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第十六話 一緒に薬屋を
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本日二度目の予想外の提案をされた私は、その衝撃で固まってしまった。
「わたし、エリンお姉ちゃんみたいに薬を作ってみたいの! お兄ちゃんもさ、色々なお仕事をしているけど、安定した収入は無いって言ってたよね?」
「ああ。少々不安定なのは否めないな。今は平和になったから、昔ほど大規模な護衛や、多くの騎士はいらないからね。最近だと、畑の収穫の手伝いだったか?」
「だから、エリンお姉ちゃんと一緒に薬屋さんをすれば、生活も安定するし、エリンお姉ちゃんのお仕事も楽になるよね! 一緒に住んでいれば、仕事も一緒にしやすいし!」
「そうだな」
私が固まっている間に、オーウェン様とココちゃんの間で話し合いが進んでいく。一方の私は、完全に頭の処理が追いついておらず、意味もなく口をパクパクさせるという、何とも情けない姿をさらしていた。
「エリンお姉ちゃんはどうかな?」
「あ、えっと……確かにそうかも……一人で薬の材料を手に入れるとなると、どうしても体力と時間を消費してしまうけど、それが三人になれば、多くの仕事に対応出来るかも……」
ココちゃんの提案は、色々な意味で理にかなっているし、一緒に住むことへの理由付けにもなっている。個人的には、完璧に近い回答だと思う。
「そうなると、薬の素人の俺とココが、エリンさんが要求する薬の素材を集めて、エリンさんが作るという役目にするのが効率がよさそうだ。ココの運動にもなるし……エリンさん、どうでしょうか?」
「私としては、とてもありがたい話ですが……本当にそんなにお世話になっても良いのでしょうか?」
「はい」
ここまでお膳立てをされたら、もう断るなんてことは出来ない。そう思った私は、小さく頷きながら、オーウェン様に手を差し伸べた。
「私、一生懸命頑張るので……よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「やったー! エリンお姉ちゃん、よろしくね!」
オーウェン様と固く握手をしてから、ココちゃんとも握手をする。それが嬉しかったのか、ココちゃんは握った手を上下にブンブン振って、喜びを爆発させた。
思わぬ形で、薬師を目指す形になったわね。とはいっても、悪いわけではないから、前向きに捉えよう。当面の目的は、薬師として仕事をしながら、故郷の情報を集める方向でいこう。
「そうと決まれば、善は急げと……と言いたいところですが、今日はゆっくり休んで、明日の朝にギルドに行くといいでしょう。本当は一緒に行きたいのですが、まだ病み上がりのココを一人にするのは不安なので……」
「大丈夫ですよ。行き方を教えていただければ、一人で行けますから」
「……む~」
今後の予定を話していると、なぜかココちゃんがジトーッとした目で、私達のことを見つめていた。
「一緒に過ごすのに、敬語とか呼び方が変だよ! わたしと話す時みたいにした方が、もっと仲良くなれると思うの!」
「そう言われても……オーウェン様は、確か今年で二十二歳ですよね?」
「そうですけど、どうしてご存知なんですか?」
「先程オーウェン様からお聞きした話から、逆算したんです。ココちゃん、私はまだ十九なの。歳上の方に敬語で話すのは普通なのよ」
「む~! それなら、お兄ちゃんだけでも私と話す時みたいにしてよ~!」
よほど私達がよそよそしく話しているのが嫌なのか、ココちゃんはついに涙目になってしまった。なんだか罪悪感が凄い。
「オーウェン様、せっかくココちゃんが私達のことを考えて提案してくれたので、よければ砕けた話し方にしてもらえませんか?」
「……エリンさんがそう言うなら。えっと……エリン、これからもよろしくな……こんな感じでいいか?」
「はい」
「えへへぇ~」
改めてオーウェン様と挨拶をしながら、チラッとココちゃんに視線を向けると、嬉しそうにニコニコしていた。
……正直な話をすると、丁寧な口調よりも砕けた口調の方が、親しみやすくて良いわね。
私もその方が良いのだろうか……でも、年上の男性に砕けた話し方は良くないわよね……うーん、とりあえず今まで通りで接して、もっと親しくなった時に考えましょう。
「寝床は俺が使っていた所を使ってくれ」
「えっ、オーウェン様は?」
「俺は適当に何とかするから大丈夫だ」
「本当ですか?」
「ああ。いずれはちゃんと、エリン用のベッドを用意するつもりだから安心してくれ。ああそれと、一つ提案があるんだ」
そう言うと、オーウェン様は私を小屋の外に連れ出した。行き先は、小屋の裏手にある、さらに小さな小屋だった。
こんなものが裏にあったのね。全然気づかなかったわ。
「この小屋は?」
「物置として作ってもらったんだが、全然使っていないんだ。だから、エリンが薬を作る部屋……つまり、作業小屋にするのはどうかと思ったんだ」
私の作業部屋? 確かにそういうのがあるのはとても助かるけど、ここまでしてもらって本当に良いのだろうか?
