【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

文字の大きさ
48 / 82

第四十八話 愛の庭園

しおりを挟む
 精霊の一件から三日後。大事を取ってずっと休んでいた私は、ようやく体が本調子に戻ってきた。

 大きな怪我はしていないし、魔法の使い過ぎで疲労していたわけではないが、思ってた以上に、あの一件で疲れていたみたい。

「もう起きて大丈夫なのかい?」

「はい、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」

 いつものように、私の杖を使った研究をしていたルーク様は、真剣な表情から笑顔に変えながら、私のところにやってきた。

「うん、顔色も良いし、大丈夫そうだね。何か食べるかい?」

「はい、お腹がペコペコですわ。すぐに準備をしますから、お待ちくださいませ」

「なにを言っているんだい。君はまだ病み上がりなんだから、無理をしてはいけないよ」

「ですが……」

「そんな顔をしないでくれ。実は、ホウキと一緒に作ったスープがあるんだよ。だから、君が何かする必要は無い。温めてくるから、少し待っててもらえるかな」

「はい」

 そう言い残して、ルーク様はホウキと一緒にキッチンへと向かう。その後ろ姿を見ているだけで、とても幸せな気持ちになれる。

『あはは、だらしない顔になっちゃってさ~!』

『いいじゃない。それくらい幸せってことよ』

「この声……もしかして、精霊様ですの?」

 窓の外に目をやると、そこには童話に出てくる小さな妖精なような生き物達が、覗き込みながら楽しそうに笑っていた。

『ありゃ、また見つかっちゃったね~』

「もしかして、たまに私の前に来ていた光の正体ですか?」

『そうだよ~! ちゃんと姿がわかるようになるなんて、すごいじゃん!』

「あ、ありがとうございます。今日は逃げないのですか?」

『いつも見つかったら逃げてばかりじゃ、芸がなくてつまらないじゃない? 今日はお喋りしたい気分なのよ』

 男の子だと思われる精霊はケラケラと笑い、女の子と思われる精霊は上品に笑う。同じ精霊でも、性格や仕草は結構違いがあるものなのね。

「ずっとあなた達とは話せなかったのに、急にこんなに話せるようになるなんて、なんとも不思議ですわ」

『人生なんて、案外そんなものじゃないかな?』

『なにを偉そうに言っているのよ。私達精霊が、人間のなにを知っているというのよ』

『ん~、わかんないっ!』

「ふふっ……」

 こうして話していると、精霊もあまり人間と変わらないのがわかる。一緒にいて、とても楽しいわ。私のような力が無いと彼らと話せないのが、とっても残念。

『いまのあなたなら、もっとお喋りしたいけど、そろそろ私達はお暇しましょ。イケメンの彼に嫉妬されちゃうわ』

『そうだね~。僕達がいたら、イチャイチャしにくくなるもんね!』

「い、イチャイチャって!? 私は……!」

『あははははっ! 図星を突かれて慌てるの、おもしろ~い! やっぱり残って見物しようよ!』

『駄目に決まってるでしょ! それじゃあね、シャーロット。また遊びに来るわ』

「は、はい。また」

 女の子の精霊は、男の子の精霊の首根っこを掴んでその場を去っていった。

 今までは、ぼんやりと光る不思議な物体でしか認識できなかったのに、ちゃんと実態を見られたどころか、また会う約束までできるだなんてね。

「これも、復讐の心よりも、温かい心が強くなった影響かしら」

「話し声が聞こえていたが、もしかして、精霊と会話していたのかい?」

「はい、そうですわ、」

「彼らはなんて?」

「世間話を少々?それと、い……イチャイチャするのを邪魔しないようにって……」

「あははっ! そんな気の使われ方をされるとはね! それじゃあ、お言葉に甘えてイチャイチャしようか!」

「えぇ!? あの、その……」

 きっとリンゴのように真っ赤になっている顔を、ほんの小さくこくんっとすると、ルーク様は私の手を優しく握った。

「それじゃあ、食事を済ませたら、イチャイチャするのに素敵な場所を紹介するよ!」

 その言葉通り、食事として用意してくれたスープを綺麗にいただいてから間も無く、ルーク様は空間の裂け目を作り出し、私を連れて中に入る。

 裂け目の先は、どこかの庭園だった。色とりどりの花ビラが舞い、私達を歓迎してくれているようだ。

「ここは、城の中庭にある庭園だよ。亡き母上が好きだった場所でね。いつか君と、ここに来たかったんだ」

「ルーク様のお母様が……そんな大切な場所に連れて来て下さるだなんて、嬉しです」

