【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第五十九話 頼もしい助っ人

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「どうしてあなたがここに……!?」

 私の前に現れたのは、紛れもなく以前会った精霊だった。今日も凛とした佇まいで、私のことを見つめている。

『我は貴様に伝えたはずだ。貴様が困った時は、我が力を貸してやると。その約束を守るために、力を貸したのだ』

 確かにそう言っていたのは覚えているが、まさかこの危機的状況で助けに来てくれるとは。あまりにも嬉しすぎる増援だ。

『それにしても、これは随分と巨大なゴーレムであるな。これを作った術者は、相当な手練れとみた』

 精霊は両手を合わせながら、天に向かって突き上げる。すると、細く綺麗な両腕に水蛇たちが集まり、巨大な水流となってゴーレムに襲いかかった――だが、ゴーレムは破壊するには至らなかった。

『ふむ、かなり頑丈であるな。それに、属性への耐性もある。本体でないと破壊は不可能か』

「本体?」

『今の我は、力の一部をここに送って顕現しているに過ぎない。我の本体は、あの祠から離れることは出来ないのでな』

 わざわざそんな手の込んだことをしてまで助けに来てくれたのね。本当に彼女には感謝しかない。

『それにしても、貴様ならあの程度のゴーレムなど、容易く破壊できると思っていたのだが……もしや、またしても憎しみに心を捕らわれたな?』

「それは……」

 図星を突かれてしまい、言葉を詰まらせる私に、精霊は更に言葉を続ける。

『人間の子よ、我はあの時に伝えたはずだ。貴様が力を行使できないのは、憎しみのせいだと。だというのに、貴様はまた憎しみに心を染めるのか?』

「わ、私は……」

『貴様が何を経験し、何を思うかは、我にはわからぬ。だが、憎しみや怒りから生まれるものは何もない。怒りで暴れ狂う我を止め、それを気づかせてくれたのは、他でもない貴様達であろう?』

「っ……!!」

 ……そうよ……憎しみに捕らわれていてはいけない……わかっていたはずなのに……ルーク様に思い出させてもらったのに、私は憎しみに心を許してしまった。それも、一度ならず二度までも。

 ……私は、本当に弱い人間だ。そして、なによりも……本当に自分が情けない! 結局ルーク様に助けてもらって、精霊に助けてもらって……!

『ふむ、ここに送った我の力が、もう限界のようだ。後は貴様の力だけで何とかするしかあるまい』

「……ありがとうございます、精霊様。私は……もう大丈夫です」

『ならよい。我も遠い地から応援している』

 消えていく精霊の言葉に頷くと、手に持った杖が大きく光り始める。

 ルーク様と精霊のおかげで、今度こそ本当に正しい心を取り戻せたと思う。その証拠に、さっきとは打って変わり、地脈の力を感じる。暖かい光を感じる。これなら……絶対に大丈夫。

「もう残りの時間は少ない……でも、やりようはありますわ」

 私はゆっくりとゴーレムに歩み寄る。当然、ゴーレムは私に岩を飛ばしたり、殴りつけて攻撃してくるが、最低限の障壁魔法で攻撃を防ぎ、なんとかゴーレムに触れられる距離まで近づいた。

「…………」

 私は目を閉じ、全部の意識を集中してゴーレムに魔力を注ぎ込む。すると、ゴーレムの体の一部にヒビが入った。

 そこからヒビは体全体に広がっていくと、自らの重みに耐えきれなくなり、大きな音を立てながら崩れていった。

「うっそでしょ……お姉様、一体何をしたの!?」

「あなたと同じようなことですわ。もっとも、私の場合はゴーレムの内部の一部にヒビを入れただけですが」

 先程のマーガレットの魔法をヒントに、それぞれ対応している属性をゴーレムの中に流し込み、内側から攻撃してヒビを入れた。

 地脈の力をもっと引っ張ってくれば、マーガレットのような強くて派手な魔法は使えたかもしれないが、準備に時間がかかるうえに、今の私の状態では、地脈の力のコントロールに失敗し、取り返しがつかないことになるかもしれない。

