婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第十四話 お祝い? パーティー

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「えっと……これはなんですか……?」

 試験があった日の夜、凄く広い部屋へと呼ばれた私は、目の前に広がる沢山の料理に度肝を抜かれていました。

 いつも色んなおいしい料理が出てくるんですけど、今日は凄い量と種類です。こんなの全部食べたら、お腹が破裂してしまいます。

「あの、グザヴィエ様……今日は何かお祝い事でもあるのでしょうか?」
「察しが良いな。今日はとてもめでたい日なのだ。だから、朝からパーティーの準備をしていた」
「そ、そうだったんですか!? それなのに、私のお見送りをしてくれて……ありがとうございます!」

 そうと知っていれば、お見送りはご遠慮していたのに……今更言ってもって話なのはわかってますが、罪悪感を感じてしまいます。

「コック様も、お忙しいのにお弁当を作ってくれて、ありがとうございます!」
「いえいえ、綺麗に完食していただいて、大変嬉しく思います。そうだ、あのおにぎり、どうでしたか?」
「とてもおいしかったです。ジーク様が作ったんですよね?」
「ええ、その通りでございます。ジーク様、何度も何度も失敗されて……ようやくまともなのが出来た! と言いながら弁当箱に詰めておられましたよ」

 コック様は上機嫌で料理を並べながら、私に教えてくれました。

 失敗して手をお米だらけにして、ようやくできた不格好なおにぎりで喜ぶジーク様……な、なんか可愛いかもです……。

「おい、余計な事を言うな」
「ややっ、これは失礼致しました」

 いつの間にか部屋に入っていたジーク様は、鋭い目つきでコック様を睨みつけると、コック様は一目散に逃げてきました。

「もう、ジーク様ったら。そんな怖い顔で追い払うなんてしてはいけませんよ」
「……そうか。それで、アレは……どうだった?」
「おにぎりですか? おいしかったですよ!」
「そんなわけないだろう。後から気づいたんだが……塩の量を間違えていた。あれではしょっぱくて食べられたものでは……」
「ジーク様が一生懸命作ってくれたんだから、残さず食べるに決まってます!」
「……シエル……そうか」

 私にか届かないくらいの小さな声で、ボソッと呟くジーク様。その表情は、とても優しい笑みで満ち溢れていました。

「それで、結局めでたい日ってなんでしょうか?」
「あら、まだ気づかないの? あなたの合格祝いよ」
「……??」

 私の、合格祝い? それって今日の試験の事ですよね? まだ結果はわからないんですけど……。

「簡単に言えば、前祝いみたいなものさ」
「で、でもまだ合格したと決まったわけじゃないですよ?」
「それはそうだが、私達は全員君が合格する事を疑っていないのさ。だから朝から準備をしていた……そうですよね、父上?」
「その通りだ」
「……あ、ありがとう……ございます……」

 私の事を信じて疑わない皆さんの優しさが嬉しくて、私は気づいたら涙がポロポロと零れていました。

 ここの方々は、どれだけ私に優しくすれば気が済むのでしょうか? そろそろ幸せ過ぎてバチが当たりそうです。

「さて、そろそろ準備が出来たそうだ。皆、席に着くといい。使用人達も全員だ」

 グザヴィエ様の号令の元、忙しなく動き回っていた使用人の方々も、席に着きました。こうして見ると、このお屋敷には沢山の人がいるのがわかります。ざっと見ても、三十人はいると思います。

「全員飲み物は持ったな。では……シエルの合格を祝って……かんぱーい!」
『かんぱーい!!』
「あ、あの……だからまだ合格と決まったわけじゃ……」

 私の声は、乾杯の声にかき消されてしまいました……。こんなにお祝いムードになってしまうと、これ以上何か言うのは無理な気がしてきました。


 ****


「はっはっはっ! めでたい日に酒を飲むのは良いものだな!」
「うふふ、もうあなたったら、飲み過ぎですよ?」
「母上も十分飲んでいるじゃないですか。ほら、二人共水を飲んでください」

