婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

文字の大きさ
19 / 58

第十九話 ちゃんと覚えてます!

しおりを挟む
 昼休み。私はジーク様やクリス様と一緒に昼食に行こうと思っていたのですが、クラスメイト達に囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまっていました。

「シエルさん、以前は妹の喘息を治していただいてありがとう! おかげで今では見違えるほどに元気で、毎日走り回ってるんだ!」
「それはよかったです! ずっと外で元気に遊ぶのが夢って言ってましたよね!」
「うちのペットの犬も治してもらって……さすがに覚えてないわよね。真っ白で目の所に黒い模様がある犬なんだけど……」
「覚えてますよ! しっぽが短くて、片耳だけ垂れてるワンちゃんですよね?」

 私が治した人達のその後を聞けて、正直ホッとしています。

 でも、私はジーク様やクリス様と一緒に、昼食を食べに行かないといけないんです。そうしないと、ジーク様を一人ぼっちな状況から助けられないですから。

 現に……本を読んで過ごしているジーク様の周りには、誰もいらっしゃいませんし、声もかけません。遠回しに眺める人はいても、まるでその間に高い壁があるように近づかないんです。

 元々愛想が良い人じゃないのはありますが、朝の一件で周りの人の声を聞いた感じでは、尊敬の対象にされている感じだったので、話しかけにくいのでしょう。それがここで一人ぼっちの理由だと感じました。

「あ、あの……申し訳ありませんが、そろそろご飯を食べに行くので……」
「それなら僕と行きましょう! あの時のお礼をさせてください!」
「ちょっと、私だって聖女様と一緒にご飯を食べたいんだから! ねねっ、いろんな所を旅した話、聞かせて!」
「え、えっと……」

 困りました……私と仲良くしてくれるのは嬉しいですけど、私には先約が……ジーク様に恩返しをしないと……でも無下に断るのも……。

「悪いな。こいつには先約がいる」
「えっ?」
「行くぞ」

 今までずっと隣の席に座っていたジーク様が、無理やり私達の間に割って入ると、私を引っ張って立たせました。そして、そのまま有無を言わさずに、私と一緒に教室の外へと向かって歩き出しました。

 ちょっと強引ですが、私を助ける為に動いてくれたのでしょう。そう思うと、ちょっとドキドキするというか、顔が熱くなっちゃいます。気のせいかもしれませんが、ジーク様が輝いて見えます……。

「ちやほやされて調子に乗りやがって……」
「勘違いしちゃって、気持ちわるー。お姫様気分かっての」
「…………あ?」
「「ひぃ!?」」

 教室を出ようとすると、遠巻きに見ていた方々が、私を見下すような目で口を開きました。そう、私の事を嫌っている人達です。

 しかし、ジーク様が眉間に深いシワを入れながら睨みつけたら、そそくさとその場から離れていきました。

「すまない。頃合いを見て声をかけるつもりだったんだが……ああいった中に入っていくのは不得手でな……」
「そんな、謝らないでください。助けてくれてありがとうございます」

 クリス様と合流する為に廊下を歩いていると、急にジーク様は申し訳なさそうに表情を曇らせながら、私に謝罪してきました。

 ジーク様は元々他人との相対が苦手なのはわかっていました。それなのに、私を助ける為に苦手な事をしてくれた人に、感謝を述べる事はあっても、怒ったりなんて絶対にしません。

「でも、あんな怖い顔で睨んだら駄目ですよ?」
「お前の陰口を叩いていた連中を睨んで何が悪い?」
「お気持ちはわかりますし、嬉しいですけど……わざわざ争いの種を作る事はないですから」

 こう言っては何ですが、ああいった類の陰口は、スラムで散々言われて育ってきました。主にこの真っ白な髪色の事ですが、それ以外にも痩せてて気持ち悪いとか、病気のお母さんから病気を移しに来るなとか……結構酷い事を言われてます。

 だから、慣れてる私の為に、ジーク様が変に敵を作る必要なんてないんです。私がしたいのは、ジーク様に敵を作らせる事じゃなくて、一人ぼっちから助けて、一人じゃなくても楽しいんだよってお伝えしたいんです。