「母上の好きな場所というのもあるが、ここは代々愛を誓い合った王家の人間が、その愛を育むためにやってくる場所とも伝えられているんだ」

「愛って……」

「事実だろう?」

「そ、そうですけどぉ……!」

 口に出されると、恥ずかしくて仕方がない。ルーク様は大丈夫かもしれないが、私にとっては大問題だ。

「ほら、一緒に散歩デートをしようじゃないか」

 一人で恥ずかしがっている間に、ルーク様は私の手を動かして、腕を組んでるような形にしてしまった。

「ここ、これって、腕を組んでますよね!?」

「ああ。いつもみたいにリードするのもいいけど、せっかくの二人きりなのだから、たまにはこういうのもいいだろう?」

 手を繋ぎ、抱きしめ合い、キスもしているというのに、腕は組んだことはなかった。
 普通に考えれば、キスよりも恥ずかしいことではないはずなのに、これはこれでとても恥ずかしい。

「ここにある花は、全て花言葉が良いものでね。これは永遠の愛。こっちはずっとあなたと一緒に。こっちは永遠の誓い……」

「お詳しいのですね」

「まあね。母上がそういうのが好きで、よく教えていただいていたんだ。とても聡明で、優しい人でね……おかげで、たくさんの知識が身についたよ」

「素敵なお母様なのですね」

「ああ、自慢の母さ。ところでシャーロット、君はどの花が好きかな?」

 突然話を振られて困ってしまったが、なんとなく見た目が好きな花を指し示した。

「この大きくて黄色い、綺麗なお花ですわ」

「なるほど、とても良い花だね。確か……あなただけを見ているという花言葉だったかな」

「まあ、そんな花言葉があるのですね。まるで私のよう……はっ」

 何気なく口にしてしまった言葉が、とても恥ずかしいものだということに気づくのは、そう時間はいらなかった。

「い、今のはその……違うんです。いえ、違うわけではなくて、むしろ本当にそう思いますけど……あうぅ、恥ずかしすぎて死んでしまいそう……!」

「僕も君のことをずっと見ているし、愛しているよ」

「えーっと……あの、その……そうだ! ルーク様はどのお花が好きなのですか!?」

「僕? そうだね……これかな」

 ルーク様は、私をとあるお花の前まで案内してくれた。それは、ピンク色のとても愛らしい、小さなお花だった。

「昔からこの花に不思議な魅力を感じていてね。この花で、母上に小さな花冠を作って差し上げたこともあるんだ」

「とても素敵な思い出ですのね。私も、このお花は可愛らしくて大好きですわ」

「君も気にいってくれて嬉しいよ。そうだ、今日の記念に一輪プレゼントさせてほしい」

「いいのですか?」

「大丈夫、元々プレゼントするつもりだったから、事前に庭師から許可は貰っているから」

 そう言うと、ルーク様はピンク色のお花を一本手に取り、髪飾りにするように、私の髪にそっと刺した。

「いいね、似合っている」

「ありがとうございます。ちなみに、この花の花言葉はなんなのですか?」

「無垢の愛。それと、あなたを必ず幸せにしますだよ」

「っ……!」

 ルーク様が好きになった花が、たまたまそのような花言葉を持っていたのか、それとも運命のイタズラなのか。その花言葉は、ルーク様の心情を表しているかのようだった。

「私も……あなたを幸せにしたいです。ルーク様……愛しておりますわ」

 私はルーク様の頬にそっと手を添えると、懸命に背伸びをしながらルーク様の唇を奪った。

 初めて私からしたキスは、お花のような甘さと、とても大きな幸福感を感じる、素敵なものだった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

【完結】ツンな令嬢は婚約破棄され、幸せを掴む

さこの
恋愛
伯爵令嬢アイリーンは素直になれない性格だった。 姉は優しく美しく、周りから愛され、アイリーンはそんな姉を見て羨ましくも思いながらも愛されている姿を見て卑屈になる。 アイリーンには婚約者がいる。同じく伯爵家の嫡男フランク・アダムス フランクは幼馴染で両親から言われるがままに婚約をした。 アイリーンはフランクに憧れていたが、素直になれない性格ゆえに、自分の気持ちを抑えていた。 そんなある日、友達の子爵令嬢エイプリル・デュエムにフランクを取られてしまう エイプリルは美しい少女だった。 素直になれないアイリーンは自分を嫌い、家を出ようとする。 それを敏感に察知した兄に、叔母様の家に行くようにと言われる、自然豊かな辺境の地へと行くアイリーン…

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

処理中です...