします」
「はい、よろしくお願いいたしますわ」
眼鏡が良く似合う知的な初老の男性使用人の案内の元、私はとても広くて清潔感のある部屋へと案内されました。
常識ではありえないような対応をしたフィルモート家への報復として、もっと酷い部屋を用意されてもおかしくないと思っておりましたが、杞憂のようでした。
いえ、むしろ実家の私の部屋なんて比にならないくらい、素敵な部屋ですわ。
「ところで、お荷物はどちらでしょう? 馬車にお忘れになられたのですか?」
「いえ。荷物はこれだけですの」
お姉様に切り裂かれたぬいぐるみが入った麻袋を彼に見せると、信じられないようなものを見た時のような、何とも言えない表情を浮かべておりました。
これでも、フィルモート家は数少ない侯爵の爵位を持つ家。その家の令嬢の荷物が、こんな麻袋に入れられていて、そのうえこれだけと言われれば、彼の態度も仕方がないものでしょう。
「では、これからシャルディー家の当主、エヴァン様の元へご案内いたします」
「よろしくお願いいたします」
ついに、私の新しい婚約者との対面ですわね……社交界で何度かお見かけしているとはいえ、今は全然状況が違いますゆえ、緊張してしまいます。
落ち着いて、冷静に……きっと不義理を働いた私に怒っているはず。ただでさえ相手のお方は、社交界でも有名なくらい恐ろしいお方……私の目的を果たすためにも、なんとか許してもらいませんと。
馬車に揺られながら、私は変わり果てたぬいぐるみを膝の上に置き、イヤリングが無くなってしまった耳をさすりながら、唇を強く噛みました。
悔やんでいたって、失った人も物も帰ってこない。それでも……悲しみや怒りがとめどなく溢れ、それが一筋の涙となって頬を伝いました。
「私……普通に生活出来れば、それでいいのに……どうしてあんな家に生まれてしまったのかしら。どうして……お姉様の代わりに、大変そうな家に嫁がないといけないのかしら」
なぜ……なぜ……なぜ……。
数えきれないほどのなぜには、一つも答えは無い。今の私に出来ることといえば、ただ自分の身に起こった不幸なことに対して、なぜそうなってしまったんだと、問いかけることだけだった。
「絶対に許さない……いつか必ず、後悔させてさしあげますわ……」
改めて家族への復讐を誓っていると、寂れた村へと到着しました。
この村は、フィルモート家の領地にある村の一つです。農業で生計を立てているのですが、重い税のせいでとても貧しく、村人達には活気がありません。
ここのような村が領地にはいくつもあって、苦しむ民がたくさんおります。
私はそんな方々を少しでも支えておりましたが……お相手次第では、もう来ることが出来なくなるかもしれません。
そう思ったら、いてもたってもいられなくて……気が付いたら、私は馬車を飛び降りておりました。
「なっ、シエル様!? 一体何を……おい、早く捕まえろ!」
私を送迎するために一緒に馬車に乗っていた使用人の命令で、護衛をしていた傭兵が私を追いかけてきます。
このままでは、間もなく私は捕まってしまうでしょう。その前に、彼らに……今も苦しんでいる彼らに、一言でも謝罪をしたい。
「皆様ー!!」
「えっ、シエル様?」
「どうして馬車から出てきたのかしら? いつもはお忍びだから、歩いて来られるのに……」
大きな畑で農作業をしていた村人の皆様に、急いで事の経緯を話し始めました。
「申し訳ございません、私……ローランお兄様以外の方と婚約をさせられてしまって! これからそのお方の家に行かされるところなのです!」
「な、なんだって!? 一体何があったのですか!?」
村の方々には、ローランお兄様のことは話しているから、今の言葉だけで私の身に起こっている異常事態は理解してくださいます。
「ローランお兄様が亡くなって、お姉様が婚約を破棄して、その身代わりに私が……もうこの地には、二度と来られないかもしれません……ですが、私は諦めません! 皆様にお伝えください! いつか必ず、皆様をこの地獄からお救いします! だから、希望を捨てないで!!」
「いたぞ! 捕まえろ!」
なんとか自分の気持ちとお別れの言葉を伝えるとほぼ同時に、追ってきた傭兵のお方に捕まった私は、村の皆様の動揺や悲しむ言葉を背に受けながら、無理やり馬車のところまで連れていかれてしまいました。
「まったく、お前が逃げたら俺達が何を言われるか、わかっていやがるのか!」
「がはっ……」
私を馬車に放り投げるようにして連れてきた傭兵のお方は、私のお腹に拳をめり込ませてきました。
痛みと衝撃で、一瞬意識が飛びかけましたが……こんな痛みなどに負けていられません。私は……家族に必ず復讐をして、皆様をお助けしなければなりませんもの。
そんなことを考えている間に、無事に新しい婚約者が待っている屋敷……シャルディー伯爵家に到着しました。
屋敷の入口では、この屋敷で働く多くの使用人達が、私の到着を出迎えてくれました。
当たり前ですが、実家の使用人との態度の違いに、少々動揺を隠せませんわ。
「ようこそお越しくださいました、シエル様。先にこれからあなた様にご利用していただくお部屋にご案内いたします」
「はい、よろしくお願いいたしますわ」
眼鏡が良く似合う知的な初老の男性使用人の案内の元、私はとても広くて清潔感のある部屋へと案内されました。
常識ではありえないような対応をしたフィルモート家への報復として、もっと酷い部屋を用意されてもおかしくないと思っておりましたが、杞憂のようでした。
いえ、むしろ実家の私の部屋なんて比にならないくらい、素敵な部屋ですわ。
「ところで、お荷物はどちらでしょう? 馬車にお忘れになられたのですか?」
「いえ。荷物はこれだけですの」
お姉様に切り裂かれたぬいぐるみが入った麻袋を彼に見せると、信じられないようなものを見た時のような、何とも言えない表情を浮かべておりました。
これでも、フィルモート家は数少ない侯爵の爵位を持つ家。その家の令嬢の荷物が、こんな麻袋に入れられていて、そのうえこれだけと言われれば、彼の態度も仕方がないものでしょう。
「では、これからシャルディー家の当主、エヴァン様の元へご案内いたします」
「よろしくお願いいたします」
ついに、私の新しい婚約者との対面ですわね……社交界で何度かお見かけしているとはいえ、今は全然状況が違いますゆえ、緊張してしまいます。
落ち着いて、冷静に……きっと不義理を働いた私に怒っているはず。ただでさえ相手のお方は、社交界でも有名なくらい恐ろしいお方……私の目的を果たすためにも、なんとか許してもらいませんと。
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