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第二十四話 お父様ならやりかねない
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その日の夜、私はいつものように部屋で眠っていると、変な臭いに反応して目を覚ました。
「なにかしら、この音……それに、酷く臭う……これ、何かが焦げてる?」
嫌な予感がして体を起こすと、小屋の一部が燃えていて、一瞬にして私の周りは囂々と燃える炎に囲まれてしまった。
「か、火事!? どうして急に!? この小屋には、燃えるようなものはなに一つないのに! とにかく、早くここから逃げないと!
出入り口から逃げようとしたが、そこは既に炎で通れなくなっている。それなら窓からと思ったが、そこも炎の勢いが酷い。
まるで、私がここから逃げる道を、完全に絶っているかのようだ。
「これでは逃げられな……ごほっ、ごほっ!」
脅威なのは炎だけではなく、この煙だ。すでに煙は小屋の中に充満していて、私の呼吸を妨げてくる。
このままでは、数分もしないうちに私はお母様のところに旅立ってしまう。お母様には会いたいが、こんな形で、何も達成しないで逝くわけにはいかない!
「な、なんとか逃げる方法を……」
煙にやられないように、姿勢を低くして考えるが、逃げ道がないこの状況では、どうしようもない。
魔法でどうにかしようにも、私はまだ魔法は使えないし……ごほっ……く、苦しい……息が……体の中が、焼けるように熱い……それに、意識も……。
「早く……逃げないと……こんなところで、死んでたまるものですか……うぅ、今だけでも、魔法が使えれば……そ、そうだわ! まだ逃げ道はある!」
私は、何とか力を振り絞って杖を出すと、それを勢い良く振って空間の裂け目を開く。そして、その裂け目まで這いずって飛び込んだ。
それから間もなく、背後から何か大きなものが崩れ落ちる音が聞こえてきた。きっと、燃えて耐えきれなくなった小屋が崩れ落ちたのだろう。
ほんの少しだけ判断が遅れていたら、私はあのまま屋根の下敷きになって、燃えていた。そう思うと、恐怖で体がすくんだ。
「と、とにかく……助かった……」
火事になった家とは打って変わり、相変わらず平和な湖畔に、私の荒い呼吸音が響く。
どうして急に火事になったのだろうか……あの小屋が燃えたということは、屋敷も……? さすがにそれは無いわね。あの小屋は、屋敷から随分と離れているし……。
「だめだ、混乱して考えがまとまりませんわ……」
「シャーロット、こんな時間にどうし――な、なにがあったんだ!?」
私のただならぬ様子に、ルーク様はいつもの柔らかい表情から慌てた表情に変えながら、すぐに私の元に駆け寄ってきてくれた。
「ルーク様……わ、私の住んでいた家が……急に火事に……」
「火事だって!? 怪我は無いか!?」
「なんとか……煙を吸ってしまったからか、少し呼吸が苦しいですが……」
「わかった。とりあえず中に……といいたいが、こっちに被害が出ないように、裂け目は完全に消しておかないと」
ルーク様は、手を裂け目に向けてつきだして、握りつぶすように、手をギュッとする。すると、裂け目は割れるような音と共に、粉々に砕け散った。
「これでよし。少しジッとしててね」
「きゃっ」
ルーク様にひょいっとお姫様抱っこをされ、そのままこっちの小屋の中にあるベッドに寝かされた。
こんな状況で不謹慎なのは承知の上だが……人生初のお姫様抱っこをされて、ドキドキしてしまって……またしてもらいたいかもだなんて、恥ずかしいことを考えている自分がいた。
****
「まだ息は苦しいかい?」
「少しだけ治まりましたわ。ありがとうございます」
ルーク様の好意に甘えて、ベッドで休ませてもらったおかげで、少しだけ体も気持ちも楽になってきた。
「そうか。僕が回復魔法を使えればよかったのだが……」
たしか、回復魔法は歴史上でも極一部の人しか使えない、超高等魔法だったはずだ。そんな魔法を使えないからって、そんなに気に病む必要は無いと思う。
