婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

文字の大きさ
47 / 58

第四十七話 宿敵との決戦

しおりを挟む
■ジーク視点■

「よく来たなてめえら。逃げないで来た事は褒めてやるぜ」

 大歓声に包まれる中、俺と兄上の前に立ったアンドレは、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。その隣には、浮かない顔のココも立っている。

 さっきはあんなに荒れていたというのに、随分と立ち直りが早い男だ。馬鹿だから、その辺も単純なのだろうな。

「こちらこそ感謝していますよ。このような決着の舞台を共に作れた事に」
「俺達の恩人を……大切な人を傷つけ、愚弄した罪は重い。覚悟しろ」

 試合の開始の合図もされていないのに、自分の胸の内から燃え上がる怒りを抑えきれなかった俺は、愛用している剣を鞘から抜いた。

 それに釣られるように、兄上は杖を、アンドレは大剣を、ココは長い杖を取り出した。

 獲物を見た感じでは、アンドレがガンガン前に出て、それをココがサポートする形とみて間違いないだろう。俺達のやり方に似ている。

「さあ会場の盛り上がりも最高潮だ! そんな中、最後に行われるのはこのエキシビション! 選手の紹介と行くぞー! ジェニエス学園が誇る最強兄弟! 『賢者』と呼ばれる兄、クリス・ベルモンド! そのパートナーを務めるのが、『剣聖』と呼ばれし弟、ジーク・ベルモンドだぁぁぁぁ!!」

 何とも恥ずかしい名称で呼ばれて頭を抱えていると、観客達から大歓声が沸き起こった。

 なんでこれを喜ぶのかがわからない……誰が聞いても痛い名前だろう。人前で俺は『剣聖』だ……なんて言ったら、気持ち悪がられるに違いない。

「対するゲール学園からは、王族の歴史で歴代最強と謡われるこの方! 最近は生徒会長となった、アンドレ・プロスペリア! パートナーを務めるのが、なんとまだ我々の記憶に新しい、巡礼のお供として過酷な旅を超えた女性! ココ・リシャ―ルです!」

 こいつの紹介など、歓声など上がるわけが……と思っていたが、俺達の時と比べても遜色がない歓声だ。

 そういえば、こいつは外面だけは良かったんだったな……すっかり忘れていた。まあいい。この公共の場で、その化けの皮を剥がしてやる。

「では……エキシビションマッチを開催させていただきます! では……試合開始ぃぃぃぃぃ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
「死にさらせゴラァァァァァ!!」

 開始の合図と共に、近接組の俺とアンドレが、雄たけびを上げながら突っ込むと、互いの剣を思い切りぶつけた。

 それだけに終わるはずもなく、俺達はさらに攻撃を繰り返す。俺が剣を振り下ろせば、アンドレが受け止めてから受け流し、その隙をつくようにアンドレが剣で刺そうとするが、俺は受け流された剣を持ち直し、すぐに剣で攻撃を防いだ。

「なんだ……この程度かぁ? そんなクソみたいな剣で、シエルを守れると本気で思ってんのか? 見た目に似合わず、頭ん中花畑かよバーカ!」
「雑魚が吠えるな。耳障りだ」
「んだと……!?」
「む……!?」

 くだらない言い合いをしている間に、地を這う蛇のような形をした、真っ赤な炎が俺達に向かって這ってきた。

 こんな生き物はこの世にいない。ということは、ココの魔法の一つか。炎の魔法……兄上に相性が悪いのが気にかかる。

 いや、今はそれよりもあの蛇から逃げるのを優先しよう。斬っても良いんだが、もし爆発でもされたら致命傷だ。

「おっと、何逃げてるんですかぁ~!? 次男ぼ~う!!」

 心底俺を馬鹿にするような言い方をするアンドレは、なんと剣先に先程の炎の蛇を乗せ、俺へと投げつけてきた。

 このままでは当たる――そう思った矢先、俺の前に氷柱が出現し、炎の蛇から守ってくれた。

「一瞬で蒸発までさせるとは……良い火力だ。さすがココ殿」
「すまない、面倒をかけた」
「気にするな、と言いたいが……少し冷静になれ。奴がココ殿を使ってるのを含め、奴は我々の気持ちを乱したいようだ。焦らせれば戦術もブレるし、我々が落ち込むのを見たいという魂胆が見え見えだ」

 まあそんなところだろうな。根性がねじ曲がっているあいつなら、全然あり得そうな事だ。

「なにしてんだバカ! あれをちゃんと決めないでどうするんだ無能が!」
「す、すみません……次こそ決めますので……!」

 ココは大きな杖の下の部分を地面に突き刺すと、そのまま詠唱を始めた。

 魔法の威力は詠唱の時間や、魔法陣の数で大体の予想が出来る。あの詠唱の長さに、魔法陣の数は五個……それも全部炎の魔法陣。詠唱も長い所を見るに……デカいのが来る!

