【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第二十六話 不愉快な次期国王

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 ハリー様とルーク様が会話を始める前に、まずは挨拶をしようと思い、一歩前に出て頭を下げる。

「ごきげんよう、ハリー様。シャーロット・ベルナールと申します」

「挨拶は不要だ。貴様のことは、パーティーで何度も見かけているからな」

「仰る通りでございますが、ちゃんと挨拶をしたことがございませんでしたので、この場を借りてご挨拶をさせていただきました」

「まったくだ。次期国王の俺様に挨拶に来ないだなんて、どれだけ失礼なんだ? 俺様は寛大だから許してやるが、普通なら不敬罪で即ギロチンだぞ」

「大変申し訳ございません」

 自分が次の王だと思っているからなのか、言葉の節々から偉そうな態度が見え隠れする。まるでお父様と会話しているみたいで、正直不快だ。

 そもそも、挨拶はしたくてもお父様に止められていたのだから、どうしようもなかった。まあ、それを説明しても時間の無駄だろうから、適当に謝って乗り切ることにした。

「まあ、それもしかたがないか。これでも俺様は情報通でね。昨日の火事についても知っている。それで、なぜ貴様は助かっている?」

 もうあの火事のことが知れ渡っているのね。巻き込まれた私のことはどう公表しているのかわからないが、変に話に食いつかない方が良さそうだ。

「まあ、貴様が生きてようが死んでようが、どうでもいい。興味がないからな。それよりも、随分と使い物にならない女だそうだな。大方、親に恥だと思われて、挨拶をさせてもらえなかったとかか?」

 突然の言葉に驚いていると、ハリー様は更に言葉を続ける。

「まあ、ベルナール家自体が、ただ魔法が出来るだけの人間を輩出しているだけで、鼻が高くなるような馬鹿の集まりだから、その娘も馬鹿になるのは必然か。いや、確か魔法が使えないんだったな? あはは、もはやその辺の石ころの方が価値があるんじゃないかな?」

「…………」

「見た目だって、顔はまあまあだけど、体なんて貧相そのものじゃないか。せめて、もう少しスタイルが良ければ、夜の相手くらいにはしてもよかったんだけどな。兄上、随分と趣味が悪いのですね?」

「は……?」

 一応、まともに話したのはこれが初めてだというのに、どれだけ失礼なことを言うのだろうか。百歩譲って私のことは良いが、ルーク様を馬鹿にするだなんて、許せない!

「君がどう思おうと勝手だが……見た目や評判に惑わされて思考が凝り固まるだなんて、本当に愚かだね。次期国王の名が泣いているよ? そんなので、この国を導いていけると思っているのかな?」

「ええ、くだらない妄言を吐きながら、くだらない研究に没頭し、子供だまし程度のくだらない魔法を量産している兄上が国王になるよりかは、幾分かはマシでしょう」

「くだらないですって……!?」

 ルーク様は、民の事を想い、自分に力が無くてもどうにかして民を幸せに出来ないか考え、努力しているというのに、それをよりにもよって、くだらないですって……!?

 これ以上、黙って聞いてなんていられない。そう思って口を挟もうとした私の肩に、ルーク様の手が優しく乗った。

「君が散々馬鹿にしてきた僕が国王になり、彼女が妃となったら、君はどんな顔で悔しがってくれるのか、今から楽しみで仕方がないよ」

「ええ、ぜひ楽しみにしていてください。そんな未来は絶対に来ませんから。さて、もう少しあなた達とお喋りに興じていたいが、俺様は忙しい身でしてね。そろそろ失礼しますよ」

 ハリー様は、すました笑顔で私の横を通って去ろうとする。しかし、突然私の隣で止まると、私の顔を覗き込んできた。

「……なにか」

「ふーん……なるほど。先程の言葉は少し撤回させてもらおう。兄上、あなたがこの女を選んだ理由が、少しだけわかりましたよ。こんな女から、面白い匂いがする」

 私に向けられた意地の悪い笑みに、思わず背筋が冷たくなった。

 もしかして、ハリー様は私の杖のことに気が付いている? 以前、魔法の才能が凄いと聞いていたし……可能性は大いにある。

「さ……さあ。私には何のことかさっぱりですわ」

「とぼけるのか? まあいいけどさ。それじゃ」

 そう言い残して、今度は本当に私達の元を去っていった。

 バレたからといって、何かされると決まったわけじゃないけど、気をつけておいて損はないだろう。

「あはは、見苦しいものを見せてごめんよ」

「お気になさらず。でも驚きましたわ……まさか、ルーク様があんなに食ってかかるだなんて」

「君だから言うけど、僕は兄弟達のことを好ましく思っていなくてね。向こうもそれは同じみたいで、顔を合わせるたびに、あんな感じなんだよ」

 以前から、弟様達のことをあまり良いように思っていないのは知っていたが、ここまでとは……。

「見ての通り、あんな性格のハリーを王にしたら、この国はどうなってしまうか……考えただけで末恐ろしいよ」

「本当ですわね……ルーク様、絶対に王様になってくださいませ。そのためなら、どんなことでもお手伝いいたしますわ」

「ありがとう、シャーロット。さて、とんだ邪魔が入ってしまったが、改めて城の中を案内するよ。ほら」

「はい……って、ルーク様! その手!」

「ん?」

 差し出された手は、真っ赤な赤で染まっていた。その赤の原因の傷と思われる手のひらからは、今もどくどくと溢れ出ている。

「……あぁ……さっきのハリーの言葉で、頂点に達した怒りを少しでも発散させようと、少しだけ手に力を入れたんだけど、思ったよりも強かったみたいだね。あははっ」

「あははじゃないですよ! 早く手当てしないと……バイ菌が入ったら、大変ですよ!」

「シャーロットは大げさだなぁ。この程度、放っておけば明日には治っているよ」

「大げさではありませんわ!」

 怪我をした当人であるルーク様は、いつものように笑顔を浮かべている。

 このままでは埒が明かない。そう思った私は、怪我をしていない方の手を引っ張り、急いで私のものになる予定の部屋に行くと、部屋の机に置かれていた銀色のベルを鳴らした。

 それから間もなく、若い女性の使用人がやってきて、深々と頭を下げた。

「お呼びでしょうか――る、ルーク王子様!? その傷は!?」

「突然お呼びして申し訳ございません。ルーク様が怪我をされてしまったのですが、大丈夫といって聞かなくて……」

「かしこまりました。すぐにお医者様をお呼びいたしますので、少々お待ちください」

 これでよし。驚かせてしまったのは申し訳ないけど、ことりあえず手当はしてもらえそうだ。

「やれやれ、シャーロットがまさかここまで強引な手を使ってくるとはね」

「当然ですわ。もし立場が逆でしたら、無理にでも手当てをさせるでしょう?」

「それはもちろん。大切なシャーロットの肌に傷が付くようなことなんて、断じて見逃せないからね」

「それと同じです。私だって、あなたが傷つくのは見たくありませんもの。それに、そんな怪我を放っておいて、研究に支障が出てしまったら、悔やんでも悔やみきれませんよ?」

「うっ……」

「……でも、怒ってくれたこと……嬉しいです。私のことを怒る人はいても、私のために怒ってくれる人は……お母様だけでしたから」

 怪我をしていない方の手をギュッと握り、ボソッと呟く。

 ルーク様の優しさも、鼓動も、暖かさも、全てが伝わってくる。こんな心地いいものを知ってしまったら、もう絶対に離せない……ずっと一緒にいたい……そう強く感じた。
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