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第五話 私の夢、私の目標
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「こんな時間に申し訳ございません」
「い、いえ。廊下は寒いでしょう? 立ち話もなんですから、中にどうぞ。散らかってますけど……」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
ハウレウはおずおずと私の部屋の中に入ると、彼は鉄兜を外してから、私の頬をジッと見つめた。その頬は、丁度カーティス様に叩かれたところだった。
「こんなに赤くなって、服も濡れて……おつらかったでしょう」
「もしかして、知ってたんですか?」
「はい。止めに入りたかったのですが、他の兵に止められてしまっていて。それと……カーティス様とバネッサのことも、以前から知っておりました」
え、嘘でしょう? この方が、二人の関係を知っていた? ならどうして、もっと早くにそれを……!
「なぜ言わなかったのか、ですよね」
「……はい」
「言えなかったのです。我々城の者は、何かしらの弱みをカーティス様に握られているのです。そうすることで、嫌でも忠誠を誓わされるんです」
「な、なんて酷いことを……それを知ったうえで、城の仕事に志願しているんですか?」
「いえ、当然知らされていません。少しでも広めようとすれば、漏れなく消されてしまいます。城を掌握し、私利私欲のために薬を牛耳って民を苦しませる……まさに独裁者と言っても過言ではありません」
普通の人が相手なら、さすがに独裁者は言いすぎな気もするけど、今の話や自分で知ったカーティス様を見た後だと、独裁者と言われても仕方がないと思う。
「言えなかったのはわかりましたが、どうして今それを言いに来たのですか? 広めたら、酷い目に合ってしまうのでしょう?」
「真実を知ってしまったうえで、これからも薬を毎日作らされるのは、あまりにも可哀想だと思いまして……本当なら、もっと早くに助けるべきでした。すぐに助けられなくて、本当に申し訳ない」
彼は私の前で、地面に頭を擦りつけるくらいの勢いで土下座をした。きっとそれが、今までずっと何も出来なかったことに対する謝罪と、後悔の現れなのだろう。
「あなたは何も悪くありません。むしろ、あなただって被害者じゃありませんか! 悪いのはカーティス様です!」
「エリン様……あなたのそのお優しき心。本当に聖女の鏡ですね」
「そ、そうでしょうか? 思ったことを言っただけなんですが……」
「なるほど。こほんっ……謝罪がしたかったのもありますが、もう一つ話お話があります。むしろ、こっちの話の方が本命です」
「な、なんでしょうか?」
「真実を知ったあなたは、外に出たいとお思いですか?」
外に……? もちろん出たい。こんな所にいても、骨の髄まで利用されて、捨てられる未来しかないもの。
「はい、出たいです。いつになるかはわかりませんが、必ずここから逃げてみせます」
「なるほど。エリン様は、外で何をされたいですか?」
「私の薬で、今度こそ多くの人を助けたい。そして……お母さんにまた会いたい。故郷に帰りたいです」
「素晴らしい目標ですね。しかし、あなたの薬はとてもよく効きます。きっと別の貴族や他国の王族に見つかって、捕まって……そして同じ目に合ってしまうかもしれませんよ」
真剣な表情で警告するハウレウに釣られて、私の表情も引き締まった。
「それは……そうかもしれませんけど、私腹を肥やすためだけに使い倒されてしまうくらいなら、少しでも多くの人を助けたいんです!」
「……なるほど。あなたがそうお決めになられたのであれば、応援しないといけませんね」
先程とは打って変わり、ハウレウは深く刻まれたシワをさらに深くさせてニッコリと笑い、私の頭を優しく撫でた。
「そんなあなたに、私から最後のプレゼントがございます」
「プレゼント?」
ハウレウは甲冑を脱ぐと、それを私に手渡した。ずっしりとしたその重みは、非力な私にはかなり負担が大きくて、甲冑の一部しか持つことが出来なかった。
「あ、あの……?」
「これを着て、兵士に扮して城の中庭にいってください。そこにもう一人の協力者がいますので、その人の指示に従って、国の外に逃げてください。この国に残っていては危険ですので」
「協力者って……いつの間にこんな計画を……!?」
「カーティス様との一件があった後、早急に立てた計画です」
私のために、こんなにしてくれるなんて……あれ、ちょっと待って。
「あなたはどうするおつもりなのですか?」
「少しでも時間を稼いで、そのあとは……運命に身を流すつもりです」
「そんな……!」
「いいのです。私は罪人です。あなたといつも朝の挨拶をして、たまに遊んだりお茶をしたり、まるで本当の孫のように接してきました。なのに、私はそんなエリン様をすぐに助けられなかった。保身を優先してしまった。こんな大事にならなければ、岩のように重い腰があげられなかった。それが、私の罪。だから、私がどうなろうと構わないのです」
……そんなの、受け入れられるはずがないじゃない! ずっと私を守ってくれていたハウレウが、カーティス様に逆らうようなことをしてまで、私を逃がそうとしてるのよ!? そんなの……!
