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第十八話
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「……はぁ、なんだか寂しいなぁ……」
畑の仕事を手伝い始めてから二日。私は朝から晩まで、この前の村に行って畑仕事を手伝って過ごしている。
今日も、仕事を終えて部屋でゆっくりしていたのだけど……。
「リオン様と一緒にいられないだけで、こんなに寂しいって思うなんてね……」
「キー……」
畑のことをやるようになったら、リオン様といられる時間がグッと減るのはわかっていた。わかっていたのに……寂しくて仕方がない。
この感覚は、私が初めて故郷を出てティタブタン国のお城で過ごすようになってから、しばらく感じていたものとよく似ている。
「まったく、自分から仕事を手伝いたいって言っておいて、寂しい~なんて言ってたら、リオン様に呆れられちゃうよね」
「ウキ?」
「あれ、サン? 急にどうしたの?」
サンは突然テーブルから飛び降りると、部屋の扉をカリカリと引っ掻き始めた。
もしかして、外に出たいのかな? もう暗いけど、少しくらいならお散歩してもいいかもしれないね。
「おいで、サン。今あけてあげるから」
サンをいつもの様に服の中に入れてから、扉を開けたら、突然私の視界は黒に染まった。
それだけじゃなく、なにか固いけど微妙に柔らかくて、ほんのりと暖かい感触まである。
「わぷっ……」
「エメフィーユ?」
「えっ、リオン様!?」
とても近くで聞こえたリオン様の声に反応して顔をあげることで、ようやく自分の状況が理解出来た。
そう……私は、リオン様が来ていることに気づかないで扉を開け、その勢いのまま進んだ結果、リオン様の胸の中に突っ込んでしまったみたい。
「あ、あのあの……ごめんなさい、私……! えっとですね、サンが外に出たさそうだから、一緒にお散歩に行こうとして、扉を開けたらちょうどリオン様がいて……だ、抱きつきたくてしたわけじゃないんです! あ、その……嫌なわけじゃないんですよ!? むしろそれもいいかな~、なんて……」
どうしよう、どうしよう。頭が混乱していて、自分で何を言っているかすら、わからなくなってきた。
だって、今まで男の人から触れられることはあっても、自分からこんなに大胆に触れにいったことがないんだもん! 混乱するなって言われても、無理があるよ!
「エメフィーユ、とりあえず落ち着くんだ。ほら、深呼吸」
「し、深呼吸……すー……はー……」
言われた通りに深呼吸をしてみるが、それがかえって逆効果になった。
私はいまだに、リオン様にくっついたままの状態だ。さっさと離れればいいものを、それが出来ていない状態で深呼吸なんてしようものなら……リオン様の香りが、ダイレクトに来て……。
「だ、大丈夫か? 頭から煙が出ているぞ!」
「ふしゅ~……」
「誰か、タオルと氷水を用意してくれ!」
なんだか、遠くの方でリオン様の声が聞こえてくる。それに、体が宙に浮かんでいるかのような……よくわからないけど、頭がグワングワンする……。
****
「キー、キー」
「んにゅ……サン、痛いよぉ……」
サンの小さな手が、私のほっぺをペシペシとする感触で目を覚ます。すると、そこにはサンの他にも、安堵の息を漏らすリオン様の姿があった。
「よかった、目を覚ましたようだな」
「リオン様? 私……どうしちゃったのでしょう?」
「急に頭から煙を出しながら、意識を失ったんだ。だから、急いで君の部屋のベッドに寝かせて、頭を冷やしていたんだ」
言われてみれば、おでこに冷たいタオルが乗っていて、とても気持ちがいい。ドキドキで熱くなり過ぎた私にピッタリだ。
「心配をかけてごめんなさい。その、リオン様に自分からあんなにくっついたら、ドキドキしすぎて混乱しちゃいまして……」
「あれは事故だったのだろう? それなら謝る必要は無い。俺がもっと早くノックをしていればよかっただけだしな」
「そんなことはありません」
相変わらず、リオン様はとても優しい人だ。なるべく私が責任を感じないように、自分にも非があるように言っているのだとわかる。
「それで、何かご用ですか?」
「エメフィーユ、明日は休みだったよな?」
「はい。休まずに働くのは良いが、ちゃんと休めとルシアナ様に言われまして。大丈夫と伝えたのですが、女王権限で休みにさせるぞと……」
「母上ならやりかねないな」
私の体調を心配してくれるのは、とてもありがたいことなのだけど、だからといって女王権限を私の休みなんかに使うのは、どうなのだろう?
