【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第五十二話 厳しい練習の日々

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 刻一刻と試験が迫る中、私は寝る間も惜しんで練習に励んでいた。おかげで、更に魔法は上達したと思うが、それ以上に疲労が凄いことになっていた。

「はぁ……はぁ……ごほっ……」

 壊れた的がそこら中に散乱する中、まともに息ができなくなり、意識もぼんやりとなりながらも、それでも魔法の練習を続ける。

「そこっ……!」

 茂みから顔を出した的を、風の魔法で八つ裂きにしながら、空を飛んでいく的に雷を落として粉々にする。湖から出てきた的は、同じ様に湖の水を操って壊していく。

 これらの的は、ルーク様の魔法によって属性が付与されていて、決まった属性じゃないと壊すことが出来ない。

 それに、的を壊したからといって、油断はできない。時々、的が私に向かって無作為に魔法攻撃を飛ばしてくる。ぶつかっても大した怪我にはならないが、きっちり防がないといけない。

 あまりにも過酷な練習ではあるが、無理をしているわけではない。これは、ルーク様が考えた魔法の練習だ。

 ルーク様が言うには、極限まで追い込まれても、自然と魔法が使えるように体に叩きこむために、こうして自分を追い込む練習をしている。

 なんとも泥臭い練習方法ではあるが、着実に力はついているのが実感できるし、今までは魔法を使うことに全意識を集中させていたのが、そこまでしなくても使えるようになったのよ。

 ……ただ、一つ大きな問題がある。

「絶対に勝って……宮廷魔術師になって……ルーク様と……!」

 必死に魔法を使う中で、自然と出た言葉。それにつられて、私の最大の相手である、マーガレットの顔が思い浮かぶ。

 最近の私なら、理性が働いてればある程度復讐心は抑えられるが、極限の状態では難しくて……こうなってしまうと、マーガレットやお父様から受けてきた仕打ちを思い出し、復讐心が膨れ上がってしまう。

「あっ……!」

 家族への復讐心……つまり、私の醜くてどす黒い感情が顔を出すと、一瞬にして魔法が乱れた。このままでは、大事故につながってしまう。

 そんな私を助けるように、練習を見ていたルーク様が魔法を使い、私の魔法を強制的に止めてくれた。

「そこまで。一旦休憩しようか」

「は……は、い……」

 ルーク様に休憩を促されて、膝から崩れ落ちるように座り込んだ。

 慣れてきたとはいえ、私の魔法は普通の魔法と違い、精霊を介さずに地脈から力を使うという方法だ。少しでも油断すれば、簡単に命を落としかねない。

 魔法の暴走の件も含めて、大事にならないように、この極限の練習をする際は、ルーク様か人形が必ず見てくれて、何かあった時に対処をしてもらっている。

 実際に、最近も何度か地脈の力の使い方に失敗して命を落としかけたり、この一帯を全て吹き飛ばしてしまいそうになったことがある。

「凄い汗だね。ほら、これを飲んで」

「あ、ありがとうございます……」

 ルーク様は、私の背中を支えながら、コップに入った水を優しく飲ませてくれた。

 ただの水であるはずなのに、疲れ切った体には最高のご馳走だ。体全体に染み渡っていくのを感じるわ。

「だいぶ自然に魔法が使えるようになってきたね。僕が教えた魔法もちゃんと発動しているし」

「そうで、しょうか……?」

「ああ。今までは一つの的に当てるのにものすごく集中していたのに、今では色々な方向に動く的に当てられるようになっている。咄嗟の自衛も出来ているし、目覚ましい進歩だよ」

「でも、先程は必死になったせいで、また変に気持ちが高ぶって、魔法が乱れてしまいました……」

「練習を重ねていく過程で、余裕が生まれてくる。そうすれば、別のことを考えるのは、たまにあることだよ。いつかは考えなくなるから。だから、大丈夫」

 私がまだ魔法を使えない時から知っているルーク様が言うのだから、間違いは無いと断言できる。おかげで、とても自信に繋がるわ。

『あせ、ビショビショ!おふろ、おふろ!』

「ああ、そうですわね……でも、疲れてそんな気分にも……」

「なら、僕が入れてあげるよ。ちょうど時間は空いているしね」

 ああ、それなら疲れ切ってお風呂で寝ちゃっても、なんの問題もないわね。ルーク様のことだから、きっと私の面倒を……って!?

