【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第七十四話 二度目の婚約破棄

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 私達を散々苦しめたマーガレットの影は、跡形もなく消え去った。その影響か、それ以上黒い人間達が生み出されることは無くなった。

 一件落着……と言いたいところだが、まだ魔法の解除はされていないし、なによりもルーク様が本当に無事かの確認をしないと。

「ルーク様!」

「…………」

 消えていった影の方をずっと見ていたルーク様の手から、あの杖が消えていくのとほぼ同時に、突然その場で大の字に倒れこんだ。

「はぁぁぁ~……! さすがに疲れた……! もう体が動きそうもないや!」

「ルーク様、ご無事ですか!?」

「シャーロット、僕は大丈夫だよ。でもごめんよ、疲れすぎて全く動けそうも無いんだ」

 ルーク様のことだから、いつもなら私の無事を喜んで抱きしめたりしてくれるのに、それがないということは、本当に疲労が極限まで溜まっているのだろう。

「ぐすっ……ほ、本当に良かった……お身体は大丈夫なのですか?」

「それも大丈夫。目が覚めてから、急いで治療したからね」

「ち、治療? ルーク様は回復魔法も使えたのですか……?」

「やり方は知ってたけど、使えなかったんだ。回復魔法はあまりにも高等魔法だからね。でも今の僕なら……っと、積もる話は後にしよう。すまないが、魔法陣を解除してもらえるかな?」

「は、はい。そうですよね……」

 泣いてばかりいないで、早くこの忌々しい魔法陣を、この場から消し去らないと。

 すでに体力は限界だけど、ルーク様が無事だとわかったことで、あれだけ心を支配していた怒りと憎しみが消えた今なら、これくらいなら出来る……はず。いえ、私がやらないと。これ以上、ルーク様に負担はかけられないもの。

「くっ……!」

 体中に走る痛みを必死に堪えつつ、杖で体を支えながら、ゆっくりと魔法陣の中心に向かう。

 ここに魔力を流し込めば、解除されてめでたしめでたし……なのだけど。

「あのハリー様が用意したものを、そうやすやすと解除できるのかしら」

 いくらハリー様と言えど、禁術とされている魔法に、おいそれと手を加えられるとは思えないけど……念には念を入れて、残っている体力を全て使って、事前に準備をしよう。

「すー……はー……よし、いきますわ!」

 深く深呼吸をしてから、お母様の杖を魔法陣の中心に差し込み、魔法を使う時と同じ要領で、地脈の力を魔法陣に注ぎ込む。すると、魔法陣が眩く光り、大きなヒビが入った。

 これでやっと終わる――わけもなく、魔法陣はその光とヒビをどんどんと強めていき……辺り一帯を吹き飛ばす威力の爆発を起こした。


 ****


『ちょっと、しっかりしなさいよ! ねえ、起きてよ!』

 なにか小さなものに、頬をペシペシと叩かれている感覚に反応をして目を開けると、そこにはいつも小屋に遊びに来ている、あの女の子の精霊の姿があった。

『よかった、目を覚ましたのね!』

「あなた……どうしてここに?」

『黒い連中と戦っていたら、突然爆発音が聞こえたの! それからすぐに、黒い連中も消えたから、とりあえず様子を見に来たら、あなた達が倒れてたの!』

 爆発……あの光と轟音は、やはりそれだったのね。元々酷い有様だったのに、爆発のせいで、隕石でも落ちたかのような惨状になっている。

 なにがあっても大丈夫なように、解除の前に、私とルーク様に障壁魔法を張っておいて大正解だったわ。

「ルーク様はご無事ですか?」

『ええ、大丈夫よ。あなたと同じく意識を失ってるけど、息はしてる』

「よかった……早く、ルーク様のところに行かなきゃ……」

『ちょっとちょっと、そんなボロボロで動いちゃダメ! ほらあんた、この子をあのイケメンの子のところに運んで頂戴!』

『わかったんだなぁ~』

 聞き覚えの無い声の方を見ると、そこにはとても立派な二本の角と、体中を覆う長い毛が特徴的な、牛のような生き物がいた。
 よく見ると、他にも私が見たことがない精霊達が、私達の周りに集まっている。

