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第十七話 オイラは魔犬!!
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私は急いでカイン様と、モコ……? のような大きな犬の元へと駆け寄りました。
本当に大きいです……今までずっと見下ろしていたはずが、今では完全に見上げる立場になってしまっております。
「マシェリー、無事か? どこか痛いところは?」
カイン様は、私の肩をがっしりと掴むと、体に怪我が無いかを念入りに調べ始めました。
心配してくださるのは嬉しいですが、そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいです!
「所々に痛みを感じますが、酷い怪我ではありませんわ。だからその、そんなにジロジロ見ないでいただけると」
「あ、うん……すまなかった。心配でつい」
「全く、これだからこいつは油断ならないんだぞ、ご主人!」
流暢に人間の言葉を話すモコの姿が、どうしても信じられませんわ。だって、ずっと普通の犬だったのに……こんな大きな姿になって、言葉を喋っているのですもの。
「……まさか君が魔犬の末裔だったとはね」
「うるさいっ! ご主人に色目を使う、悪い奴め! オイラの目が黒いうちは、もうチューなんてさせないぞ! けど、今回も助けてくれたのは、感謝してるぞ!」
「えっと……その、お二人共怪我はありませんか?」
「俺は問題ない」
「オイラは少しけっ飛ばされて血が出たけど、舐めておけば治るさ!」
これだけ元気に話しているのを見た感じ、本当に大丈夫なんでしょうけど、やはり心配なものは心配ですわ。帰ったら、念の為に検査してもらいましょう。動物病院で診てもらえるかしら……?
「ところでご主人! さっきのオイラ、怖かったでしょ! オイラの父ちゃんの話し方をマネしてみたんだぜ! えっへん!」
「え、ええ……」
「モコ、俺もマシェリーも、状況についていけてない。説明してもらえるか?」
そうですわね、モコは普通の犬じゃないって事がわかっただけですし、本人からしっかりとした説明が欲しいですわ。
「説明って言われてもなぁ……オイラは元々魔犬なんだけど、山火事で故郷が燃えちゃってさ。仕方なく人間の世界で生活する為に、いつもは小さい犬になってるんだ。オイラは未熟だから、この姿だと体力の消費も激しいしね。小さい時は力が弱くて……人間にいじめられてた所を、ご主人に助けてもらった! だから恩返しとして、一緒にいてご主人を守ってた! 今回は凄くピンチだったから、少しだけこの姿に戻って助けたってわけさ!」
故郷が無くなったなんて……モコも苦労していたんですわね……あの日、街で出会って……助けられて本当に良かったですわ。
「そうでしたのね。あっ! もしかして、あの時に蓄音石を持ってたのって!」
「うん! 前にご主人が用事でいなかった時、一匹で暇だったから城を探検した時にね、倉庫から見つけたんだ! 何かあった時に、証拠に出来るようにって!」
どうしてあの時、タイミングよくモコが蓄音石なんて持っていたのか、これでようやくわかりましたわ! これだけ人間と大差ない知能なら、蓄音石を持っていたのも、録音出来たのも納得です!