 だから、ゴーレムの巨大さを活かし、必要最低限の力と時間で何とかする方法を取ったの。

「力任せではなく、魔力のコントロールで強大な相手を倒す……おみごとです。シャーロット・ベルナール様、二次試験突破です」

「はい。ありがとうございます」

 土壇場での通過に、会場から驚きの声と、祝福の拍手の雨が降り注ぐ。そんな彼らに、私は深々と頭を下げ続けた。

「信じられない……あの無能だったお姉様が、あたしとここまで張り合うだなんて……やっぱり、その杖が悪さをしているのね!」

「それは違いますわ。お母様の杖は、あくまで私を支えてくださっているに過ぎません。私は、ルーク様から教わったやり方で力を身につけ、この大舞台に立っているのです」

「偉そうにペラペラと……!」

「たまには良いではありませんか。今までずっと、あなたやお父様の機嫌次第では、喋ることすら禁じられることもあったのですから、少しは喋っても罰は当たらないかと」

「ふんっ! いいよ、お姉様。あんたのことは、次の最終試験で叩き潰してあげるから」

 まるでリンゴのように、耳まで真っ赤にさせたマーガレットは、一度控室へと戻っていった。それと入れ替わるように、ルーク様が物凄い形相で走ってきた。

 ああ、ルーク様……私の愛おしい人……危うくあなたの期待を裏切りそうになってしまったが、なんとかそうならずに済んだ。
 そう思ったら、私は体から一気に力が抜けてしまい、前のめりに倒れてしまった。

 しかし、ルーク様が私のことを受け止めてくれた。ルーク様の熱や匂い、鼓動が体に染み渡り、安心感と安らぎを与えてくれる。

「シャーロット、怪我は無いかい!? あんな派手に吹き飛ばされて……いくらゴーレムが命を奪わないように回路が組まれているとはいえ、生きた心地がしなかったよ!!」

「私は大丈夫です。ですが……私は、ルーク様に謝らなければなりません」

「謝る?」

「私は……一次試験の時、ルーク様に見守ってもらって、憎しみに染まりそうになった私を、助けてくださいました。なのに、私はまた憎しみに心を委ねようとしてしまいました。泉の精霊様が助けに来てくれなければ、今頃どうなっていたことか……私は、本当に愚か者です。申し訳ございません……!」

 私がしたことは、ある意味ではルーク様を裏切るような行為だ。ルーク様に呆れられても、愛想を尽かされても、何も文句は言えない。

 しかし、ルーク様は私の軽く抱き寄せ、自分の胸にすっぽりと収めると、そのまま頭を撫で始めた。

「僕は君の味方だ。君が何度間違えても、僕が必ず助けてあげるから、心配はいらないよ」

 どんな時でも、ルーク様はルーク様だ。私のことになると少し心配性で、愛情表現が過剰なくらい凄くて、魔法も凄くて、そして国や民のために頑張ってる……世界で私が一番愛している人だ。

「失礼、彼女をどこかで休ませてあげてもよろしいでしょうか? 出来れば、個室が良いのですが……」

「救護班が何かあった時に使う部屋ならどうでしょう? あそこにはベッドもあるので、休息に使えるかと。ただ、次の試験の時間には間に合うようにお願いいたします」

「わかりました」

 ルーク様は、彼にペコっと頭を下げてから、私のことを軽々持ち上げた。それも、お姫様抱っこで。

「あ、あの!? これはさすがに恥ずかしいと言いますか……! 沢山の人に見られてますよ!?」

「いいじゃないか。婚約は公表しているし、僕達の中の良さを見せつけちゃおう」

「う、うぅぅぅぅ……!」

 恥ずかしいが、疲れて動くのも大変な私に、ルーク様から逃げる術など無かった。

 ……とはいっても、術があっても逃げないと思う。だって……目の前にルーク様のお顔があって、ずっと見ていられるこの状況を、逃したくはないもの。
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