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第十六話 正体
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私達の前には、確かにカイン様のお姿がありました。しかし、その姿は少々普通とはかけ離れておりました。
何故なら、カイン様の背中には真っ黒な羽があり、手に持っている剣は不自然に赤黒く光っていたのです。
あの光、さっきこの方の手に刺さっていた物と同じ色をしています。きっとさっき私を助かったのは、カイン様のおかげでしょう。
「どうしてここがわかった!?」
「君達が襲った御者と、彼女の小さな家族が俺を導いたんだ」
淡々と話すカイン様の足元には、モコが唸り声を上げていました。所々が赤く染まっていて、見ていて心が苦しくなってきます。
「モコ、その怪我は……!?」
「心配ないよ。先ほど確認したが、所々を切って出血しているだけだ。命に別状は無い」
「ワンッ!!」
「本当に? 良かった、本当に良かった……!」
彼らに酷い事をされたと聞いて、とても不安でしたが……怪我をしているとはいえ、無事で良かったですわ。
「やれやれ、以前も似たような状況があったが……まあいい。民間人に手を出した挙句、拉致するなど言語道断。もう君達を許すつもりはないから、覚悟するといい」
そう言うと、カイン様は怪しく光る剣を振り下ろしました。すると、同じ色の衝撃波のような物が生まれ、スキンヘッドの男性以外の方を、一発で倒してしまいました。
すごい、あんなの普通の方には絶対にできない芸当ですわ。きっとあれがヴァンパイアの力の一端なのでしょう。
こんな時に不謹慎なのは重々承知ですが……とてもカッコよく見えてしまいましたわ。
「心配するな。俺は人殺しじゃない……彼らはちゃんと生きている。とはいえ、このまま抵抗をするなら、彼らと同じ目に合うのは避けられない。それが嫌なら、マシェリーを開放して、投降するんだ」
「く、来るんじゃねえ! この女がどうなってもいいのか!?」
ここまで追い詰められているにも関わらず、彼は私の首元に剣を当ててきました。あと少し動いたら、私の喉は斬られてしまうくらいの距離ですわ。
「この期に及んで、まだ卑劣な手を使うのですか! それでも本当に騎士団の一員ですか!?」
「うるせぇ! 騎士団とかどうでもいい! 俺は元々金を稼ぐ為に騎士団に入ったにすぎない! 正義とか、国の為とか聞くと反吐が出るぜ!」
このっ……! とことん最低な男ですわ! 本来騎士というのは、正義の名の下に、国や民を守る為の存在です。お金を稼ぐのも大事ですが、その為に本来守るべき者を蔑ろにするなんて!
「君が正義に興味が無いのは知っていた。俺の事を良く思っていなかったのも。しかし、訓練はしっかりやっていたから、騎士団の戦力を落とさない為に目を瞑ってたが……その判断を心底悔やんでるよ」
「そんな御託はどうでもいい! さあ、この女が死んでほしくなければ、さっさと投降しろ! そして、騎士団長を降りて消えちまえ!」
「俺はそんな脅しに屈しない」
とても頼もしい事を仰るカイン様でしたが、その発言とは真逆の行動を取りました。
カイン様は……なんと、持っていた剣を地面に放り投げたのです。そして、背中に生えていた翼も、跡形もなく消えてしまいました。
「……と言いたいが、立場なんかよりも、マシェリーの命の方が重い。大人しく言う事を聞くから、マシェリーを解放しろ」
「何を仰ってるのですか!? お父様のような、立派な騎士団長になるのでしょう!?」
「ああ、その通りだよ。でも、それは君の命を犠牲にしてまで叶えるものではない。きっと父も許してくれるだろうさ」
フッと笑うカイン様の表情が、私にはとても無理しているように見えて……悲しくて、そして自分の無力さを嘆きました。
こんな所で、彼の夢を邪魔したくない! 私の事なんてどうなっても良いから、彼に立派な騎士団長になって、沢山の人に認められてほしい!!