「それで、あのババアが変な話をしてる所をたまたま見かけたから、録音しておいたってわけさ!」
「ば、ババアって……」
「あいつはご主人をいじめてた悪い奴だ! だからババアでいいの! ちなみにコルエはクソガキね!」
私、そんな汚い言葉を教えた事は無いのですが……モコの気持ちはわかりますけど……今度、もう少し綺麗な言い方を教えてあげましょう。
「一つ疑問がある。そんな立派な姿になれるのなら、初めて出会った時に、俺に助けを求めずに、その姿でマシェリーを助けられたんじゃないか?」
「大好きなご主人に怖がられたくないから、なるべくこの姿にはなりたくないんだよ! それに、匂いでお前らが近くにいるのもわかってたしな! もし仮に、あの時お前に会ってなかったら、この姿になって助けてたさ!」
「そうか。変な事を聞いてすまなかった」
「まあ今回は許してやるぞ! 聞きたい気持ちもわかるしな!」
こうしてお二人が話しているのを聞いていると、仲が良いのかそうではないのか、よくわからないですわ。モコはカイン様を嫌っていると思ってましたが、案外そうではないのかもしれません。
って、そんな考察をのんびりしている場合じゃないです。ご迷惑をおかけした事を謝罪しないと。
「その、今回は……いえ、今回も申し訳ございませんでした。カイン様とモコを巻き込んでしまって」
「俺の方こそすまなかった。元はといえば、騎士団の問題なのに、君を巻き込んでしまった」
「オイラは全然気にしてないぜ! ご主人が無事ならそれでいいのさ!」
お二人共、本当にお優しいですわ……厄介事に巻き込んでばかりですし、怒られるのは当然、縁を切ってもおかしくないというのに。
「それにしても……こんな形でバレちゃうとはなぁ。まあ仕方ないか! カイン、これからはオイラの代わりにご主人の事を頼むぜ!」
「え、ど……どういう事ですの?」
「だって、オイラが魔族だってバレちゃったからね。こんなバケモノと一緒にいたら怖いし、迷惑でしょ? だからこれでバイバイだよ!」
ニコッと笑ってから、モコは洞窟を去ろうとしますが、私はそれを遮るように、モコの足にしがみつきました。
「何を言ってますの! あなたが普通の犬じゃないからって、別れるはずがないでしょう!」
「いや、だって……オイラ、魔族だぜ?」
「魔族が人間と仲良くなってはいけないなんて決まりはありません! あなたは、私の大切な家族なんですから、これからもずっと一緒ですわ!」
「ご主人……」
そうですわ。カイン様だって、モコだって、魔族だから何なんですの? 私は魔族とか関係なしに、お二人と仲良く過ごしたいだけなんですのに!
「はぁ、本当にご主人は人が良いっていうか……損しやすい性格っていうか」
「だが、そこがマシェリーの良い所だろう?」
「お前に言われなくてもわかってるやい! 正直に言っちゃうと、オイラもご主人とバイバイはしたくない。だから……これからも一緒に――」
「当たり前ですわ!」
モコの言葉を遮るように肯定の意を示すと、モコはケラケラと面白そうに笑っていました。
私とした事が、相手の話を聞かずに答えてしまうなんて、ちょっぴり恥ずかしいですわ。でも、それくらいモコの言葉を肯定したかったんですの。
「ふふっ、これからも賑やかな生活は続くというわけだな」
「おう、賑やかにしてやるから覚悟しておけよカイン! それと、あんまりご主人を困らせるような事はするなよな! 酷い時は噛みついてやる!」
「お手柔らかに頼むよ」
「本当に反省してるのかよ!? まあいいや。そろそろオイラは元の姿に戻って休むかな! それじゃご主人、今日みたいにベラベラ話せなくなるけど……あんまり寂しがるなよ!」
「心配してくれてありがとう。私は大丈夫。これからもよろしくね、モコ!」
モコが大きく頷くと、再びモコの体は光に包まれて行きました。それから間もなく、光が収まり……元のサイズに戻ったモコの姿がありましたわ。
「はふぅ……くぅん……スピー……」
まあ、モコったら……またお腹を出して眠ってますわ。お行儀はあまり宜しくありませんが、この顔を見ていると、不思議と許してしまうんですの。
「よいしょっと……カイン様、重ね重ねになってしまいますが、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そして、また助けてくれてありがとうございました」