「お気になさらないでください。こうして心配してくださるだけで、とても嬉しいですから」
「シャーロット……それで、なにがあったんだ?」
「私にもさっぱりで……いつもの様に家で眠っていたら、変な臭いと音がして。それで起きたら、家が炎に囲まれていて……出入り口や窓から逃げようとしたのですが、逃げられる道が軒並み炎の勢いがすごかったので、ここに逃げてきました」
端的に説明をすると、ルーク様は何かを思案するように視線を逸らす。そして、想像していなかったことを口にした。
「出入り口だけ炎が……その火事、もしかしてだけど……意図的なものじゃないかな?」
「意図的?」
「誰かが放火したってことだよ。臭いがしてすぐに起きたら、小屋の一部が燃えていた。それから君が起きたのとほぼ同時に、一瞬にして逃げられないほど、炎が燃え広がるなんて、ありえないと思う。それに、都合よく逃げ道が全て通れなくなっているなんてことがあるかな?」
「それは……確かに……」
「運が悪かった、炎の勢いが想像以上に強かった。理由をつければ納得できなくもないが……あまりにも不自然だ」
そう言われると、私も今回の火事がただの事故とは思えなくなってきた。
ただ、事故じゃないとすれば、一体誰がそんなことを……私を殺したいと思うほど、私を憎んでる人……あっ。
「もしかして、お父様が……」
「父君だって?」
「はい。眠る前に、ルーク様から預かった書面を見せて、物凄く怒っていたのです。なので、その腹いせとして、事故に見せかけて私を抹殺しようとしたのかもしれません。いや、きっとそうです」
「そんな馬鹿な……!?」
私だって信じたくないが、私は長年お父様の醜さを見せつけられてきた。お父様ならやりかねない。
このまま結婚されてしまえば、王家と良縁を結ぶことも出来ないうえに、杖まで手元から失ってしまう……それなら、いっそ事故に見せかけて殺してしまえと思ったのだろう。
「お父様なら、可能性は大いにありますわ」
「一体どういう思考をしていれば、自分の子供を殺そうとする考えに及ぶんだ? しかも、事故に見せかけるだなんて、悪質にもほどがある……」
お父様にとっては、私は子供ではなくて、ただの物としか思っていない。だから、こんな非人道的なことが出来る。
「確証があるわけではありませんが……いつ殺されるかわからない場所に、これ以上住むわけにはいきませんわね……」
「それなら、城で生活をすればいい。父上には、結婚した後にすぐになじめるように、先に住まわせてもらいたいとお願いすれば、なんとかなるさ」
「それはとてもありがたい申し出ではありますが、よろしいのですか? あまりにもルーク様に頼りきりで、申し訳ないです」
「問題ないよ。目の前で困っている人がいるのに助けないなんて、それこそ僕の信条に反することだからね。さて、そうと決まれば急いで父上に――」
「えっと、ルーク様? 向こうは夜ですから、国王様は既にお休みかと……」
「おっと、そうだったね。あはは、気ばかりが焦ってしまったよ」
いつもと変わらないルーク様の笑顔は、私に安心を与えてくれた。
もうあそこには、私の居場所はないけれど……今の私には、ルーク様の隣という居場所がある。そう思えたから。
「なにかしら、この音……それに、酷く臭う……これ、何かが焦げてる?」
嫌な予感がして体を起こすと、小屋の一部が燃えていて、一瞬にして私の周りは囂々と燃える炎に囲まれてしまった。
「か、火事!? どうして急に!? この小屋には、燃えるようなものはなに一つないのに! とにかく、早くここから逃げないと!
出入り口から逃げようとしたが、そこは既に炎で通れなくなっている。それなら窓からと思ったが、そこも炎の勢いが酷い。
まるで、私がここから逃げる道を、完全に絶っているかのようだ。
「これでは逃げられな……ごほっ、ごほっ!」
脅威なのは炎だけではなく、この煙だ。すでに煙は小屋の中に充満していて、私の呼吸を妨げてくる。
このままでは、数分もしないうちに私はお母様のところに旅立ってしまう。お母様には会いたいが、こんな形で、何も達成しないで逝くわけにはいかない!