「これはしっかり対処しよう。叩きにいけるかい?」
「もちろんだ」
「よし。ここは我が領域……絶対零度と化する!!」

 兄上が短い詠唱を終えると、地面が一瞬に凍りついた。この氷を使って相手の機動力と集中力を奪い、こちらは機動力を得る。昔から、足元が凍った時の戦闘は訓練してるからな。

「全て……斬る!」

 俺は器用に氷の上を滑り、アンドレ達の元へと接近する。向こうは凍った足場のせいで上手く動けていないようだから、かなり俺の方が有利と言える。

「貰った!」

 反撃は飛んでこないと踏んだ俺は、躊躇なくアンドレに斬りかかる――が、硬いなにかによって阻まれていた。

 これは……身を守る障壁か。アンドレの前で杖を構えているココの姿を見た感じ、こいつの魔法か……元々シエルを守る為に一緒に行動していたのだから、防御魔法を持ってても不思議ではないな。

 それにしても、別の魔法を詠唱していたのに、咄嗟に防御魔法を使えるだなんて、ココは想像以上にやり手だな。

「勝ったと思ったか? 甘いんだよ雑魚が!」
「ふん……味方に守る事しか出来ない分際で、よく吠えられたものだな」
「相変わらずおもしれえ事を言うじゃねえか。それならこの壁を破ってみせろや!」
「上等だ……!!」

 挑発に乗ったと思われるのも癪だが、ここで引いたら負けだ。そう思い、俺は一心不乱に剣を振って障壁を破壊しようとするが、一向に壊せる気配がない。

 くそっ、さっさとこの外道に一太刀を浴びせたいのに、想像以上にココの魔法が厄介すぎる。

「おいその程度か? さっきの威勢はどこに行ったんだ!?」
「くっ……まだだ!!」

 ココの後ろで嫌らしく笑うアンドレに怒りを覚えながら、何度も何度も剣を振るうが、それでも障壁にヒビ一つ入る事は無かった……。

「はははは!! なんだったか? 俺に吠えるだとかなんとか言っていたが、てめえの方が負け犬じゃねえか! まあ、あんな根暗で気持ちの悪い女に忠誠を誓う駄犬なら、それも仕方なしってか!」
「この期に及んで、まだシエルの事を愚弄するか!?」

 障壁の向こうで笑うアンドレに一太刀浴びせる為に、俺は剣を振る。振る。振る。それでも、やはり俺の剣では障壁を破る事が出来なかった。

「てめえ、弱すぎんだろ。所詮は魔法の才能の無い雑魚って事か?」
「っ……!」
「こいつ、中々使えるだろう? 伊達に巡礼でシエルを守ってきただけある。今やその力は、国の宝であるオレ様を守る為に存在している。回復しか能がないてめえの飼い主とは大違いだろう?」

 くそっ……俺にもっと力があれば……こんな障壁なんて一撃で破壊できる魔法の才能があれば……! 所詮魔法の才能がない人間が、努力だけで勝とうなんておこがましかったというのか?

 ……冗談じゃない。俺はベルモンド家を守る為、兄上の隣に立つため……そして、シエルを守る為に剣の腕を磨いてきたんだ。こんな所で……折れてたまるか!

「おーおー、思ったより頑張るじゃねえか。だが……これで終わりだ!」
「なっ……!?」

 俺の目の前でスッと手を上げたアンドレ。それと同時に、俺の周りには、無数の風の刃がフワフワと浮かび……俺に向かって飛んできた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃
恋愛
 精霊国家トップの魔力を持つ聖女ティアラは、王太子マゼランスの妃候補として約束された将来が待っているはずだった。ある日、空から伝説の聖女クロエが降りてきて、魔力も王太子も奪われ追放される。  時を同じくして追放された幻獣と共に、気ままな旅を始めることに。やがて運命は、隣国の公爵との出会いをティアラにもたらす。 * 2020年2月15日、連載再開しました。初期投稿の12話は『正編』とし、新たな部分は『旅行記』として、続きを連載していきます。幻獣ポメの種族について、ジルとティアラの馴れ初めなどを中心に書いていく予定です。 * 2020年7月4日、ショートショートから長編に変更しました。 * 2020年7月25日、長編版連載完結です。ありがとうございました。 * この作品は、小説家になろうさんにも投稿しております。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

日向はび
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま
恋愛
薄暗い部屋の隅、背の高い本棚に囲まれて一人。エリシアは読書に耽っていた。 周囲の貴族令嬢たちは舞踏会で盛り上がっている時刻。そんな中、彼女は埃の匂いに包まれて、分厚い薬草学の本に指先を滑らせていた。文字を追う彼女の姿は繊細で、金の髪を揺らし、酷くここには場違いのように見える。 「――その薬草は、熱病にも効くとされている」 低い声が突然、彼女の背後から降ってくる。 振り返った先に立っていたのは、辺境の領主の紋章をつけた青年、エルンだった。 不躾な言葉に眉をひそめかけたが、その瞳は真剣で、嘲りの色はなかった。 「ご存じなのですか?」 思わず彼女は問い返す。 「私の方では大事な薬草だから。けれど、君ほど薬草に詳しくはないみたいだ。——私は君のその花飾りの名前を知らない」 彼は本を覗き込み、素直にそう言った。 胸の奥がかすかに震える。 ――馬鹿にされなかった。 初めての感覚に、彼女は言葉を失い、本を閉じる手が少しだけ震え、戸惑った笑みを見せた。 ※拙い文章です。読みにくい文章があるかもしれません。 ※自分都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。 ※本作品は別サイトにも掲載中です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです

しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。 さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。 訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。 「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。 アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。 挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。 アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。 リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。 アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。 信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。 そんな時運命を変える人物に再会するのでした。 それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。 一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 全25話執筆済み 完結しました

処理中です...