「実は、明日は俺も休みでな。よければ一緒にデートにいかないか?」
「で、デート!? それって、明日は一緒にずっと過ごして、一緒に遊んで……みたいなことですよね!?」
「その認識であっていると思う」
リオン様とデートなんて……どうしよう、今からドキドキとワクワクしすぎて、顔がニヤけちゃう!
「ただ、情けないことに完全なノープランでな……君が喜んでくれそうなデートの行き先を考えてたのだが、これだ! と断言できるものが思いついていないんだ」
「私のために……えへへ、ありがとうございます」
その気持ちだけで、私の心はとても満たされている。おそらく、もう私の顔は人様に見せられるようなものじゃないだろう。
「だから、デートのお誘いと一緒に、どこに行きたいか聞こうと思って来たんだ」
「そうだったのですね。それなら、一緒に行きたいところがあるんです!」
私は、前々からリオン様と行ってみたいと思っていた場所を話すと、リオン様は小さく首をかしげていた。
「俺としては、大歓迎なんだが……本当にそれでいいのか?」
「はい! ここがいいんです! きっと、一生の思い出に残る、素敵な日になると思います!」
「君がそこまで言うなら、そうしようか」
やった! リオン様の好きなものを聞いてから、ずっと行ってみたかった場所があったんだ! それがこんなに早く叶うだなんて、嬉しい誤算だよ! リオン様……喜んでくれるかな?
畑の仕事を手伝い始めてから二日。私は朝から晩まで、この前の村に行って畑仕事を手伝って過ごしている。
今日も、仕事を終えて部屋でゆっくりしていたのだけど……。
「リオン様と一緒にいられないだけで、こんなに寂しいって思うなんてね……」
「キー……」
畑のことをやるようになったら、リオン様といられる時間がグッと減るのはわかっていた。わかっていたのに……寂しくて仕方がない。
この感覚は、私が初めて故郷を出てティタブタン国のお城で過ごすようになってから、しばらく感じていたものとよく似ている。
「まったく、自分から仕事を手伝いたいって言っておいて、寂しい~なんて言ってたら、リオン様に呆れられちゃうよね」
「ウキ?」
「あれ、サン? 急にどうしたの?」
サンは突然テーブルから飛び降りると、部屋の扉をカリカリと引っ掻き始めた。
もしかして、外に出たいのかな? もう暗いけど、少しくらいならお散歩してもいいかもしれないね。
「おいで、サン。今あけてあげるから」
サンをいつもの様に服の中に入れてから、扉を開けたら、突然私の視界は黒に染まった。
それだけじゃなく、なにか固いけど微妙に柔らかくて、ほんのりと暖かい感触まである。
「わぷっ……」
「エメフィーユ?」
「えっ、リオン様!?」
とても近くで聞こえたリオン様の声に反応して顔をあげることで、ようやく自分の状況が理解出来た。
そう……私は、リオン様が来ていることに気づかないで扉を開け、その勢いのまま進んだ結果、リオン様の胸の中に突っ込んでしまったみたい。
「あ、あのあの……ごめんなさい、私……! えっとですね、サンが外に出たさそうだから、一緒にお散歩に行こうとして、扉を開けたらちょうどリオン様がいて……だ、抱きつきたくてしたわけじゃないんです! あ、その……嫌なわけじゃないんですよ!? むしろそれもいいかな~、なんて……」
どうしよう、どうしよう。頭が混乱していて、自分で何を言っているかすら、わからなくなってきた。
だって、今まで男の人から触れられることはあっても、自分からこんなに大胆に触れにいったことがないんだもん! 混乱するなって言われても、無理があるよ!
「エメフィーユ、とりあえず落ち着くんだ。ほら、深呼吸」
「し、深呼吸……すー……はー……」
言われた通りに深呼吸をしてみるが、それがかえって逆効果になった。
私はいまだに、リオン様にくっついたままの状態だ。さっさと離れればいいものを、それが出来ていない状態で深呼吸なんてしようものなら……リオン様の香りが、ダイレクトに来て……。
「だ、大丈夫か? 頭から煙が出ているぞ!」
「ふしゅ~……」
「誰か、タオルと氷水を用意してくれ!」
なんだか、遠くの方でリオン様の声が聞こえてくる。それに、体が宙に浮かんでいるかのような……よくわからないけど、頭がグワングワンする……。
****
「キー、キー」
「んにゅ……サン、痛いよぉ……」
サンの小さな手が、私のほっぺをペシペシとする感触で目を覚ます。すると、そこにはサンの他にも、安堵の息を漏らすリオン様の姿があった。
「よかった、目を覚ましたようだな」
「リオン様? 私……どうしちゃったのでしょう?」
「急に頭から煙を出しながら、意識を失ったんだ。だから、急いで君の部屋のベッドに寝かせて、頭を冷やしていたんだ」
言われてみれば、おでこに冷たいタオルが乗っていて、とても気持ちがいい。ドキドキで熱くなり過ぎた私にピッタリだ。
「心配をかけてごめんなさい。その、リオン様に自分からあんなにくっついたら、ドキドキしすぎて混乱しちゃいまして……」
「あれは事故だったのだろう? それなら謝る必要は無い。俺がもっと早くノックをしていればよかっただけだしな」
「そんなことはありません」
相変わらず、リオン様はとても優しい人だ。なるべく私が責任を感じないように、自分にも非があるように言っているのだとわかる。
「それで、何かご用ですか?」
「エメフィーユ、明日は休みだったよな?」
「はい。休まずに働くのは良いが、ちゃんと休めとルシアナ様に言われまして。大丈夫と伝えたのですが、女王権限で休みにさせるぞと……」
「母上ならやりかねないな」
私の体調を心配してくれるのは、とてもありがたいことなのだけど、だからといって女王権限を私の休みなんかに使うのは、どうなのだろう?
「実は、明日は俺も休みでな。よければ一緒にデートにいかないか?」
「で、デート!? それって、明日は一緒にずっと過ごして、一緒に遊んで……みたいなことですよね!?」
「その認識であっていると思う」
リオン様とデートなんて……どうしよう、今からドキドキとワクワクしすぎて、顔がニヤけちゃう!
「ただ、情けないことに完全なノープランでな……君が喜んでくれそうなデートの行き先を考えてたのだが、これだ! と断言できるものが思いついていないんだ」
「私のために……えへへ、ありがとうございます」
その気持ちだけで、私の心はとても満たされている。おそらく、もう私の顔は人様に見せられるようなものじゃないだろう。
「だから、デートのお誘いと一緒に、どこに行きたいか聞こうと思って来たんだ」
「そうだったのですね。それなら、一緒に行きたいところがあるんです!」
私は、前々からリオン様と行ってみたいと思っていた場所を話すと、リオン様は小さく首をかしげていた。
「俺としては、大歓迎なんだが……本当にそれでいいのか?」
「はい! ここがいいんです! きっと、一生の思い出に残る、素敵な日になると思います!」
「君がそこまで言うなら、そうしようか」
やった! リオン様の好きなものを聞いてから、ずっと行ってみたかった場所があったんだ! それがこんなに早く叶うだなんて、嬉しい誤算だよ! リオン様……喜んでくれるかな?
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