13 / 39
第十三話 この胸がきゅっとする感覚は?
しおりを挟む
シャルディー家で過ごすようになってから二週間が経ちました。
あれから私は、エレンを筆頭に多くの使用人にお願いをして、一通りの家事を教わりました。
お願いをした時は、主様の奥様にそんなことをさせられないと断られましたが、何度も説得をしたり、エヴァン様にもお願いをすることで、なんとかやらせてもらえるようになりました。
おかげで、まだ完璧とは言えませんが、色々なことが出来るようになりましたわ。
それと、最近は文字の勉強も始めましたの。
実は、私は幼い頃から社交界でのマナーや立ち振る舞いと言ったことは勉強させられましたが、文字の勉強はさせてもらえませんでした。
そのことを、エヴァン様に伝えたら、私に文字を教えると言ってくださいましたの。使用人の方々も、それに賛同してくださいました。
申し出はとてもありがたかったのですが、ただでさえ時間を割いて色々なことを教えてもらっているのに、これ以上は申し訳ないと思ったのですが……。
『俺の妻となる女性が、文字の読み書きも出来ないようでは困る』
……と、エヴァン様に言われたので、ありがたくその厚意を受け取ることにいたしました。
言い方は少しきついように聞こえるかもしれませんが、エヴァン様のことですから、こうでも言わないと私が首を縦に振らないとわかっての発言だったのでしょう。
おかげさまで、少しずつではありますが、文字の読み書きができるようになりましたわ。色々と教えてくれた皆様には、感謝しかございません。
もちろん、ただ幸せな生活を堪能していたわけではございません。私の目的を果たすための方法も、考えております。
実は、なんとか領民に会いにいく案は浮かんでおりまして、エヴァン様にご相談をして、その準備を一緒にしてもらっているのです。
「よし、今日はここまでにしておこう」
「お忙しいのに勉強を見てくださり、ありがとうございました」
「気にしなくていい。ちょうど空いている時間だったし、君と一緒に時間を過ごしたかったからな」
「エヴァン様……ふふっ、私も同じ気持ちですわ」
今日の勉強の先生は、なんとエヴァン様でした。本来なら別のお方が見てくれるはずだったのですが、家族の調子が悪いそうで、エヴァン様に半ば無理やり休暇にされ、実家に帰っているのです。
なので、その代わりにエヴァン様が私の勉強を見てくださったという次第です。
エヴァン様の教え方はとてもお上手なんですのよ。わかりやすくかみ砕いて教えてくださるので、スッと頭に入ってきますの。
……本当に、エヴァン様は会話が苦手なのか、最きい疑問に思えて来ましたわ。もしかして、自分が苦手と思っているだけで、普通に話せるのではないでしょうか?
「…………」
「エヴァン様?」
「ああ、すまない。少しぼんやりとしてしまった。俺はそろそろ仕事に戻らないといけないから、これで失礼する」
「わかりました。本日はありがとうございました」
「どういたしまして。また夕食の時に会おう」
いつもの様に私の元を去るエヴァン様でしたが、一瞬だけ足元がおぼつかない様子だったのを、私は見逃しませんでした。
先程もぼんやりしておりましたが、もしかして具合が悪いのではないでしょうか? もしそうなら、私の力ですぐに治してさしあげなければ。
「まったく主様は、シエル様の前ではいつでも強がっておられるのですよ」
「強がってるって、やはり具合が悪いのですか?」
「いえ、そういうわけではありません。主様は、シエル様の勉強を自分も教えたいからと、お休みの時間を削って、無理に時間をあけていたのですよ」
「そんな、私のために……?」
「もちろんそれもありますが、主様は少しでもあなたと同じ時間を過ごしたいのでしょう」
エヴァン様の気持ちはとても嬉しい。彼の気持ちを受け取ると暖かい気持ちになりますし、胸がきゅっと締め付けられるような、不思議な感じがします。
だからといって、自分の休息の時間を削ってまでするのは、少々やり過ぎですわ。それで体を壊してしまっては、元も子もありませんもの。
「それだけ、あなたのことが大切ということですよ。それが、上手く言葉にして伝えられていないだけです」
「そのお気持ちはとても嬉しいのですが、どうしてエヴァン様はそんなに私を大切にしてくれるのでしょう?」
