【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき

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第三十話 お友達になってください!

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「ごくろうさんじゃったな。して、どうして主らが運んできたのじゃ?」

「ご、ごめんなさい! 日直の人は都合が悪くて……代わりにクラス委員長のわたしと、お手伝いしてくれたこのお二人が持ってきたんです!」

「そうかいそうかい。確かソーニャといったな。主は真面目な子じゃなぁ」

 先程の授業を担当している、とてもご高齢な先生は、ソーニャちゃんの頭を撫でながら、目を細める。
 ソーニャちゃんも恥ずかしがってはいたものの、尻尾が揺れているのを見るに、喜んでいるんだと思う。

 とにかく無事にノートを運ぶことが出来てよかった。時間もまだ余裕があるし、これでソーニャちゃんが誰かに責められたり、怒られたりすることはないよね。

「先生、お話中に恐縮ですが、僕達の次の授業が体育でして、急いで着替えに行かないとならないのです」

「おお、そうじゃったか。ではもう行くといい。ふむ、あの日直め……減点じゃな」

 一人でブツブツと言っている先生に頭を下げてから、私達は職員室を後にした。

「あのっ、本当にありがとうございました! お二人のおかげで、とても助かりました!」

 職員室を出た直後に、ソーニャちゃんは首がどこかに飛んでしまうんじゃないかと思うくらいの勢いで、何度も何度も私達に頭を下げた。

「そんな、大したことはしてないので、気にしないでください! それに、困った時はお互い様です!」

「そうだね。ただ……本当は僕が全部持ってあげたかった。全部持つって言ったら、君達は絶対に遠慮するだろうから、控えたけどね」

「それは否定できませんね……」

 恐らく、気持ちだけ受け取って、私も手伝うって流れになるんだろうなぁ。

「このお礼は必ず! それじゃあ、わたしは先に失礼します!」

「えっ? よかったら、一緒に着替えに行きませんか?」

「その……ちょっとお手洗いに行きたいので……」

「ご、ごめんなさい! 私、そこまで気が回らなかったです!」

「こちらこそごめんなさいです……で、では後で!」

 よほど我慢をしていたのか、ソーニャちゃんはちょっとよたよたしながら、なんとかお手洗いのある方へと歩いて行った。

 最後の最後で、失礼なことを言ってしまった。ソーニャちゃんに悪いことをしちゃったな。

「僕達も、一度教室に戻って着替えを取ってこようか」

「そうですね。時間もないですし、急ぎましょう」

 廊下は走ると怒られてしまうので、あくまで早歩きで教室に向かう途中、エルヴィン様がなにか言いたそうに、私に顔を向けていた?

「どうかしましたか?」

「アイリーン、ずっとソーニャのことを気にかけているよね」

「ええ。元々お礼をしたかったですし、面倒事を押し付けられてるのは、見ていられなくて……今までは、もしかしたら本当に困ってて、ソーニャちゃんに仕方なくお願いしているのかもって思うようにして、必死に自分を押し殺してたんですが……我慢できなくなってしまいました」

「そうだろうなって思ってたよ。何度か助けに行こうとして、何とか思いとどまってたもんね。だから僕も、ソーニャを手伝いたかったけど我慢してたんだ」

 このことはエルヴィン様には伝えていないのに、全てお見通しだったなんて、さすがはエルヴィン様だ。

「ふふっ、さすがは僕達。相性も考えてることもピッタリだ」

「あ、相性は関係ないような気がしますが……」

 要所要所で、エルヴィン様は恥ずかしくなることを言ってくる。でも、それを嬉しいと思っている自分がいるのも確かで……それを象徴するように、モフモフの尻尾が楽しそうに揺れていた。


 ****


「あの、アイリーンさん……少しいいですか?」

「ソーニャちゃん? どうかしましたか?」

 翌日の昼休み、今日は何を食べようか考えていると、ソーニャちゃんがおずおずとした様子で話しかけて来てくれた。

「えっと、さっきのお礼に……一緒にお昼ご飯、食べませんか?」

「お昼!? わぁ、いいの!?」

 エルヴィン様以外の人にお昼を誘われたことってないし、まさかソーニャちゃんが自分から誘ってくれるって思ってなかったから、凄く嬉しいよ!