 この森って、こんなに多種多様な精霊が住んでいたのね……なんて考えていると、その牛は私を角に乗せて、のっしのっしと歩いて行き、ルーク様の隣で降ろしてくれた。

「あ、ありがとうございます」

『どういたしましてなんだなぁ~』

 牛の精霊にお礼を言ってから、ルーク様の体を小さく揺すると、その綺麗な目をゆっくりと開けてくれた。

「ルーク様!」

「シャーロット……さっきの爆発は……」

「どうやら、魔法陣を解除したら起こったようです。念の為に障壁魔法を使っておいて正解でした」

「そうだったのか……さすがシャーロットだね。おかげで助かったよ」

「そんな、お礼を言うのは私の方ですわ! あなたがいなければ、私は……」

 ルーク様が私を守ってくれなければ、私は確実にここで死んでいた。それに、ルーク様が生きていてくれたから、私は……取り返しがつかないことに、手を出さずに済んだ。

『まったく、そんなにボロボロになってでも、お互いのことを考えられるのって凄いわよね~』

「これも、愛がなせる業ということだよ」

『それは結構だけど、やるならもう少しボロボロにならないようにしなさいよ。一歩間違えて死んじゃったら、元も子もないのよ。その血、また無茶をしたってことでしょ?』

「あはは、君の言葉が一番胸に刺さるね」

「もうっ、冗談でもそんなことを仰ら――ちょ、ちょっと待ってください。ルーク様、今……」

 あまりにも自然に話しているから、全然違和感がなかった。今、ルーク様は精霊と話をしていたわよね? 私の見間違えじゃないわよね??

「あの……どうしてルーク様が会話できているのですか!?」

『あっ、そういえば! どういうこと!?』

「帰ったら話すよ。すまないが、小屋に置いてきたホウキ達を連れて来てくれないかな?」

『そうしたいのは山々だけど、私の声はホウキ達に聞こえないわよ?』

「確か、君は物に触れるだろう? 机でも壁でもいいから、五回連続で叩いてほしい。それが、ホウキ達への緊急招集の合図なんだ」

『よくわからないけど、わかったわ! 任せておいて!』

 その小さな体を精一杯大きく見せた女の子の精霊は、私達の住む小屋に向けて勢いよく飛んでいく。それに続いて、他の精霊達は次々にどこかへと去っていった。

「これで、ようやく終わったか……迎えが来るまで少し時間がかかるだろうから、君も少し横になった方がいい」

「そうですわね」

 こんな土の上で横になるのは、少々みっともないのはわかっているが、溜まりに溜まった疲労と、ルーク様への想いには勝てず……私はルーク様に寄り添う形で横になった。

「ルーク様、ご無事で本当に良かった……」

「ごめんよ、僕が弱かったばかりに、君につらい思いをさせてしまったばかりか、取り返しがつかないことをさせてしまうところだった」

「と、取り返しって……」

 まさか、私が怒りと憎しみに身を任せて、悪魔のような所業に手を出そうとしたことを、ルーク様は知っている……?

「信じてもらえないと思うけど、僕は確かに死んだ。でも、死んだ後の世界で、とある女性に助けてもらったんだ。その女性から、僕が死んだ後の君のことも聞いたんだ」

「その女性って……?」

「オリヴィアという名前の女性だよ」

「オリヴィア……? うそ、そんな……まさか……」

「ああ。君の母君だよ」

 私のお母様が、ルーク様を助けた? ルーク様と話をした? あまりにも現実味がなさすぎて、全然信じられない。

 そんな私の背中を撫でながら、ルーク様が経験したこと、聞いたことや話したことを、全て教えてくれた。

「……それじゃあ、ルーク様が助かったのは、お母様のおかげで……魔法が安定して使えたのも、お母様のおかげ? 今までも、本当にずっと見守ってくれていた?」

「ああ。彼女が残っていた精霊の力を僕に分けてくれたおかげで、僕にも精霊の加護がついた。だから、精霊の加護が無くて魔法が普通に使えないというハンデを、克服できた。今は壊れてしまったが、あの杖はその象徴みたいなもの……だと思う。精霊とコミュニケーションが取れるようになったのも、この力の影響だと思う」