ここに来てから、エヴァン様の対応はあまりにも良すぎる。溺愛してもらっているといっても過言ではないでしょう。
いくら婚約者といっても、そこまでしていただける覚えは、全然ありません。
「主様には、主様なりのお考えがあるのでしょう。それを私が代弁するのは、少々筋違いかと」
「そうですわよね……変なことをお聞きして、申し訳ございませんでした」
「いえいえ。話は変わりますが、そろそろコック達が夕飯の支度を始める頃です。今日はいかがされますか?」
「皆様がよろしければ、今日もお手伝いを兼ねて、料理の勉強をさせてほしいです」
「かしこまりました。私の方から彼らにお伝えしてきますので、少しお休みくださいませ。では、後ほど」
今日も綺麗なお辞儀をしたエレンを見送った私は、ベッドに倒れこみながら、少し縫い目が目立つ、ネコのぬいぐるみを抱きしめました。
「本当に……どうしてそんなに優しくしてくれるのでしょう?」
ぬいぐるみに顔をうずめながら、ぽつりと呟く。
このぬいぐるみだって、エヴァン様がどうしてこれだけ持ってきたのかとか、どうしてボロボロなのか聞かれて事情をお話したら、彼が自分の手で直してくださったのですよ? 明らかに、優しいの範疇を超えていると思いますわ。
「はぁ……」
最近、エヴァン様のことを考えていると、この胸がきゅっとすることが増えてきております。それも、頻度が日に日に増してきている自覚もございます。
「嫌な感じというわけではありませんが……お母様、ローランお兄様、これって一体何なのでしょう? 私には、わかりませんわ……」
――結局私は答えが出ないまま、エレンが呼びに来るまで、悶々とした気持ちでいることとなりました。
あれから私は、エレンを筆頭に多くの使用人にお願いをして、一通りの家事を教わりました。
お願いをした時は、主様の奥様にそんなことをさせられないと断られましたが、何度も説得をしたり、エヴァン様にもお願いをすることで、なんとかやらせてもらえるようになりました。
おかげで、まだ完璧とは言えませんが、色々なことが出来るようになりましたわ。
それと、最近は文字の勉強も始めましたの。
実は、私は幼い頃から社交界でのマナーや立ち振る舞いと言ったことは勉強させられましたが、文字の勉強はさせてもらえませんでした。
そのことを、エヴァン様に伝えたら、私に文字を教えると言ってくださいましたの。使用人の方々も、それに賛同してくださいました。
申し出はとてもありがたかったのですが、ただでさえ時間を割いて色々なことを教えてもらっているのに、これ以上は申し訳ないと思ったのですが……。
『俺の妻となる女性が、文字の読み書きも出来ないようでは困る』
……と、エヴァン様に言われたので、ありがたくその厚意を受け取ることにいたしました。
言い方は少しきついように聞こえるかもしれませんが、エヴァン様のことですから、こうでも言わないと私が首を縦に振らないとわかっての発言だったのでしょう。
おかげさまで、少しずつではありますが、文字の読み書きができるようになりましたわ。色々と教えてくれた皆様には、感謝しかございません。
もちろん、ただ幸せな生活を堪能していたわけではございません。私の目的を果たすための方法も、考えております。
実は、なんとか領民に会いにいく案は浮かんでおりまして、エヴァン様にご相談をして、その準備を一緒にしてもらっているのです。
「よし、今日はここまでにしておこう」
「お忙しいのに勉強を見てくださり、ありがとうございました」
「気にしなくていい。ちょうど空いている時間だったし、君と一緒に時間を過ごしたかったからな」
「エヴァン様……ふふっ、私も同じ気持ちですわ」
今日の勉強の先生は、なんとエヴァン様でした。本来なら別のお方が見てくれるはずだったのですが、家族の調子が悪いそうで、エヴァン様に半ば無理やり休暇にされ、実家に帰っているのです。
なので、その代わりにエヴァン様が私の勉強を見てくださったという次第です。
エヴァン様の教え方はとてもお上手なんですのよ。わかりやすくかみ砕いて教えてくださるので、スッと頭に入ってきますの。
……本当に、エヴァン様は会話が苦手なのか、最きい疑問に思えて来ましたわ。もしかして、自分が苦手と思っているだけで、普通に話せるのではないでしょうか?