「いやいやいや、さすがにそれは大問題ですわ!」

「まあ、お風呂と言っても、裸ではないよ。湯あみ用の服があるから、それを着てはいるんだよ」

「あ、ああ……なるほど……? う、うーん……それでも恥ずかしいものは恥ずかしいですわ……」

「そうかい? わかった、それじゃあホウキ達が手伝わせよう。みんな、いいかな」

『はーい! シャーロット、おふろ!』

「わわっ……あ、ルーク様……杖、お渡ししておきますので……研究にどうぞ」

 私は、先にルーク様に杖を手渡すと、元気いっぱいのホウキ達に連れられて、脱衣所に連れていかれた。そして、手早く着ている服を脱がされて、浴槽に入れられた。

 ホウキって、濡れても大丈夫なのだろうか……心配だけど、あまりにも疲れすぎていて、深く考えられない。

『シャーロット、気持ちいい?』

「ええ、とっても……」

 少しぬるいくらいのお湯が、私の疲れ切った体を優しく包み込む。それがあまりにも心地よくて、すぐに強い睡魔が襲ってきた。

「……ぐぅ……」

『シャーロット、寝る、だめ!』

「わぷっ」

 あと一歩で完全に眠りに落ちてしまうと思った瞬間、顔に勢いよくお湯がかけられ、意識がほんの少しだけ覚醒した。

 どうやら、ホウキが私にお湯をかけて、寝ないようにしてくれたみたいだ。

『寝るなら、浴槽、外! こっち!』

「はい、わかりました……」

 ホウキに言われるがまま浴槽を出ると、すぐ近くに置かれていた椅子に座らされた。すると、ホウキ達は私の体を丁寧に洗い始めてくれた。

 少しくすぐったいけど、とても丁寧に洗ってくれるから、さらに睡魔が……駄目だ、もう耐えられ、ない……。


 ****


 あれからどれだけ時間が過ぎたのだろう。目が覚めたら、小屋のベッドに寝かされていた。

 ホウキ達が洗ってくれたのか、あれだけかいていた汗は綺麗さっぱり無くなり、髪もいつも以上にサラサラになっている。もしかしたら、自分で洗うよりも、ホウキ達の方が上手なのかもしれない。

「おはよう。よく眠っていたね」

「おはようございます。私、どれだけ眠っていたのでしょう?」

「大体丸一日くらいかな?」

「一日!?」

 てっきり数時間程度と思っていたのに、私ったらそんなに眠っていただなんて。我ながら、どれだけ疲れていたのかと呆れてしまう。

「シャーロット、最近とても樺っているから、疲れが一気に出たんだと思うよ」

「これくらい、疲れに入りませんわ。もっともっと努力して、完璧に魔法を扱えるようになりませんと」

「シャーロット……」

 まだ私は完璧には程遠い。こんなことでは、宮廷魔術師になるどころか、マーガレットに勝つ事さえ夢のまた夢だ。もっともっと自分を追い込んで、実力を高めないと。

「……よし。シャーロット、もう動けるかい?」

「はい、問題ないかと。練習ですか?」

「いや、デートだ!」

「……へ?」

 すっかり練習の気分になっていたのに、急にデートと言われてしまい、あまりにも間抜けな声を出してしまった。

「えっと、ルーク様……私もあなたとお出かけしたいですし、一緒にいたいですが……今は遊んでいる時間はないかと……」

「根を詰めることだけが練習じゃないよ。たまには息抜きをしないと」

「ですが……」

「口答えしない! 僕は君と出かけてイチャイチャしたいんだ! わかったら、早く準備をする!」

「は、はいぃ!!」

 まるで子供が駄々をこねているかのような言葉に驚きつつも、私はホウキに手伝ってもらいながら、身支度を整えた。

「服よし、髪よし、お化粧よし……みんな、手伝ってくれてありがとうございます」

『どういたしまして! どういたしまして!』

『シャーロット、ゆっくり楽しんできてね!』

 私はピョンピョンと跳ねたり、体を揺するホウキに見送られて、小屋を後にした。

 あの口ぶりだと、ホウキ達も私のことを心配してくれていたのかしら……。

「お待たせしました」

「全然待ってないから大丈夫だよ。それよりも、さっきはすまなかった」

 先に外で待っていたルーク様は、合流して早々に、深々と頭を下げた。

 急にどうしたのかしら……ルーク様に謝られるようなことをされた覚えは、これっぽっちもないのだけど。

「どうして謝るのですか?」

「さっき、出かけるために強い口調を使ってしまったじゃないか。ああでも言わないと、きっとシャーロットは息抜きをしてくれないと思ってね……」

 なるほど、いつもしないような口ぶりだったから、なにかあるとは思っていたけど、そういう考えだったのね。

「私のためにしてくださったことを、怒るような真似なんて、私には出来ませんわ。そもそも、これっぽっちも怒ってませんから、お気になさらず」

「そ、そうかい? よかった……これで怒って嫌われたり、悲しませたりしてしまっていたら、僕は一緒に自分を責めていただろう」

 そ、そこまで思いつめなくても良いと思うわ……それだけ、私のことを考えてくれているのは、とても嬉しいけどね。

「それで、今日はどこに行かれるのですか? また町とか?」

「それも捨てがたいが、今日は二人きりで静かに過ごせる、綺麗な場所に行こうと思ってね。いつか行こうと思って、裂け目を繋いであるんだ」

「まあ、さすがルーク様……用意周到ですわ。さすがでございます」

「ありがとう。それじゃあ、行こうか」

 私は、どんな素敵な場所に連れていってくれるのか……そんな期待で胸を膨らませながら、ルーク様に手を取られて裂け目の中に入ると……そこは、一面に広がる漆黒だった。
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