「俺は何もしてないよ。俺よりも、彼に礼を言った方が良い」
「もちろんですわ。でも、あなたが助けてくれなければ、大怪我をしていたかもしれません。最悪、もうこの世にいなかったかもしれません」
今思い出すだけでもゾッとしますわ。あそこでカイン様がヴァンパイアの力で助けてくれなければ……あの剣で引き裂かれていたでしょう。
彼らの横暴な態度につい頭に血が上って、あんな責めるような事を言ってしまいましたが、今思うと軽率な行動でした。反省ですね……。
「さて、ひとまずは一件落着だね。帰ろうか」
「あの、そこに倒れている方達は放っておいていいのですか?」
「しばらく起きそうもないから、一度屋敷に戻った後、すぐに迎えに行くよ。君は心配せず、屋敷で彼と一緒に休むと良い。さあ、行こう」
私がモコを抱っこしているからか、カイン様は私の手を取らず、そっと肩を抱いてくださいました。
少々恥ずかしいですが、こうして知っている方に触れていると、凄く安心できます。本当に、お二人には感謝しかありませんわ――
本当に大きいです……今までずっと見下ろしていたはずが、今では完全に見上げる立場になってしまっております。
「マシェリー、無事か? どこか痛いところは?」
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「うるさいっ! ご主人に色目を使う、悪い奴め! オイラの目が黒いうちは、もうチューなんてさせないぞ! けど、今回も助けてくれたのは、感謝してるぞ!」
「えっと……その、お二人共怪我はありませんか?」
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「オイラは少しけっ飛ばされて血が出たけど、舐めておけば治るさ!」
これだけ元気に話しているのを見た感じ、本当に大丈夫なんでしょうけど、やはり心配なものは心配ですわ。帰ったら、念の為に検査してもらいましょう。動物病院で診てもらえるかしら……?
「ところでご主人! さっきのオイラ、怖かったでしょ! オイラの父ちゃんの話し方をマネしてみたんだぜ! えっへん!」
「え、ええ……」
「モコ、俺もマシェリーも、状況についていけてない。説明してもらえるか?」
そうですわね、モコは普通の犬じゃないって事がわかっただけですし、本人からしっかりとした説明が欲しいですわ。
「説明って言われてもなぁ……オイラは元々魔犬なんだけど、山火事で故郷が燃えちゃってさ。仕方なく人間の世界で生活する為に、いつもは小さい犬になってるんだ。オイラは未熟だから、この姿だと体力の消費も激しいしね。小さい時は力が弱くて……人間にいじめられてた所を、ご主人に助けてもらった! だから恩返しとして、一緒にいてご主人を守ってた! 今回は凄くピンチだったから、少しだけこの姿に戻って助けたってわけさ!」
故郷が無くなったなんて……モコも苦労していたんですわね……あの日、街で出会って……助けられて本当に良かったですわ。
「そうでしたのね。あっ! もしかして、あの時に蓄音石を持ってたのって!」
「うん! 前にご主人が用事でいなかった時、一匹で暇だったから城を探検した時にね、倉庫から見つけたんだ! 何かあった時に、証拠に出来るようにって!」
どうしてあの時、タイミングよくモコが蓄音石なんて持っていたのか、これでようやくわかりましたわ! これだけ人間と大差ない知能なら、蓄音石を持っていたのも、録音出来たのも納得です!
「それで、あのババアが変な話をしてる所をたまたま見かけたから、録音しておいたってわけさ!」
「ば、ババアって……」
「あいつはご主人をいじめてた悪い奴だ! だからババアでいいの! ちなみにコルエはクソガキね!」
私、そんな汚い言葉を教えた事は無いのですが……モコの気持ちはわかりますけど……今度、もう少し綺麗な言い方を教えてあげましょう。
「一つ疑問がある。そんな立派な姿になれるのなら、初めて出会った時に、俺に助けを求めずに、その姿でマシェリーを助けられたんじゃないか?」
「大好きなご主人に怖がられたくないから、なるべくこの姿にはなりたくないんだよ! それに、匂いでお前らが近くにいるのもわかってたしな! もし仮に、あの時お前に会ってなかったら、この姿になって助けてたさ!」
「そうか。変な事を聞いてすまなかった」
「まあ今回は許してやるぞ! 聞きたい気持ちもわかるしな!」