 パーティーが始まってだいぶ時間が過ぎ、用意された料理もほとんど無くなってきた中、グザヴィエ様とセシリー様は上機嫌でお酒を飲んでいました。

 厳格なグザヴィエ様と、しっかりした大人の女性であるセシリー様が、こんなに上機嫌なのは初めてみました。周りの大人達もいつもと違って上機嫌ですし……お酒の魔力、恐るべしです。

 あれ、そういえばジーク様の姿が見えません。何処にいらっしゃるのでしょうか……あ、バルコニーにいました。お一人で何をされているのでしょうか?

「ジーク様、こんな所にいたら風邪を引いてしまいますよ?」
「今日はさほど冷えてないから問題ない。俺はいいから、パーティ―を楽しんでこい」
「いえ、私もここにいます」
「……おせっかいだな、お前は」

 悪態をつきながらも、フッと笑うジーク様は、手に持っていたグラスを口元に持っていきました。ただ飲んでいるだけなのに、綺麗すぎて見惚れてしまいます。

「緊張、してるか?」
「え?」
「今日の試験の結果だ」
「緊張というより……怖いという方が正しいです」

 私のささやかな願いを聞き入れてくれて、勉強できる環境を整え、試験を受けさせてくれて……今日もこうして少し気の早いパーティーまで開いてくれたのに、もし受かってなかったら……全て無意味になってしまいます。それが……怖いです。

「こんな時でも、お前は他者の心配をするんだな」
「だ、だって! 皆様には笑顔でいてもらいたいから……ガッカリさせたくないんです!」
「そうか……そういうところが俺は……」
「ジーク様?」

 何かを仰っているのはわかりますが、声が小さいのに加えて、後ろから賑やかな声が聞こえてくるせいで、イマイチ聞き取れません。

 もう少し近くに行けば、何を言っているか聞こえるかもしれませ――あれ、なにか後ろから視線を感じるような……?

「おや、シエルに見つかってしまったみたいだ」
「あなたが顔を出し過ぎてるからですよ?」
「セシリーこそ、随分と顔が出ていたではないか」

 後ろを向くと、そこには私達を覗くように見るベルモンド一家の姿がありました。そんな所で何をされているのですか……もう。

「それで、お前達はいつくっつくのかね?」
「はっ……? な、何を言っているんだ父上?」
「あなたったら、聞いて良い事と悪い事があるんですよ? ところで初孫はいつなのかしら?」
「は、初孫っ!?」

 セシリー様の発言にビックリしてしまった私は、思わず声を裏返してしまいました。

 初孫って、どうすればそんな発言に繋がるかわからないんですけど!? それに、グザヴィエ様の先ほどの発言から察するに……私とジーク様がって事ですよね!?

「あの、私みたいな汚いスラム街の女よりも、ジーク様には良い人が絶対現れますから!」
「…………」

 両手をブンブンと振って否定を表す私とは対照的に、ジーク様は小さく溜息を残してその場を去ろうとしました。その背中は……なんだか少し寂しそうに見えました。

 それに、自分で否定しておきながら、胸の奥が痛むのは何故でしょう……?

「あ、あれ? ジーク様……!?」
「そろそろ休む。付き合ってもらって悪かったな、シエル」
「あ、はい……おやすみなさい」

 咄嗟にジーク様を引き止めましたが、寂しそうな理由も聞けぬまま……ジーク様が去るのを見送る事しか出来ませんでした。

「やれやれ……父上に母上。いくら酒の席とは言え、限度が過ぎます。反省してください」
「むぅ……確かにそうだ。シエル、すまなかった」
「ごめんなさいね、シエルちゃん……」
「い、いえ!  気にしてませんから!」

 謝罪をするお二人に答えながらも、私はどうしてもジーク様の事が気になってしまって……結局その日のパーティーは、それ以上楽しむ事が出来ませんでした……。
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