「な、なんとか逃げる方法を……」
煙にやられないように、姿勢を低くして考えるが、逃げ道がないこの状況では、どうしようもない。
魔法でどうにかしようにも、私はまだ魔法は使えないし……ごほっ……く、苦しい……息が……体の中が、焼けるように熱い……それに、意識も……。
「早く……逃げないと……こんなところで、死んでたまるものですか……うぅ、今だけでも、魔法が使えれば……そ、そうだわ! まだ逃げ道はある!」
私は、何とか力を振り絞って杖を出すと、それを勢い良く振って空間の裂け目を開く。そして、その裂け目まで這いずって飛び込んだ。
それから間もなく、背後から何か大きなものが崩れ落ちる音が聞こえてきた。きっと、燃えて耐えきれなくなった小屋が崩れ落ちたのだろう。
ほんの少しだけ判断が遅れていたら、私はあのまま屋根の下敷きになって、燃えていた。そう思うと、恐怖で体がすくんだ。
「と、とにかく……助かった……」
火事になった家とは打って変わり、相変わらず平和な湖畔に、私の荒い呼吸音が響く。
どうして急に火事になったのだろうか……あの小屋が燃えたということは、屋敷も……? さすがにそれは無いわね。あの小屋は、屋敷から随分と離れているし……。
「だめだ、混乱して考えがまとまりませんわ……」
「シャーロット、こんな時間にどうし――な、なにがあったんだ!?」
私のただならぬ様子に、ルーク様はいつもの柔らかい表情から慌てた表情に変えながら、すぐに私の元に駆け寄ってきてくれた。
「ルーク様……わ、私の住んでいた家が……急に火事に……」
「火事だって!? 怪我は無いか!?」
「なんとか……煙を吸ってしまったからか、少し呼吸が苦しいですが……」
「わかった。とりあえず中に……といいたいが、こっちに被害が出ないように、裂け目は完全に消しておかないと」
ルーク様は、手を裂け目に向けてつきだして、握りつぶすように、手をギュッとする。すると、裂け目は割れるような音と共に、粉々に砕け散った。
「これでよし。少しジッとしててね」
「きゃっ」
ルーク様にひょいっとお姫様抱っこをされ、そのままこっちの小屋の中にあるベッドに寝かされた。
こんな状況で不謹慎なのは承知の上だが……人生初のお姫様抱っこをされて、ドキドキしてしまって……またしてもらいたいかもだなんて、恥ずかしいことを考えている自分がいた。
****
「まだ息は苦しいかい?」
「少しだけ治まりましたわ。ありがとうございます」
ルーク様の好意に甘えて、ベッドで休ませてもらったおかげで、少しだけ体も気持ちも楽になってきた。
「そうか。僕が回復魔法を使えればよかったのだが……」
たしか、回復魔法は歴史上でも極一部の人しか使えない、超高等魔法だったはずだ。そんな魔法を使えないからって、そんなに気に病む必要は無いと思う。
「お気になさらないでください。こうして心配してくださるだけで、とても嬉しいですから」
「シャーロット……それで、なにがあったんだ?」
「私にもさっぱりで……いつもの様に家で眠っていたら、変な臭いと音がして。それで起きたら、家が炎に囲まれていて……出入り口や窓から逃げようとしたのですが、逃げられる道が軒並み炎の勢いがすごかったので、ここに逃げてきました」
端的に説明をすると、ルーク様は何かを思案するように視線を逸らす。そして、想像していなかったことを口にした。
「出入り口だけ炎が……その火事、もしかしてだけど……意図的なものじゃないかな?」
「意図的?」
「誰かが放火したってことだよ。臭いがしてすぐに起きたら、小屋の一部が燃えていた。それから君が起きたのとほぼ同時に、一瞬にして逃げられないほど、炎が燃え広がるなんて、ありえないと思う。それに、都合よく逃げ道が全て通れなくなっているなんてことがあるかな?」
「それは……確かに……」
「運が悪かった、炎の勢いが想像以上に強かった。理由をつければ納得できなくもないが……あまりにも不自然だ」
そう言われると、私も今回の火事がただの事故とは思えなくなってきた。
ただ、事故じゃないとすれば、一体誰がそんなことを……私を殺したいと思うほど、私を憎んでる人……あっ。
「もしかして、お父様が……」
「父君だって?」
「はい。眠る前に、ルーク様から預かった書面を見せて、物凄く怒っていたのです。なので、その腹いせとして、事故に見せかけて私を抹殺しようとしたのかもしれません。いや、きっとそうです」
「そんな馬鹿な……!?」
私だって信じたくないが、私は長年お父様の醜さを見せつけられてきた。お父様ならやりかねない。
このまま結婚されてしまえば、王家と良縁を結ぶことも出来ないうえに、杖まで手元から失ってしまう……それなら、いっそ事故に見せかけて殺してしまえと思ったのだろう。
「お父様なら、可能性は大いにありますわ」
「一体どういう思考をしていれば、自分の子供を殺そうとする考えに及ぶんだ? しかも、事故に見せかけるだなんて、悪質にもほどがある……」
お父様にとっては、私は子供ではなくて、ただの物としか思っていない。だから、こんな非人道的なことが出来る。
「確証があるわけではありませんが……いつ殺されるかわからない場所に、これ以上住むわけにはいきませんわね……」
「それなら、城で生活をすればいい。父上には、結婚した後にすぐになじめるように、先に住まわせてもらいたいとお願いすれば、なんとかなるさ」
「それはとてもありがたい申し出ではありますが、よろしいのですか? あまりにもルーク様に頼りきりで、申し訳ないです」
「問題ないよ。目の前で困っている人がいるのに助けないなんて、それこそ僕の信条に反することだからね。さて、そうと決まれば急いで父上に――」
「えっと、ルーク様? 向こうは夜ですから、国王様は既にお休みかと……」
「おっと、そうだったね。あはは、気ばかりが焦ってしまったよ」
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