婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第三十三話 彼方まで続くバラ

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「それで、どうして兄上がここに?」
「なに、シエルに何かあった時の為の予備人員さ」

 次の休みの日、お約束通りジーク様とお墓参りをする予定でしたが、急遽クリス様も一緒に行く事になりました。

 クリス様曰く、交流祭の準備が区切りが良い所まで来たから、せっかくだからという事だそうです。

 ちなみにですが、私の隣にジーク様、対面側にクリス様がいらっしゃいます。この並びも、なんだか少し慣れてきました。

「大丈夫だよ、君達のサポートはするからさ」
「サポートって……兄上?」
「それとなーくするから大丈夫さ」
「な、何のお話ですか?」
「……あれだ、兄弟の話だ」
「いやー実はジークがねぇ……」
「おいやめろ!」

 よほど言ってほしくなかったのでしょう……ジーク様は珍しく大声を上げながら、クリス様の口を塞ぎました。バチンって音がしてましたけど、大丈夫でしょうか……?

「あはは、可愛い弟の愛は中々に痛いなぁ……」
「兄上が悪い」
「まあそう言うな。今日はあそこを準備している。二人でのんびりするといい」
「そういう事なら……感謝する」

 よくわかりませんが、仲直りできたみたいで良かったです! やっぱりお二人には、仲良く笑顔で過ごしてもらいたいです!

「……なにニコニコしてるんだ?」
「してないですよ?」
「してるだろ。嘘をついて笑うシエルにはお仕置きだ」
「ふにゅ~!」

 ジーク様は、無表情で私のほっぺを軽くつまむと、そのままモチモチとし始めました。痛くは無いですし、マッサージされてるみたいで、気持ちいいです……。

「君達、随分と仲良くなったのだね。兄としては安心だよ。だが、そろそろ到着するころだから、降りる準備はしておいた方が良いよ」
「あ、もうそんな時間ですか!?」

 お二人と話していると、時間が経つのが異様に早く感じます。勉強している時もそうですけど、私って一つに集中してると、周りが見えなくなる癖があるのかもしれません。新しい発見です。

「到着いたしました。お気をつけて」

 降りる準備をしてから間もなく、私達はお母さんがいるお墓へと到着しました。今日もお墓から見える広大なお花畑はとても綺麗で、ずっと見ていても飽きません。

「お母さん、来たよ。また間が開いちゃってごめんね」

 私はお供え物の花束を供えると、その場で両手を合わせました。

 ……お母さん、私……回復術師になる為の勉強を始めたんだ。回復術師になって、ベルモンド家や領地の人達を助けて、少しでも恩返しになればいいなって思ってるんだ。

 でもね、勉強に熱中しすぎて……周りの人に心配かけちゃったの。私って本当に馬鹿だよね……お母さんが見てたら、ちゃんと寝なさいって怒るかな? それとも心配する? あ、シエルったらしょうがない子ねって笑うかな?

 ……どの姿も、何年も見てないのに、簡単に想像できるよ。それくらい、お母さんは私の心の中で生き続けているよ。

 それから……そうだ、この前私と一緒に世界を周っていた人と再会したんだ! 凄く元気そうで、また会おうって約束したの! お母さんにも会わせてあげたかったよ……。

 と、とにかく! 私は大丈夫だから、お母さんは心配しなくて大丈夫! これからもベルモンド家の方々や、ジェニエス学園の方々と仲良く頑張るから! だから安心してね!

「……もういいのか?」
「はい。報告したい事はしたので」
「私達の事は気にしなくてもいいんだよ」
「本当に大丈夫ですよ。それじゃ帰りましょう。今日はお付き合いしていただいてありがとうございました!」
「いや、帰る前に寄り道する所がある。今日の趣旨の一つは、シエルの休息だからね」
「は、はあ……」

 寄り道って、どこに行くつもりなんでしょう? お二人とお出かけするのは楽しいから好きですけど……帰って勉強したいという気持ちも否定できません。

 でも……せっかくのご厚意を無下にするのは良くないですよね。

「わかりました」
「では行くぞ。馬車に乗れ」

 私はジーク様の手を取って馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車が動き出しました。

 一体どこに向かうのでしょうか? 全く想像が出来ません……自慢じゃありませんが、私は幼い頃からどこかに遊びに行った経験がほとんどないので、こういう時にどこに行くのか想像できないんです。

「到着いたしました」
「え、もうですか!?」

 馬車が動き出してから五分も経たないうちに、目的地へと着いた私は馬車から降ろされました。

 こんな近い場所でなにかあっただろうか……そう思いながら首を傾げていると、そこに広がっていた光景に、私は目を奪われました。

 そこは……お母さんのお墓がある丘から見下ろしていた、バラのお花畑の中でした。ここだけ少し開けていて、吹き抜けの小さな建物が建てられています。テーブルと椅子があるので、ここで休憩するものなのでしょう。

 お花畑にこんな所があったんですね……お墓のある丘の上からは見えていなかったので、全く知りませんでした。まるで彼方まで続くバラの海に飛び込んだかのような、甘い香りと鮮やかな赤色に、心を奪われてしまいそうです。

「良い所だろう? ここでお茶をしようと思ってね。もちろん準備はしてあるよ」
「私の為に……ありがとうございます……!」
「礼ならジークに言ってやってくれ。これを発案したのは、ジークだからね。私は同伴者に過ぎない」
「……余計な事は言わなくていい」
「ジーク様……本当にありがとうございます。クリス様も交流祭でお忙しいのに、わざわざ来てくれて、ありがとうございます」

 ……私は本当に幸せ者ですね。こんなお優しい方々に、こんなに良くしてもらえるなんて……いつかバチが当たっても、何も文句は言えないくらいです。

「さてと、それでは久しぶりにのんびりしようか。私も最近忙しかったから、こうしてゆっくりお茶を嗜むのも久しぶりだ」
「ではすぐに準備いたしますので、お掛けになってお待ちくださいませ」

 ここまで連れて来てくれた御者の方が、手際よく紅茶を準備して出してくれました。屋敷でよく飲んでいる紅茶なのですが、ここで飲む紅茶は特別おいしく感じられました。

「おいしぃ……それにしても、本当に立派なバラですね」
「ベルモンド家の自慢の花畑だからね。よければジークと一緒に散歩でもしてきたらどうだい?」
「え、でも……」
「実は交流祭の件で、確認したい書類がいくつかあってね。実は持ってきているんだよ。それを一人で静かに確認したいのさ」
「休暇だというのに……シエルの事を偉そうに言える立場ではないな」
「それを言われると、ぐうの音も出ないね。まあそういうわけだから、行っておいで」

 私とジーク様を立たせたクリス様は、そのまま有無も言わさずに私達の背中を押して、その場から無理やり立ち退かせてしまいました。

 もう、クリス様ってば……一体何を考えているのでしょうか? 普段はお優しい方ですが、こういう時はよくわからないお方です……。
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