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第四十七話 宿敵との決戦
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■ジーク視点■
「よく来たなてめえら。逃げないで来た事は褒めてやるぜ」
大歓声に包まれる中、俺と兄上の前に立ったアンドレは、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。その隣には、浮かない顔のココも立っている。
さっきはあんなに荒れていたというのに、随分と立ち直りが早い男だ。馬鹿だから、その辺も単純なのだろうな。
「こちらこそ感謝していますよ。このような決着の舞台を共に作れた事に」
「俺達の恩人を……大切な人を傷つけ、愚弄した罪は重い。覚悟しろ」
試合の開始の合図もされていないのに、自分の胸の内から燃え上がる怒りを抑えきれなかった俺は、愛用している剣を鞘から抜いた。
それに釣られるように、兄上は杖を、アンドレは大剣を、ココは長い杖を取り出した。
獲物を見た感じでは、アンドレがガンガン前に出て、それをココがサポートする形とみて間違いないだろう。俺達のやり方に似ている。
「さあ会場の盛り上がりも最高潮だ! そんな中、最後に行われるのはこのエキシビション! 選手の紹介と行くぞー! ジェニエス学園が誇る最強兄弟! 『賢者』と呼ばれる兄、クリス・ベルモンド! そのパートナーを務めるのが、『剣聖』と呼ばれし弟、ジーク・ベルモンドだぁぁぁぁ!!」
何とも恥ずかしい名称で呼ばれて頭を抱えていると、観客達から大歓声が沸き起こった。
なんでこれを喜ぶのかがわからない……誰が聞いても痛い名前だろう。人前で俺は『剣聖』だ……なんて言ったら、気持ち悪がられるに違いない。
「対するゲール学園からは、王族の歴史で歴代最強と謡われるこの方! 最近は生徒会長となった、アンドレ・プロスペリア! パートナーを務めるのが、なんとまだ我々の記憶に新しい、巡礼のお供として過酷な旅を超えた女性! ココ・リシャ―ルです!」
こいつの紹介など、歓声など上がるわけが……と思っていたが、俺達の時と比べても遜色がない歓声だ。
そういえば、こいつは外面だけは良かったんだったな……すっかり忘れていた。まあいい。この公共の場で、その化けの皮を剥がしてやる。
「では……エキシビションマッチを開催させていただきます! では……試合開始ぃぃぃぃぃ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
「死にさらせゴラァァァァァ!!」
開始の合図と共に、近接組の俺とアンドレが、雄たけびを上げながら突っ込むと、互いの剣を思い切りぶつけた。
それだけに終わるはずもなく、俺達はさらに攻撃を繰り返す。俺が剣を振り下ろせば、アンドレが受け止めてから受け流し、その隙をつくようにアンドレが剣で刺そうとするが、俺は受け流された剣を持ち直し、すぐに剣で攻撃を防いだ。
「なんだ……この程度かぁ? そんなクソみたいな剣で、シエルを守れると本気で思ってんのか? 見た目に似合わず、頭ん中花畑かよバーカ!」
「雑魚が吠えるな。耳障りだ」
「んだと……!?」
「む……!?」
くだらない言い合いをしている間に、地を這う蛇のような形をした、真っ赤な炎が俺達に向かって這ってきた。
こんな生き物はこの世にいない。ということは、ココの魔法の一つか。炎の魔法……兄上に相性が悪いのが気にかかる。
いや、今はそれよりもあの蛇から逃げるのを優先しよう。斬っても良いんだが、もし爆発でもされたら致命傷だ。
「おっと、何逃げてるんですかぁ~!? 次男ぼ~う!!」
心底俺を馬鹿にするような言い方をするアンドレは、なんと剣先に先程の炎の蛇を乗せ、俺へと投げつけてきた。
このままでは当たる――そう思った矢先、俺の前に氷柱が出現し、炎の蛇から守ってくれた。
「一瞬で蒸発までさせるとは……良い火力だ。さすがココ殿」
「すまない、面倒をかけた」
「気にするな、と言いたいが……少し冷静になれ。奴がココ殿を使ってるのを含め、奴は我々の気持ちを乱したいようだ。焦らせれば戦術もブレるし、我々が落ち込むのを見たいという魂胆が見え見えだ」
まあそんなところだろうな。根性がねじ曲がっているあいつなら、全然あり得そうな事だ。
「なにしてんだバカ! あれをちゃんと決めないでどうするんだ無能が!」
「す、すみません……次こそ決めますので……!」
ココは大きな杖の下の部分を地面に突き刺すと、そのまま詠唱を始めた。
魔法の威力は詠唱の時間や、魔法陣の数で大体の予想が出来る。あの詠唱の長さに、魔法陣の数は五個……それも全部炎の魔法陣。詠唱も長い所を見るに……デカいのが来る!