「私は……あなたのお荷物にはなりたくない。私の事は気にせず、この男を捕まえてくださいませ!」
「マシェリー……」
「あなたはこんな所で立ち止まってはいけません! あなたの努力、そしてあなたは皆に認められるべきですわ!」
まだ出会ってさほど時は経っておりませんが、私はカイン様がとても頑張っているのを知っています。
それでも認められないなんて……おかしいです! だから、これからも頑張って……負けずに、夢を目指してほしい! 皆に認められてほしい! それが私の願いなのです!
「ふふっ……あはははは! こいつはとんだお涙頂戴劇だぜ! 悲しくて涙が溢れそうだ!」
「黙りなさい! あなたのような最低な人間に、カイン様を笑う資格など、未来永劫ありませんわ!」
「うん、そうだね。これだから人間って馬鹿だよね~!」
「ええ、その通り……え?」
何気なく答えてしましましたが、今の声は誰でしょう? 私でも、カイン様でも、この方の声でもない……なんていうか、とても幼い男の子のような声でしたわ。
「俺の気のせいかもしれないが……モコ、喋ってないか?」
「……え、モコ? そんな……きゃあ!?」
そんなわけはないと言おうとした矢先、モコの体が眩い光に包まれました。そして、光が収まった所にいたのは……人が二人程度なら乗れそうな、巨大な白い犬の姿がありました。
「え、は……? も、モコ?」
「えーっと、コホン……愚かな人間よ。我は魔犬の末裔だ。我が本気を出せば、一山を軽く超え、大地を割り、海の水を飲み干す。無論、貴様が逃げた所で、我は地の果てまで追いかけ、主人を悲しませた貴様の四肢を食いちぎろう」
「は、はぁ!? ふざけんな、こんなバケモノ二匹に叶うはずもねえ……た、助けてくれぇぇぇぇ!!」
情けなく喚き叫びながら、彼は仲間達を置いて逃げていってしました。本当に、最初から最後まで最低な男でしたわ。
そんな事よりも、私はこっちを確認しなければ……だって、モコが……こんな立派な姿になってしまったんですよ? カイン様の力もお聞きしたいですし、安否の確認も……ああもう、色々あり過ぎて、頭が沸騰しそうですわ!
何故なら、カイン様の背中には真っ黒な羽があり、手に持っている剣は不自然に赤黒く光っていたのです。
あの光、さっきこの方の手に刺さっていた物と同じ色をしています。きっとさっき私を助かったのは、カイン様のおかげでしょう。
「どうしてここがわかった!?」
「君達が襲った御者と、彼女の小さな家族が俺を導いたんだ」
淡々と話すカイン様の足元には、モコが唸り声を上げていました。所々が赤く染まっていて、見ていて心が苦しくなってきます。
「モコ、その怪我は……!?」
「心配ないよ。先ほど確認したが、所々を切って出血しているだけだ。命に別状は無い」
「ワンッ!!」
「本当に? 良かった、本当に良かった……!」
彼らに酷い事をされたと聞いて、とても不安でしたが……怪我をしているとはいえ、無事で良かったですわ。
「やれやれ、以前も似たような状況があったが……まあいい。民間人に手を出した挙句、拉致するなど言語道断。もう君達を許すつもりはないから、覚悟するといい」
そう言うと、カイン様は怪しく光る剣を振り下ろしました。すると、同じ色の衝撃波のような物が生まれ、スキンヘッドの男性以外の方を、一発で倒してしまいました。
すごい、あんなの普通の方には絶対にできない芸当ですわ。きっとあれがヴァンパイアの力の一端なのでしょう。
こんな時に不謹慎なのは重々承知ですが……とてもカッコよく見えてしまいましたわ。
「心配するな。俺は人殺しじゃない……彼らはちゃんと生きている。とはいえ、このまま抵抗をするなら、彼らと同じ目に合うのは避けられない。それが嫌なら、マシェリーを開放して、投降するんだ」
「く、来るんじゃねえ! この女がどうなってもいいのか!?」
ここまで追い詰められているにも関わらず、彼は私の首元に剣を当ててきました。あと少し動いたら、私の喉は斬られてしまうくらいの距離ですわ。
「この期に及んで、まだ卑劣な手を使うのですか! それでも本当に騎士団の一員ですか!?」
「うるせぇ! 騎士団とかどうでもいい! 俺は元々金を稼ぐ為に騎士団に入ったにすぎない! 正義とか、国の為とか聞くと反吐が出るぜ!」
このっ……! とことん最低な男ですわ! 本来騎士というのは、正義の名の下に、国や民を守る為の存在です。お金を稼ぐのも大事ですが、その為に本来守るべき者を蔑ろにするなんて!