こうしてお二人が話しているのを聞いていると、仲が良いのかそうではないのか、よくわからないですわ。モコはカイン様を嫌っていると思ってましたが、案外そうではないのかもしれません。
って、そんな考察をのんびりしている場合じゃないです。ご迷惑をおかけした事を謝罪しないと。
「その、今回は……いえ、今回も申し訳ございませんでした。カイン様とモコを巻き込んでしまって」
「俺の方こそすまなかった。元はといえば、騎士団の問題なのに、君を巻き込んでしまった」
「オイラは全然気にしてないぜ! ご主人が無事ならそれでいいのさ!」
お二人共、本当にお優しいですわ……厄介事に巻き込んでばかりですし、怒られるのは当然、縁を切ってもおかしくないというのに。
「それにしても……こんな形でバレちゃうとはなぁ。まあ仕方ないか! カイン、これからはオイラの代わりにご主人の事を頼むぜ!」
「え、ど……どういう事ですの?」
「だって、オイラが魔族だってバレちゃったからね。こんなバケモノと一緒にいたら怖いし、迷惑でしょ? だからこれでバイバイだよ!」
ニコッと笑ってから、モコは洞窟を去ろうとしますが、私はそれを遮るように、モコの足にしがみつきました。
「何を言ってますの! あなたが普通の犬じゃないからって、別れるはずがないでしょう!」
「いや、だって……オイラ、魔族だぜ?」
「魔族が人間と仲良くなってはいけないなんて決まりはありません! あなたは、私の大切な家族なんですから、これからもずっと一緒ですわ!」
「ご主人……」
そうですわ。カイン様だって、モコだって、魔族だから何なんですの? 私は魔族とか関係なしに、お二人と仲良く過ごしたいだけなんですのに!
「はぁ、本当にご主人は人が良いっていうか……損しやすい性格っていうか」
「だが、そこがマシェリーの良い所だろう?」
「お前に言われなくてもわかってるやい! 正直に言っちゃうと、オイラもご主人とバイバイはしたくない。だから……これからも一緒に――」
「当たり前ですわ!」
モコの言葉を遮るように肯定の意を示すと、モコはケラケラと面白そうに笑っていました。
私とした事が、相手の話を聞かずに答えてしまうなんて、ちょっぴり恥ずかしいですわ。でも、それくらいモコの言葉を肯定したかったんですの。
「ふふっ、これからも賑やかな生活は続くというわけだな」
「おう、賑やかにしてやるから覚悟しておけよカイン! それと、あんまりご主人を困らせるような事はするなよな! 酷い時は噛みついてやる!」
「お手柔らかに頼むよ」
「本当に反省してるのかよ!? まあいいや。そろそろオイラは元の姿に戻って休むかな! それじゃご主人、今日みたいにベラベラ話せなくなるけど……あんまり寂しがるなよ!」
「心配してくれてありがとう。私は大丈夫。これからもよろしくね、モコ!」
モコが大きく頷くと、再びモコの体は光に包まれて行きました。それから間もなく、光が収まり……元のサイズに戻ったモコの姿がありましたわ。
「はふぅ……くぅん……スピー……」
まあ、モコったら……またお腹を出して眠ってますわ。お行儀はあまり宜しくありませんが、この顔を見ていると、不思議と許してしまうんですの。
「よいしょっと……カイン様、重ね重ねになってしまいますが、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そして、また助けてくれてありがとうございました」
「俺は何もしてないよ。俺よりも、彼に礼を言った方が良い」
「もちろんですわ。でも、あなたが助けてくれなければ、大怪我をしていたかもしれません。最悪、もうこの世にいなかったかもしれません」
今思い出すだけでもゾッとしますわ。あそこでカイン様がヴァンパイアの力で助けてくれなければ……あの剣で引き裂かれていたでしょう。
彼らの横暴な態度につい頭に血が上って、あんな責めるような事を言ってしまいましたが、今思うと軽率な行動でした。反省ですね……。
「さて、ひとまずは一件落着だね。帰ろうか」
「あの、そこに倒れている方達は放っておいていいのですか?」
「しばらく起きそうもないから、一度屋敷に戻った後、すぐに迎えに行くよ。君は心配せず、屋敷で彼と一緒に休むと良い。さあ、行こう」
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