「これはしっかり対処しよう。叩きにいけるかい?」
「もちろんだ」
「よし。ここは我が領域……絶対零度と化する!!」
兄上が短い詠唱を終えると、地面が一瞬に凍りついた。この氷を使って相手の機動力と集中力を奪い、こちらは機動力を得る。昔から、足元が凍った時の戦闘は訓練してるからな。
「全て……斬る!」
俺は器用に氷の上を滑り、アンドレ達の元へと接近する。向こうは凍った足場のせいで上手く動けていないようだから、かなり俺の方が有利と言える。
「貰った!」
反撃は飛んでこないと踏んだ俺は、躊躇なくアンドレに斬りかかる――が、硬いなにかによって阻まれていた。
これは……身を守る障壁か。アンドレの前で杖を構えているココの姿を見た感じ、こいつの魔法か……元々シエルを守る為に一緒に行動していたのだから、防御魔法を持ってても不思議ではないな。
それにしても、別の魔法を詠唱していたのに、咄嗟に防御魔法を使えるだなんて、ココは想像以上にやり手だな。
「勝ったと思ったか? 甘いんだよ雑魚が!」
「ふん……味方に守る事しか出来ない分際で、よく吠えられたものだな」
「相変わらずおもしれえ事を言うじゃねえか。それならこの壁を破ってみせろや!」
「上等だ……!!」
挑発に乗ったと思われるのも癪だが、ここで引いたら負けだ。そう思い、俺は一心不乱に剣を振って障壁を破壊しようとするが、一向に壊せる気配がない。
くそっ、さっさとこの外道に一太刀を浴びせたいのに、想像以上にココの魔法が厄介すぎる。
「おいその程度か? さっきの威勢はどこに行ったんだ!?」
「くっ……まだだ!!」
ココの後ろで嫌らしく笑うアンドレに怒りを覚えながら、何度も何度も剣を振るうが、それでも障壁にヒビ一つ入る事は無かった……。
「はははは!! なんだったか? 俺に吠えるだとかなんとか言っていたが、てめえの方が負け犬じゃねえか! まあ、あんな根暗で気持ちの悪い女に忠誠を誓う駄犬なら、それも仕方なしってか!」
「この期に及んで、まだシエルの事を愚弄するか!?」
障壁の向こうで笑うアンドレに一太刀浴びせる為に、俺は剣を振る。振る。振る。それでも、やはり俺の剣では障壁を破る事が出来なかった。
「てめえ、弱すぎんだろ。所詮は魔法の才能の無い雑魚って事か?」
「っ……!」
「こいつ、中々使えるだろう? 伊達に巡礼でシエルを守ってきただけある。今やその力は、国の宝であるオレ様を守る為に存在している。回復しか能がないてめえの飼い主とは大違いだろう?」
くそっ……俺にもっと力があれば……こんな障壁なんて一撃で破壊できる魔法の才能があれば……! 所詮魔法の才能がない人間が、努力だけで勝とうなんておこがましかったというのか?
……冗談じゃない。俺はベルモンド家を守る為、兄上の隣に立つため……そして、シエルを守る為に剣の腕を磨いてきたんだ。こんな所で……折れてたまるか!
「おーおー、思ったより頑張るじゃねえか。だが……これで終わりだ!」
「なっ……!?」
俺の目の前でスッと手を上げたアンドレ。それと同時に、俺の周りには、無数の風の刃がフワフワと浮かび……俺に向かって飛んできた。
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それに釣られるように、兄上は杖を、アンドレは大剣を、ココは長い杖を取り出した。
獲物を見た感じでは、アンドレがガンガン前に出て、それをココがサポートする形とみて間違いないだろう。俺達のやり方に似ている。
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何とも恥ずかしい名称で呼ばれて頭を抱えていると、観客達から大歓声が沸き起こった。
なんでこれを喜ぶのかがわからない……誰が聞いても痛い名前だろう。人前で俺は『剣聖』だ……なんて言ったら、気持ち悪がられるに違いない。
「対するゲール学園からは、王族の歴史で歴代最強と謡われるこの方! 最近は生徒会長となった、アンドレ・プロスペリア! パートナーを務めるのが、なんとまだ我々の記憶に新しい、巡礼のお供として過酷な旅を超えた女性! ココ・リシャ―ルです!」
こいつの紹介など、歓声など上がるわけが……と思っていたが、俺達の時と比べても遜色がない歓声だ。
そういえば、こいつは外面だけは良かったんだったな……すっかり忘れていた。まあいい。この公共の場で、その化けの皮を剥がしてやる。
「では……エキシビションマッチを開催させていただきます! では……試合開始ぃぃぃぃぃ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
「死にさらせゴラァァァァァ!!」
開始の合図と共に、近接組の俺とアンドレが、雄たけびを上げながら突っ込むと、互いの剣を思い切りぶつけた。
それだけに終わるはずもなく、俺達はさらに攻撃を繰り返す。俺が剣を振り下ろせば、アンドレが受け止めてから受け流し、その隙をつくようにアンドレが剣で刺そうとするが、俺は受け流された剣を持ち直し、すぐに剣で攻撃を防いだ。