「善処する。ところで、感謝を述べに来たクラスメイトに受け答えしていたが……そんなに印象的な連中だったのか?」
「どういう事ですか?」
「長い間巡礼をしてきて、多くの人間に出会って来ただろう? あいつらが記憶に残る連中だったかという事だ」
「質問の意図がよくわかりませんが……わかりますよ? だって、治療をした人達やそのご家族は、全員覚えてますから」
「覚えているだと……? しかも、全員?」

 あ、あれ? なんでそんなにビックリするのでしょうか? 私に関わった人や出来事を全部覚えておくのって、そんなに不思議なんでしょうか?

 私は巡礼の楽しかった思い出、嬉しかった思い出、つらかった思い出、悲しかった思い出……すべて覚えています。だってそれが、聖女としてのシエル・マリーヌという人間を作っていましたから。

 もちろん、ベルモンド家との出会いも覚えていますよ? 放そうと思えば、この目で見て、この耳で聞いた事なら、いくらでも話せます。

「薄々わかってはいたが……お前がこの短期間でジェニエス学園に入学できたのかがよくわかった」
「は、はあ……ありがとうございます?」

 なんだかよくわかりませんが、褒めていただいたようです。どんな事でも、褒められると嬉しいものです……えへへ。

「それで、クリス様はどこにいるのでしょう?」
「恐らく生徒会室だろう。兄上の事だから、合流前に出来る仕事を片付けておこうという魂胆のはずだ」
「働き者なんですね、クリス様は」
「働きすぎだ。真面目なのは昔からだが……俺からしたら、もう少し息抜きを覚えてほしい。大切な家族が倒れるのは……もうたくさんだからな」

 ……そうですよね。ジーク様……いいえ、ベルモンド家に関わる人達全員が、セシリー様を失うところだったんですもの……あんな思いはしたくないのも頷けます。

 今思うと、私が行った時にはセシリー様は手の施しようがないくらい重症で、他の回復術師の方も匙を投げていたくらいでした。私がちょっと遅かったら……ジーク様達は、私のように大切な人を失う悲しみを……考えただけで、私が悲しくなってきました。

「どうした」
「え?」
「急に涙が……何か悲しいのか? 待ってろ、今ハンカチを……」
「い、いえ……その、色々思い出したら、つい……」
「それくらい、過酷な旅をしてきたんだな……偉いな」

 ジーク様はハンカチで私の涙を拭ってから、頭をワシャワシャと撫でてくれました。私のお父さんが生きていたら、こんな感じで撫でてくれてたかもしれません。

「ぐすん。さあ、気を取り直していきましょう! きっとクリス様が、暇すぎて欠伸をしてるかもしれませんよ!」
「それは……興味あるな。無防備な兄上を見た記憶がほとんどない」
「ええ、そうなんですか!」

 軽口をたたきながら、笑顔で話す私とジーク様。ジーク様はまだ表情がぎこちないけど、それでも微笑んでるっていうのは分かるくらいです。

「いつもの無表情も、とても絵になってカッコいいですけど、やっぱり笑った顔の方が素敵です!」
「っ!? そ、そういうのはいいから、さっさといくぞ!」
「あ、待ってくださいよ~!」

 本当の事を言っただけなのに、ジーク様は逃げるようにその場から走りだしてしまいました。

 変な事を言ったつもりはないんですけど……追いかけて謝らなきゃ!






「なによあいつ、ずっとジーク様にべったりで! ずっとファンだった私達をのけ者にするとか何様!?」
「俺達も恥をかかされたし、仕返しついでに虐めてやるか」
「いや~それはやめておいた方が良いかも~? うちらに凄い後ろ盾とかあるならいいけど、現状で変な事をしたら~……」
「学園のツートップに目を付けられる……か。特に生徒会長に目を付けられたら、今後の学園生活に支障が出る。今は大人しくしておくか……しかし、いずれあいつには仕返しをしてやる!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【完結】婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

処理中です...