 そんな……お母様は、一度ならず二度までも、自分の身のことなんて顧みずに、私を……いえ、ルーク様までも守ってくれたというの……? うぅ……お母様……本当に、本当にありがとう……。

「君の母君は、素晴らしい人だね。あんなに強くて愛情に溢れた人を、僕は見たことがない。彼女には、心からの感謝と敬意を示したいよ」

「……ありがとうございます。きっと、お母様も喜んでくださってますわ……」

「そうだと嬉しいな」

 いつも私に見せてくれる優しい笑みを見ていると、あれだけ荒んでいた心が嘘のように穏やかな気持ちになる。

 しかし、それは自分があまりにも荒んだ醜い心を持ってしまったことの再認識でもあって……強い後悔が襲ってきた。

「ルーク様、ごめんなさい……私、自暴自棄になって……あなたと誓った未来とは真逆の悪行に手を染めようとしてしまいましたの……」

 ルーク様は、国と民を幸せになるために、国王を目指している。私もその目標を支えると誓ったはずなのに、私は……真逆のことをしようとしてしまった。

「大切な人を失う悲しみと絶望は、耐えがたいものだと僕は思っている。僕が逆の立場でも、同じ様になっていた可能性は非常に高い」

「そんな、ルーク様のような優しくて慈悲深い人が、私のような愚かなことに手を出すはずがありません!」

「それを言うなら、君だってそうだろう? そんな人が、大切なものを失い、正しい心がそのまま負の心に反転してしまうなんて話は、世の中にいくらでもあるよ」

「……でも……」

 いくら励ましてくれても、私は自分を許せない。それくらい、私のしようとしたことは、ルーク様の裏切り行為でしか無いのだから。

「そうか……君がそこまで思いつめているのなら、もう止めないよ。僕がいることで、君に負担はかけたくないし、何よりも婚約者が実は極悪人なんて困るからね」

「えっ……?」

「シャーロット、君との婚約は破棄させてもらうよ。どこへなりと行くといい」

 まるで氷のように冷たい表情のルーク様から、突然突き付けられた婚約破棄。
 それは、ルーク様を裏切った自分には、当然の仕打ちであり、自分にはもう婚約者はふさわしくないと思っていた私にとって、望む展開のはずだ。

 なのに、私は……自然と涙を流し、首を横に振った。

「いや……いや、です……私、あなたと……」

「ほら、それが君の本当の気持ちなんだよ。自分の過ちを悔いる気持ちはとても理解できるけど、君には正直な気持ちでいてほしいな」

 冷たい表情から一転、暖かい笑顔に戻ってくれたルーク様に、私はボロボロと大粒の涙を流しながら、しがみつくように抱きついた。

「ごめ、ごめんなさい……私、あなたとこれからも一緒にいたい……あなたの夢を、応援したい……!」

「ああ、僕も君といたい。ごめんね、君の正直な気持ちを聞きたくて、酷い嘘をついてしまった。これからも僕と一緒にいてほしい」

「はい……不束者ですが、よろしくお願いいたします……!」

 ルーク様と改めて婚約の挨拶を交わしてから、誓いのキスをする。

 もう憎しみに染まってはいけないのは、試験の時にわかっていたのに、愚かな私はまた憎しみに身を委ね、ルーク様を裏切るところだったが……今度こそ、道を踏み外さない。そう誓いながら、ルーク様とのキスを続けた。
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