婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

文字の大きさ
18 / 58

第十八話 聖女の旅

しおりを挟む
 一悶着がありましたが、無事に職員室へと連れて来てもらった私は、担任の先生である女性と共に、二階にある教室の前へと来ました。

 1-Cっていう教室なんですね。前に来た教室とは違うところみたいです。ちゃんと昇降口からここまで来るのを覚えておかないと……ただでさえ広いのに、元々迷子になりやすいので……。

「では私が先に入って静かにさせてくるわ。その後に名前を呼ぶから、教室に入って来てね」
「ひゃい!!」

 盛大に噛みましたが、そんなのが気にならないくらい緊張している私は、教室のドアの前でガチガチになっていました。

 クラスの子と仲良くやっていけるでしょうか……校門の時点であんな結果だから、ちゃんと自己紹介をしないと、絶対に浮いてしまいます。

 でも……ちゃんとした自己紹介ってなんなんでしょう……生まれから話すべきでしょうか……?

「シエルさん、入って来てー!」
「ひゃわ! 今行きます!」

 中から先生の声が聞こえてきたので、ドアに手をかけて入ろうとしたら……ドアに手がかからず、盛大に空振りをしてしまいました。

 しかも、体はもうドアが開く前提で前進していたので、途中で止まれるはずもなく……私は無様にドアと正面衝突してしまいました。

「ちょっと、大丈夫ですか!?」
「ら、らいりょーぶれしゅ……」

 うぅ……最初からなんて失敗してるんですか私……! これじゃ絶対にクラスの人に変な目で見られるの確定です……ぐすん。

「あ、あの……わ、私……シエル・マリーヌと申します……こ、こういうところに通うのは初めてで……友達もできた事がないので……仲良くしてくだしゃい……」

 鼻を抑えながら教室に入り、皆さんの前で挨拶をします。こんな変な挨拶になってしまいましたが、これで良かったんでしょうか……?

「確か、ベルモンド兄弟と一緒に来ていた子だよな?」
「そうだ、あの白い髪覚えてる!」
「はいはい静かにー。シエルさんは事情があってベルモンド家でお世話になってるの。だから不必要に騒がない事。シエルさんの席はあそこね」
「は、はい……あっ!」

 指定された窓際の席に行くと、隣の席に ジーク様がいらっしゃいました。

 まさかこんな所で一緒になれるだなんて、思ってもみませんでした! これならジーク様と一緒にいられます! ホッと一安心です!

「ではホームルームで話す事は特にないので、授業の準備をするようにー」
「ふぅ……まさかジーク様が一緒とは思ってなかったです!」
「俺も想定外だ。もしかしたら、生徒会長の兄上が何かしたのかもしれない」
「生徒会長……?」
「生徒会という、生徒だけで組織された連中だ。主に学校行事の運営、他校の生徒会との交流、ボランティア活動、雑務諸々……言ってしまえば、面倒事のオンパレードをさせられるところだ」

 最後の部分はちょっと飛躍してるようにも思えましたが、とにかくクリス様はそんな会のトップをしているのは分かりました。

「言っておくと、生徒会長は並みの生徒ではなれない。日々の成績や生活態度、周りの信頼があって初めて選挙で推薦される。そこで投票に勝たなければならない」
「よくわかりませんが、大変で凄いのはわかりました!」
「……そう思ってれば大丈夫だ」

 私の答えが面白かったのか、ジーク様はフッと笑みをこぼしてくれました。ジーク様の笑顔は、普段のギャップも相まって、とても愛らしいんです。私はこの笑顔が好きなんですよ。まあ……ジーク様の性格上、言ったらきっとやってくれなくなると思いますけどね。

 さて、おしゃべりはここまでにして……授業の準備をしておきましょう。教科書にノートに筆記用具に……うん、完璧です!

「おいシエル、その教科書……数Bだぞ。今日は数Aだ」
「……ふぇ?」

 ほ、本当だ……似てるけど、内容が全然違う! って事は……私、初日から忘れ物!?

「あーあ、初日から何やってるんだか」
「まあ回復魔法しか得意じゃない能無しじゃ仕方ねーだろ! ぎゃははは!!」
「……あいつら……」
「駄目です! さっき止められたばかりじゃないですか!」

 先程みたいに怒ってしまったジーク様の腕をつかんで、何とか静止させます。

 私の為に怒ってくれるのは嬉しいですけど、だからと言って暴力は……あれ? あの人達に見覚えが……そうだ! 私の試験の時に陰口を言っていた人達だ! まさか同じクラスだなんて!

「あの女、ベルモンド兄弟に取り入ってよからぬ事を企んでるっぽいわよ?」
「マジかよ! 通りで試験中にクリス先輩が変に肩入れをしてると思ったぜ!」
「本当に最低な――」
「あー!! やっぱりそうだ!!」

 私への悪口が悪化する中、その空気を完全に無視して、一人の女子生徒が私の所へ走ってきました。

 やっぱりって……何の事でしょう? 私、この人に何か悪い事でもしてしまっていたのでしょうか?

「聖女様ですよね!」
「え? あ、はい……元聖女です。でもどうしてそれを? 確か初対面……ですよね?」
「やっぱりそうだ! 以前あなたに父を治療をして貰った者です! えっと、カボチャ畑を管理してる!」

 南にある農村……カボチャ畑……あ、思い出しました! 確かに巡礼中に行きました! とても緑が豊かで、静かな良い所で……村の人達も、凄く良い人ばかりでした。

「覚えてますよ! あのカボチャは甘くてトロトロで本当においしくて……! その後のお父様の腰はどうですか?」
「おかげ様で、今までサボって多分を取り返すぜー!って張り切ってるって、手紙に書いてありました! その手紙に、あなたの名前と特徴が書かれてあったので、もしかしてと思って!」
「なるほど、そうだったんですね。なんにせよ、お仕事が出来るようになってよかったです!」

 私がお会いした時は、もう腰が痛くて畑作業が出来ない、生きがいを無くしてしまったと落ち込んでいましたが、元気になったんですね。本当によかった……。

「え、聖女様!? うっそ、最近まで巡礼してた人だよね!?」
「言われてみれば、確かにそうだ!」
「随分前だけど、うちの母親も治してもらったのよ! あの時はありがとう!」
「え、えぇ!? あの……み、皆様落ち着いてください……!」

 私が元聖女とわかると、本当に一瞬でクラスメイト達に囲まれてしまいました。そのおかげで、私への悪口が何も聞こえなくなりました。

 ……きっかけは騙された事でしたし、とてもつらい巡礼の旅でしたけど、こうして沢山の笑顔が見られたんですし、あの巡礼の旅も無駄じゃなかったんですね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...