「えへへ……では行きましょう。あ、実はエルヴィンさんも誘ってて、先に待っているそうです」

「そうなんですね。それじゃあ行きましょ!」

 ルンルン気分で食堂へ向かうと、先に来て席を確保してくれていたエルヴィン様と合流することが出来た。

「やあ、来たね。そろそろ準備が出来るそうだから、座って待っていようか」

「準備?」

 どういうことなのか首を傾げつつも、言われた通りに座って待っていると、私達の前にとてもおいしそうなきつねうどんが出てきた。

「わぁ……こ、これって……!」

「わ、わたし……実はこの学園の食堂の責任者の人と、顔見知りでして……今回のことを話したら、特別なメニューを作ってくれたんです」

「それが、このきつねうどん? でも、どうして知ってるんですか?」

「今朝、エルヴィンさんにお二人の好きなものを聞きまして……おあげが沢山のスペシャルきつねうどんを作ってもらったんです」

「え? エルヴィン様も、きつねうどんが?」

「実はそうなんだ。以前君とデートに行った時に食べたきつねうどんが、忘れられなくてね。好物になったんだ」

 エルヴィン様も私と同じものを好きになってくれたなんて、なんだか嬉しいな。今日は嬉しいことがいっぱいあって、とても幸せな一日だよ。

「それじゃあ、いただきます……わぁ~! おいしぃ~! いつも食べているものより味が濃くて、でもくどくなくて……とにかくおいしい!」

「スペシャルというだけあって、おあげがかなり分厚いから、食べ応えがあると同時に、スープ……じゃなくて汁だったかな? これを多く吸い込んで、更にボリュームの満足感が増えている。本当においしいね!」

「えへへ……! 喜んでくれてよかった……!」

「あーっ!」

「どうかしたのかい?」

「ソーニャちゃんが、初めて笑った! やっぱり、笑った顔の方が何百倍も素敵ですね!」

「そ、そんなこと……」

「いや、素敵です! 何百倍も、何千倍も……何万倍も素敵です!!」

 こんなに凄いんだよと、体を大きく広げて力説する。それに便乗するように、私の尻尾も上下に大胆に動いている。

 今なら、エルヴィン様が過剰に私を褒めたくなる気持ちが、少しわかるかもしれない。だって、目の前に褒められる子がいたら、褒めてあげたくなるもの!

「私、そんな素敵なソーニャちゃんと、初めての友達になりたいです! ねねっ、どうですか?」

「えぇ!? わたしがお友達って……そんな、申し訳ないですよ……お二人の邪魔をしちゃうし……」

 あまりにも突然のお願い過ぎたのか、ソーニャちゃんは手をパタパタさせて驚いている。まるで小動物みたいで、とっても可愛い。

 それよりも、私達の邪魔って一体どういう……あっ、もしかして!?

「え、えっとね! 私達は、まだそういう関係じゃないですから、大丈夫!」

「そうだね。今はまだね。でも、君が友人になってくれるというのは、とても嬉しいよ。なにせ、僕も彼女も、友人というものが一人もいないんだ」

「そ、そうなんですか? わたしと……同じですね。わたしもこんな性格なので、友達が出来なくて……」

 確かに内気な性格だとは思うけど、それはただの個性に過ぎないから、拒絶をする理由にならない。

「そんなの気にしませんよ! 私、ソーニャちゃんの真面目なところとか、困ってる人を助けようとするところとか、ちゃんとしてもらったことに対してお返しをするところか、他にも大好きなところが沢山あるんですよ!」

「ふぇぇ……!? は、恥ずかしいです……!」

「あっ……もちろん、強制は絶対にしません。友達は、押し付けてなるものじゃないですからね」

 しばらく考えた後、ソーニャちゃんは両手を差し出して……私達の片手をギュッと掴み――

「わ、わたしも……あなた達のような素敵な人と、お友達になりたい……ふ、ふちゅちゅかものですが、仲良くしてください」

 こうして何とも可愛らしい挨拶の元、私とエルヴィン様は、ソーニャちゃんと初めての友達になった。
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