「嫌です! 私なんかのために、あなたが犠牲になる必要はありません!」
「私を想ってくださるなら、どうか行ってください。老い先短い愚かな老人に、最後の花を咲かさせてください」
子供のように泣きじゃくってハウレウを止めるが、優しい頬笑みを浮かべたまま、絶対に首を縦に振らなかった。
そんなハウレウに根気負けをしてしまった私は、苦渋の決断で頷いた。
本当は、ハウレウを見殺しになんてしたくない。一緒に来てもらいたい。でも……私がいくら説得をしても、何の意味も無いってわかってしまったの。
「……わかり、ました。でも約束してください。また必ず会いましょう。その時は、一緒にお茶をしながら、外の世界で見たことを話させてください」
「わかりました。その日を楽しみにしております。あなたのこれからの旅路に、精霊様のご加護がありますように」
彼に涙を拭いてもらい、強く抱きしめてもらった後、持っていく物を一式まとめた私は、精霊様の像の前に行き、ハウレウの無事を祈った。
私の聖女の力は、薬を作ることは得意だけど、精霊様と心を通わせることは、記録に残っている聖女と比べて、少々不得手だ。この祈りがちゃんと届いているかの確証もない。
それでも……精霊様に、ハウレウの無事を祈りたかったの。
「精霊様、ハウレウをお守りください……これでよし」
私はハウレウから受け取った甲冑を着て、おぼつかない足取りで部屋を出た。
持ってきたのは、薬を作るのに必要な道具や、汎用的に使える薬草だ。商売道具だから、これが無いと困ってしまう。それと、ずっと使っているお気に入りのシュシュも入れてある。
これ、昔から使ってるんだけど、いつ手に入れたものなのかわからないのよ。
「準備はできましたね。そうだ、お一つ伝え忘れておりました。なるべくは、聖女というのは隠したほうがよいかと思われます。悪用しようとする人間もおりますので」
「わかりました。信用できる人以外には、言わないようにします」
「では……いってらっしゃいませ、エリン様。あなたに出会えて、本当によかった。そして……今まで助けられなくて、本当に申し訳ございませんでした」
「ハウレウ……ありがとう」
私は彼に向かって、深く頭を下げてから中庭に向かう。この鎧のおかげで、城の人には私だということはバレずに、無事に裏庭に到着できた。
裏庭には、一台の馬車が置いてあった。これを使って、私を逃がしてくれるということね。協力者というのは、一体どこにいるのだろう……?
「い、いえ。廊下は寒いでしょう? 立ち話もなんですから、中にどうぞ。散らかってますけど……」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
ハウレウはおずおずと私の部屋の中に入ると、彼は鉄兜を外してから、私の頬をジッと見つめた。その頬は、丁度カーティス様に叩かれたところだった。
「こんなに赤くなって、服も濡れて……おつらかったでしょう」
「もしかして、知ってたんですか?」
「はい。止めに入りたかったのですが、他の兵に止められてしまっていて。それと……カーティス様とバネッサのことも、以前から知っておりました」
え、嘘でしょう? この方が、二人の関係を知っていた? ならどうして、もっと早くにそれを……!