「君が正義に興味が無いのは知っていた。俺の事を良く思っていなかったのも。しかし、訓練はしっかりやっていたから、騎士団の戦力を落とさない為に目を瞑ってたが……その判断を心底悔やんでるよ」
「そんな御託はどうでもいい! さあ、この女が死んでほしくなければ、さっさと投降しろ! そして、騎士団長を降りて消えちまえ!」
「俺はそんな脅しに屈しない」
とても頼もしい事を仰るカイン様でしたが、その発言とは真逆の行動を取りました。
カイン様は……なんと、持っていた剣を地面に放り投げたのです。そして、背中に生えていた翼も、跡形もなく消えてしまいました。
「……と言いたいが、立場なんかよりも、マシェリーの命の方が重い。大人しく言う事を聞くから、マシェリーを解放しろ」
「何を仰ってるのですか!? お父様のような、立派な騎士団長になるのでしょう!?」
「ああ、その通りだよ。でも、それは君の命を犠牲にしてまで叶えるものではない。きっと父も許してくれるだろうさ」
フッと笑うカイン様の表情が、私にはとても無理しているように見えて……悲しくて、そして自分の無力さを嘆きました。
こんな所で、彼の夢を邪魔したくない! 私の事なんてどうなっても良いから、彼に立派な騎士団長になって、沢山の人に認められてほしい!!
「私は……あなたのお荷物にはなりたくない。私の事は気にせず、この男を捕まえてくださいませ!」
「マシェリー……」
「あなたはこんな所で立ち止まってはいけません! あなたの努力、そしてあなたは皆に認められるべきですわ!」
まだ出会ってさほど時は経っておりませんが、私はカイン様がとても頑張っているのを知っています。
それでも認められないなんて……おかしいです! だから、これからも頑張って……負けずに、夢を目指してほしい! 皆に認められてほしい! それが私の願いなのです!
「ふふっ……あはははは! こいつはとんだお涙頂戴劇だぜ! 悲しくて涙が溢れそうだ!」
「黙りなさい! あなたのような最低な人間に、カイン様を笑う資格など、未来永劫ありませんわ!」
「うん、そうだね。これだから人間って馬鹿だよね~!」
「ええ、その通り……え?」
何気なく答えてしましましたが、今の声は誰でしょう? 私でも、カイン様でも、この方の声でもない……なんていうか、とても幼い男の子のような声でしたわ。
「俺の気のせいかもしれないが……モコ、喋ってないか?」
「……え、モコ? そんな……きゃあ!?」
そんなわけはないと言おうとした矢先、モコの体が眩い光に包まれました。そして、光が収まった所にいたのは……人が二人程度なら乗れそうな、巨大な白い犬の姿がありました。
「え、は……? も、モコ?」
「えーっと、コホン……愚かな人間よ。我は魔犬の末裔だ。我が本気を出せば、一山を軽く超え、大地を割り、海の水を飲み干す。無論、貴様が逃げた所で、我は地の果てまで追いかけ、主人を悲しませた貴様の四肢を食いちぎろう」
「は、はぁ!? ふざけんな、こんなバケモノ二匹に叶うはずもねえ……た、助けてくれぇぇぇぇ!!」
情けなく喚き叫びながら、彼は仲間達を置いて逃げていってしました。本当に、最初から最後まで最低な男でしたわ。
そんな事よりも、私はこっちを確認しなければ……だって、モコが……こんな立派な姿になってしまったんですよ? カイン様の力もお聞きしたいですし、安否の確認も……ああもう、色々あり過ぎて、頭が沸騰しそうですわ!
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