「なんだ……この程度かぁ? そんなクソみたいな剣で、シエルを守れると本気で思ってんのか? 見た目に似合わず、頭ん中花畑かよバーカ!」
「雑魚が吠えるな。耳障りだ」
「んだと……!?」
「む……!?」
くだらない言い合いをしている間に、地を這う蛇のような形をした、真っ赤な炎が俺達に向かって這ってきた。
こんな生き物はこの世にいない。ということは、ココの魔法の一つか。炎の魔法……兄上に相性が悪いのが気にかかる。
いや、今はそれよりもあの蛇から逃げるのを優先しよう。斬っても良いんだが、もし爆発でもされたら致命傷だ。
「おっと、何逃げてるんですかぁ~!? 次男ぼ~う!!」
心底俺を馬鹿にするような言い方をするアンドレは、なんと剣先に先程の炎の蛇を乗せ、俺へと投げつけてきた。
このままでは当たる――そう思った矢先、俺の前に氷柱が出現し、炎の蛇から守ってくれた。
「一瞬で蒸発までさせるとは……良い火力だ。さすがココ殿」
「すまない、面倒をかけた」
「気にするな、と言いたいが……少し冷静になれ。奴がココ殿を使ってるのを含め、奴は我々の気持ちを乱したいようだ。焦らせれば戦術もブレるし、我々が落ち込むのを見たいという魂胆が見え見えだ」
まあそんなところだろうな。根性がねじ曲がっているあいつなら、全然あり得そうな事だ。
「なにしてんだバカ! あれをちゃんと決めないでどうするんだ無能が!」
「す、すみません……次こそ決めますので……!」
ココは大きな杖の下の部分を地面に突き刺すと、そのまま詠唱を始めた。
魔法の威力は詠唱の時間や、魔法陣の数で大体の予想が出来る。あの詠唱の長さに、魔法陣の数は五個……それも全部炎の魔法陣。詠唱も長い所を見るに……デカいのが来る!
「これはしっかり対処しよう。叩きにいけるかい?」
「もちろんだ」
「よし。ここは我が領域……絶対零度と化する!!」
兄上が短い詠唱を終えると、地面が一瞬に凍りついた。この氷を使って相手の機動力と集中力を奪い、こちらは機動力を得る。昔から、足元が凍った時の戦闘は訓練してるからな。
「全て……斬る!」
俺は器用に氷の上を滑り、アンドレ達の元へと接近する。向こうは凍った足場のせいで上手く動けていないようだから、かなり俺の方が有利と言える。
「貰った!」
反撃は飛んでこないと踏んだ俺は、躊躇なくアンドレに斬りかかる――が、硬いなにかによって阻まれていた。
これは……身を守る障壁か。アンドレの前で杖を構えているココの姿を見た感じ、こいつの魔法か……元々シエルを守る為に一緒に行動していたのだから、防御魔法を持ってても不思議ではないな。
それにしても、別の魔法を詠唱していたのに、咄嗟に防御魔法を使えるだなんて、ココは想像以上にやり手だな。
「勝ったと思ったか? 甘いんだよ雑魚が!」
「ふん……味方に守る事しか出来ない分際で、よく吠えられたものだな」
「相変わらずおもしれえ事を言うじゃねえか。それならこの壁を破ってみせろや!」
「上等だ……!!」
挑発に乗ったと思われるのも癪だが、ここで引いたら負けだ。そう思い、俺は一心不乱に剣を振って障壁を破壊しようとするが、一向に壊せる気配がない。
くそっ、さっさとこの外道に一太刀を浴びせたいのに、想像以上にココの魔法が厄介すぎる。
「おいその程度か? さっきの威勢はどこに行ったんだ!?」
「くっ……まだだ!!」
ココの後ろで嫌らしく笑うアンドレに怒りを覚えながら、何度も何度も剣を振るうが、それでも障壁にヒビ一つ入る事は無かった……。
「はははは!! なんだったか? 俺に吠えるだとかなんとか言っていたが、てめえの方が負け犬じゃねえか! まあ、あんな根暗で気持ちの悪い女に忠誠を誓う駄犬なら、それも仕方なしってか!」
「この期に及んで、まだシエルの事を愚弄するか!?」
障壁の向こうで笑うアンドレに一太刀浴びせる為に、俺は剣を振る。振る。振る。それでも、やはり俺の剣では障壁を破る事が出来なかった。
「てめえ、弱すぎんだろ。所詮は魔法の才能の無い雑魚って事か?」
「っ……!」
「こいつ、中々使えるだろう? 伊達に巡礼でシエルを守ってきただけある。今やその力は、国の宝であるオレ様を守る為に存在している。回復しか能がないてめえの飼い主とは大違いだろう?」
くそっ……俺にもっと力があれば……こんな障壁なんて一撃で破壊できる魔法の才能があれば……! 所詮魔法の才能がない人間が、努力だけで勝とうなんておこがましかったというのか?
……冗談じゃない。俺はベルモンド家を守る為、兄上の隣に立つため……そして、シエルを守る為に剣の腕を磨いてきたんだ。こんな所で……折れてたまるか!
「おーおー、思ったより頑張るじゃねえか。だが……これで終わりだ!」
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