「なぜ言わなかったのか、ですよね」
「……はい」
「言えなかったのです。我々城の者は、何かしらの弱みをカーティス様に握られているのです。そうすることで、嫌でも忠誠を誓わされるんです」
「な、なんて酷いことを……それを知ったうえで、城の仕事に志願しているんですか?」
「いえ、当然知らされていません。少しでも広めようとすれば、漏れなく消されてしまいます。城を掌握し、私利私欲のために薬を牛耳って民を苦しませる……まさに独裁者と言っても過言ではありません」
普通の人が相手なら、さすがに独裁者は言いすぎな気もするけど、今の話や自分で知ったカーティス様を見た後だと、独裁者と言われても仕方がないと思う。
「言えなかったのはわかりましたが、どうして今それを言いに来たのですか? 広めたら、酷い目に合ってしまうのでしょう?」
「真実を知ってしまったうえで、これからも薬を毎日作らされるのは、あまりにも可哀想だと思いまして……本当なら、もっと早くに助けるべきでした。すぐに助けられなくて、本当に申し訳ない」
彼は私の前で、地面に頭を擦りつけるくらいの勢いで土下座をした。きっとそれが、今までずっと何も出来なかったことに対する謝罪と、後悔の現れなのだろう。
「あなたは何も悪くありません。むしろ、あなただって被害者じゃありませんか! 悪いのはカーティス様です!」
「エリン様……あなたのそのお優しき心。本当に聖女の鏡ですね」
「そ、そうでしょうか? 思ったことを言っただけなんですが……」
「なるほど。こほんっ……謝罪がしたかったのもありますが、もう一つ話お話があります。むしろ、こっちの話の方が本命です」
「な、なんでしょうか?」
「真実を知ったあなたは、外に出たいとお思いですか?」
外に……? もちろん出たい。こんな所にいても、骨の髄まで利用されて、捨てられる未来しかないもの。
「はい、出たいです。いつになるかはわかりませんが、必ずここから逃げてみせます」
「なるほど。エリン様は、外で何をされたいですか?」
「私の薬で、今度こそ多くの人を助けたい。そして……お母さんにまた会いたい。故郷に帰りたいです」
「素晴らしい目標ですね。しかし、あなたの薬はとてもよく効きます。きっと別の貴族や他国の王族に見つかって、捕まって……そして同じ目に合ってしまうかもしれませんよ」
真剣な表情で警告するハウレウに釣られて、私の表情も引き締まった。
「それは……そうかもしれませんけど、私腹を肥やすためだけに使い倒されてしまうくらいなら、少しでも多くの人を助けたいんです!」
「……なるほど。あなたがそうお決めになられたのであれば、応援しないといけませんね」
先程とは打って変わり、ハウレウは深く刻まれたシワをさらに深くさせてニッコリと笑い、私の頭を優しく撫でた。
「そんなあなたに、私から最後のプレゼントがございます」
「プレゼント?」
ハウレウは甲冑を脱ぐと、それを私に手渡した。ずっしりとしたその重みは、非力な私にはかなり負担が大きくて、甲冑の一部しか持つことが出来なかった。
「あ、あの……?」
「これを着て、兵士に扮して城の中庭にいってください。そこにもう一人の協力者がいますので、その人の指示に従って、国の外に逃げてください。この国に残っていては危険ですので」
「協力者って……いつの間にこんな計画を……!?」
「カーティス様との一件があった後、早急に立てた計画です」
私のために、こんなにしてくれるなんて……あれ、ちょっと待って。
「あなたはどうするおつもりなのですか?」
「少しでも時間を稼いで、そのあとは……運命に身を流すつもりです」
「そんな……!」
「いいのです。私は罪人です。あなたといつも朝の挨拶をして、たまに遊んだりお茶をしたり、まるで本当の孫のように接してきました。なのに、私はそんなエリン様をすぐに助けられなかった。保身を優先してしまった。こんな大事にならなければ、岩のように重い腰があげられなかった。それが、私の罪。だから、私がどうなろうと構わないのです」
……そんなの、受け入れられるはずがないじゃない! ずっと私を守ってくれていたハウレウが、カーティス様に逆らうようなことをしてまで、私を逃がそうとしてるのよ!? そんなの……!
「嫌です! 私なんかのために、あなたが犠牲になる必要はありません!」
「私を想ってくださるなら、どうか行ってください。老い先短い愚かな老人に、最後の花を咲かさせてください」
子供のように泣きじゃくってハウレウを止めるが、優しい頬笑みを浮かべたまま、絶対に首を縦に振らなかった。
そんなハウレウに根気負けをしてしまった私は、苦渋の決断で頷いた。
本当は、ハウレウを見殺しになんてしたくない。一緒に来てもらいたい。でも……私がいくら説得をしても、何の意味も無いってわかってしまったの。
「……わかり、ました。でも約束してください。また必ず会いましょう。その時は、一緒にお茶をしながら、外の世界で見たことを話させてください」
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私の聖女の力は、薬を作ることは得意だけど、精霊様と心を通わせることは、記録に残っている聖女と比べて、少々不得手だ。この祈りがちゃんと届いているかの確証もない。
それでも……精霊様に、ハウレウの無事を祈りたかったの。
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私はハウレウから受け取った甲冑を着て、おぼつかない足取りで部屋を出た。
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