「…………」
「エヴァン様?」
「ああ、すまない。少しぼんやりとしてしまった。俺はそろそろ仕事に戻らないといけないから、これで失礼する」
「わかりました。本日はありがとうございました」
「どういたしまして。また夕食の時に会おう」
いつもの様に私の元を去るエヴァン様でしたが、一瞬だけ足元がおぼつかない様子だったのを、私は見逃しませんでした。
先程もぼんやりしておりましたが、もしかして具合が悪いのではないでしょうか? もしそうなら、私の力ですぐに治してさしあげなければ。
「まったく主様は、シエル様の前ではいつでも強がっておられるのですよ」
「強がってるって、やはり具合が悪いのですか?」
「いえ、そういうわけではありません。主様は、シエル様の勉強を自分も教えたいからと、お休みの時間を削って、無理に時間をあけていたのですよ」
「そんな、私のために……?」
「もちろんそれもありますが、主様は少しでもあなたと同じ時間を過ごしたいのでしょう」
エヴァン様の気持ちはとても嬉しい。彼の気持ちを受け取ると暖かい気持ちになりますし、胸がきゅっと締め付けられるような、不思議な感じがします。
だからといって、自分の休息の時間を削ってまでするのは、少々やり過ぎですわ。それで体を壊してしまっては、元も子もありませんもの。
「それだけ、あなたのことが大切ということですよ。それが、上手く言葉にして伝えられていないだけです」
「そのお気持ちはとても嬉しいのですが、どうしてエヴァン様はそんなに私を大切にしてくれるのでしょう?」
ここに来てから、エヴァン様の対応はあまりにも良すぎる。溺愛してもらっているといっても過言ではないでしょう。
いくら婚約者といっても、そこまでしていただける覚えは、全然ありません。
「主様には、主様なりのお考えがあるのでしょう。それを私が代弁するのは、少々筋違いかと」
「そうですわよね……変なことをお聞きして、申し訳ございませんでした」
「いえいえ。話は変わりますが、そろそろコック達が夕飯の支度を始める頃です。今日はいかがされますか?」
「皆様がよろしければ、今日もお手伝いを兼ねて、料理の勉強をさせてほしいです」
「かしこまりました。私の方から彼らにお伝えしてきますので、少しお休みくださいませ。では、後ほど」
今日も綺麗なお辞儀をしたエレンを見送った私は、ベッドに倒れこみながら、少し縫い目が目立つ、ネコのぬいぐるみを抱きしめました。
「本当に……どうしてそんなに優しくしてくれるのでしょう?」
ぬいぐるみに顔をうずめながら、ぽつりと呟く。
このぬいぐるみだって、エヴァン様がどうしてこれだけ持ってきたのかとか、どうしてボロボロなのか聞かれて事情をお話したら、彼が自分の手で直してくださったのですよ? 明らかに、優しいの範疇を超えていると思いますわ。
「はぁ……」
最近、エヴァン様のことを考えていると、この胸がきゅっとすることが増えてきております。それも、頻度が日に日に増してきている自覚もございます。
「嫌な感じというわけではありませんが……お母様、ローランお兄様、これって一体何なのでしょう? 私には、わかりませんわ……」
――結局私は答えが出ないまま、エレンが呼びに来るまで、悶々とした気持ちでいることとなりました。
641
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?
藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。
セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。
あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。
呪い…解いてもいいよね?
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる