【完結】 ずっと夫を信じて暴力や暴言に耐えてきましたが、もう耐えられません ~あなたが離婚を望むなら、喜んで受け入れます~

ゆうき

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第二十七話

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 リオン様と正式にお付き合いをするようになってから、しばらくの時が経った。

 私は、あの日から変わらず各地の畑に赴いて作物の面倒を見たり、研究室で色々と知識を身につける毎日を送っている。

 あの時と変わったことといえば、最近はリオン様の仕事が少し減ったみたいで、一緒にいられる時間が増えたことだ。
 とはいっても、丸一日一緒にいられるというのは、ほとんど無い。よくて一時間とか、下手したら十分くらいということもある。

 そんな短い時間でも、愛し合う私達にとっては、かけがえのない時間であり、幸せな時間なの。

「リオン様、今日もお務めご苦労様でした」

「エメフィーユも、お疲れ様」

 ある日の夜、私達は互いの労を労いながら、手に持っていたグラスをチンッと鳴らした。

 今日は、リオン様がいつもよりも早く公務を終えたから、こうして一緒に私の部屋で、食事をいただいているんだよ。

「君がたくさん頑張ってくれているおかげで、また作物の収穫量が上がったと報告を受けた。これが毎年できれば、他国の輸入に頼らなくても、食料問題に困らない。それに、新しい鉱脈も見つかったという報告も受けている」

「本当ですか? それはとっても嬉しい話ですね。でも、私だけの力じゃないですよ?」

「そうだったな。みんなが一丸となって頑張った結果、だよな」

「はいっ!」

 そう、これは私一人の力じゃない。そもそも、小さな村ならまだしも、一国を支える程の大規模な農業を、一人で出来るはずが無い。
 それを、さも私の力でどうにかなったって言われ方をすると、それは違うなって思っちゃうんだ。

 もちろん、リオン様が私を褒めてくれるのは、とっても嬉しいことだよ?

「きっと遠くない未来に、ミヌレーボ国は、今以上にみんなが笑顔で幸せに暮らせる、世界一素敵な国になりますね」

「ああ、必ずその未来を掴んでみせる。そうだ、来週のパーティー用のドレスなんだが、明日出来上がって届くそうだから、届いたら試着の方をしてもらえるか?」

「わかりました」

 とある貴族が開くパーティーが来週あるのだけど、そこに私も出席することとなっている。

 ミヌレーボ国に来てから、社交界には一度も出席していなかったが、農業の方がある程度落ち着き、私が正式に婚約を受けたこともあって、公の場で紹介をしたいそうだ。

「久しぶりのパーティーですから、凄く緊張しちゃいます」

「なに、心配ない。どんなことがあっても、俺が君を守る」

「リオン様……えへへ、ありがとうございます。私も、なにかあったらリオン様を守れるように、頑張りますっ!」

「それは頼もしいな」

 毎日鍛錬を積んでいるリオン様がピンチになるような状況で、私がなにかできるかというのは、ちょっと疑問ではあるけど、こういうのはまず気持ちが大切だよね。

「ヴァレア様も参加するかもって言ってましたけど、あれはどうなったんでしょう?」

「参加するって連絡があった。ただ、残念ながら、姉上の旦那はどうしても予定が合わなくて、参加は出来ないそうだ」

「それは残念ですね」

 オーシオン国の国王様……この機会に会いかったけど、仕方がないね。

 実は、私はオーシオン国の王族の人とは、一度も面識がない。ティタブタン国とオーシオン国は、ほとんど交流がないから、社交界で会ったことが無いんだ。

「ヴァレア様とは、お手紙のやり取りはしていましたが、あれから一度も会えていなかったので、久しぶりに会うのが楽しみです」

「俺は、少々恐ろしいな。あれからどうなんたんだと、根掘り葉掘り聞かれそうだ」

 それはありえそう。ヴァレア様がものすごい勢いで色々聞いてきて、リオン様がたじたじになっているのが、容易に想像できるもん。

「きっと、リオン様のことが大切と思ってるからこそ、色々と心配しているんですよ」

「そんなに心配されるほど、俺はもう子供じゃないんだがな。姉上の中では、俺は三歳児で止まっているのかもしれない」

「三歳児……幼い頃のリオン様は、どんな子だったんですか?」

「良くも悪くも、今とあまり変わらない。我ながら、可愛げのない子供だったな。ああ……だが、姉上にはいつも甘えていた。姉上は、昔から今と同じで、頼りになる人だったからな。代わりに、姉上には絶対に逆らえなくなったけどな」

 確かにそんな感じは、ひしひしと伝わってくるね。お説教されてた時とか、それが顕著に表れてたと思う。

「エメフィーユの子供時代はどうだったんだ?」

「至って普通の子供でしたよ。普通過ぎて、面白い話が出来ないくらいです。あははっ……」

「いいじゃないか。普通が一番幸せという見方もある」

 平凡な日常だったけど、あの頃は確かに幸せだった。マルセムと結婚してからは、何不自由のない恵まれた生活になったはずなのに、最初から幸せとは思わなかった。

「その通りですね。あの頃は、まだお母さんもそんなに体調が悪くない時期で……毎日走り回って、泥だらけになって、畑仕事を手伝って……普通な日常で、普通の幸せが、確かにそこにありました」

 マルセムに虐げられている間、あの頃に戻りたいと思いながら泣いたのは、何度あったかわからない。それくらい、私にとって、あの時間はとても大切なものだ。

「あの頃も幸せで、今も幸せですよ! でも、まだ足りません! 私は、二人で……ううん、国の人とも一緒に、もっともっと幸せになるんです!」

「ああ、そうだな。きっと君なら幸せになれるさ」

「あなたに言ってもらうと、本当にそうじゃないかと思えてきます。えへへ」

 静かで穏やかな食事会は、つつがなく過ぎていく。
 途中に、あーんをされたり、されかえされたりして、ドキドキしたりしたけど……本当に幸せだ。できれば、こんな楽しい時間を毎日過ごしたいけど……それはワガママだよね。

「ふう、今日もおいしかったですね」

「ああ。ワインもおいしくて、少々飲み過ぎたな」

 いつもお酒を飲んでも、あまり酔わないリオン様の頬が、珍しくほんのりと赤く染まっている。

「大丈夫ですか? お水、入ります?」

「ああ、いただくよ」

 私は、ピッチャーに入っている水をコップにうつし、リオン様に手渡すと、それを一気に飲み干した。

「酔いがさめるまで、あまり動かない方がいいですね」

「それじゃあ、俺はここで寝るよ」

 ここで? それってもしかして……なんて聞く前に、リオン様は私のベッドに倒れこんだ。

「エメフィーユの匂いがする……全身を包み込まれている……」

「は、恥ずかしいからやめてください!」

「ん~……」

 もうおねむなのか、虚ろな眼で私を見ながら、布団を片手で持ち上げる。

 これって、私に入れって言ってるんだよね? さすがに男女が一緒になるのはマズいって! まだちゃんと結婚したわけじゃないんだよ!?

「エメフィーユ。おいで」

 あんな優しい声に呼ばれたら、抗うなんて無理。私は導かれるまま、リオン様の隣に寝て、すっぽりと腕の中に納まった。

「エメフィーユは暖かいなぁ。それに柔らかくて、安心する……エメフィーユ、愛しているよ」

「んむっ……!?」

 私にそっと囁きながら、私の唇と自分の唇を重ね合う。
 最初は驚いてしまったけど、重ねるごとになんだか気分がポワポワしてきちゃって。知らないうちに、リオン様の背中に腕を回しながら、ちゅっ……ちゅっ……っと小さな音を部屋に響かせていた。

「はぁ……はぁ……リオン様、好き……」

「ああ、俺もだよ」

 甘く、蕩けそうな優しい声と気持ちを全身で感じていると、リオン様は私を仰向けにさせ、私が逃げられないように、覆い被さってきた。

「り、リオン様?」

「すまない、エメフィーユ。これ以上は我慢できない」

「えっ? えっ……?」

「心配はいらない。痛くないようにするから」

 それって、完全にそういう意味だよね? そんなことを急に言われても、なんにも心の準備なんてしていないよ!?

「待って、リオン様! 少し落ち着い……ひゃん!」

 もう一度キスをしてから、リオン様は私の首筋に小さな舌を這わせる。すると、くすぐったいはずなのに、それとは違う変な感覚が全身を襲ってきた。

「んん……リオン様、ダメぇ……」

「…………」

「……リオン様?」

 私に覆い被さったまま、突然リオン様はピクリとも動かなくなり、返事も返ってこなくなった。
 その代わりに、すー……すー……と、小さくて可愛らしい寝息が聞こえてきた。

「これって完全に寝ちゃってるよね……もう、お酒の飲み過ぎですよ」

 あのまま行ってたら、今日がリオン様との記念すべき……あの、初めての日になってたかもしれない。
 結婚も正式にしていないのに、こんなことをしちゃいけないから、未遂で済んで良かったと思う自分と、ガッカリしている自分がいて、なんだか複雑な気持ちだ。

「これじゃあ、今日は眠れそうもないよ。リオン様、責任は取ってくださいね。ふふっ」

 ちょっと大変だったけど、リオン様をなんとか仰向けに寝かせる。
 一切起きる気配が無いのを良いことに、私は初めて自分からリオン様にキスをしてから、寄り添うように寝転んだ。

 当然、睡魔が私を夢の世界に誘うまでは、たくさんの時間が必要で、翌日は寝不足になったけど、それ以上に幸せな時間を過ごせた。
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