「この小屋も、何の役目もなく建っているよりも、有効に使ってもらった方が幸せだろうから、気にせず使ってくれ」
「……もしかして、私の考えていたことがわかっちゃいましたか?」
「ああ。エリンはわかりやすいからな」
「そ、それって褒めてます? 貶してます?」
「もちろん褒めてるさ」
クスっと笑うオーウェン様に対して、ちょっとだけ口を尖らせてみせる。まあ、オーウェン様が人のことを本当に馬鹿にするとは思えないから、きっと本当なのだろう。
それにしても、こんなに色々としてもらえるなんて……なのに、私は自分のことをオーウェン様に隠していて……本当にいいのだろうか? ちゃんとなにがあったのか話しておいたほうが良い気がしてきた。
「あの……オーウェン様にお話したいことがあるんです」
「俺に?」
「はい。私が経験してきたことを、ちゃんと話させてほしいんです」
「いいのか? あまり話したくないように見えていたんだが……」
「先程は、私の面倒ごとに巻き込むのは申し訳ないと思ってまして……でも、私に色々話してくれたり、色々としてくれたあなたに、隠し事をする方が不誠実だと思ったんです」
「わかった。それじゃあ中で聞こうか」
オーウェン様と一緒に裏の小屋に入ると、中はガランとしていた。本当に全然使っていないみたいね。
「それで、一体何があったんだ?」
「実は……」
私は、ゆっくりと自分の過去について話し始める。聖女の力が目覚めてお城に無理やり連れてこられたところから、オーウェン様と出会うまでの、思い出したくない出来事を。
その間、オーウェン様はとても真剣な表情を私に向けながら、黙って聞いてくれていた。
「——以上が、私の経験してきた全てのことです。内容があれなので、他の方には話さないでもらえると嬉しいです」
「大丈夫だ、誰にも言わない。今の話のおかげで、エリンの目的が薬師になることや、母君と故郷を探していることに合点がいったが……それにしても……アンデルクの王子が、そんな人間だったなんてな……友人もそうだが、あまりにも卑劣で……反吐が出る」
「…………」
自分のことではないのに、オーウェン様は唇を強く噛みながら、握り拳を作って怒りを露わにしていた。
「オーウェン様が怒る必要はありませんよ」
「そんな酷い話を聞いたら、怒りたくもなる。いや、俺が怒っても何も解決にならないか……すまない、忘れてくれ」
「どうしてオーウェン様が謝るんですか? 私のことを考えてくれたから、怒ってくれたのでしょう?」
「それはそうだが……」
ここだけの話、オーウェン様が怒ってくれて、ちょっとだけ嬉しかったりする。私のことをちゃんと心配してくれたのって、ハウレウしかいなかったからね。カーティス様とバネッサも心配してくれてたけど、あれは演技だったからね。
「過去は過去ですから。それに、もう別れた二人のことを思い出すよりも、目的を果たすために努力をする方が有意義ですし!」
「……エリンは強いな……話してくれてありがとう。話に出てきたハウレウ殿やジル殿と再び会った時に、良い報告ができるように、俺にも協力させてくれ」
「本当に、色々とありがとうございます」
私は挨拶と同時に敬意を込めて、深々とオーウェン様に頭を下げる。
こんなに応援してくれる人がいるんだから、その応援に報いるためにも、必ず薬師になってたくさんの人を助けて……そして、お母さんの所に必ず帰ってみせるわ。
「わたし、エリンお姉ちゃんみたいに薬を作ってみたいの! お兄ちゃんもさ、色々なお仕事をしているけど、安定した収入は無いって言ってたよね?」
「ああ。少々不安定なのは否めないな。今は平和になったから、昔ほど大規模な護衛や、多くの騎士はいらないからね。最近だと、畑の収穫の手伝いだったか?」
「だから、エリンお姉ちゃんと一緒に薬屋さんをすれば、生活も安定するし、エリンお姉ちゃんのお仕事も楽になるよね! 一緒に住んでいれば、仕事も一緒にしやすいし!」
「そうだな」
私が固まっている間に、オーウェン様とココちゃんの間で話し合いが進んでいく。一方の私は、完全に頭の処理が追いついておらず、意味もなく口をパクパクさせるという、何とも情けない姿をさらしていた。
「エリンお姉ちゃんはどうかな?」
「あ、えっと……確かにそうかも……一人で薬の材料を手に入れるとなると、どうしても体力と時間を消費してしまうけど、それが三人になれば、多くの仕事に対応出来るかも……」
ココちゃんの提案は、色々な意味で理にかなっているし、一緒に住むことへの理由付けにもなっている。個人的には、完璧に近い回答だと思う。
「そうなると、薬の素人の俺とココが、エリンさんが要求する薬の素材を集めて、エリンさんが作るという役目にするのが効率がよさそうだ。ココの運動にもなるし……エリンさん、どうでしょうか?」
「私としては、とてもありがたい話ですが……本当にそんなにお世話になっても良いのでしょうか?」
「はい」
ここまでお膳立てをされたら、もう断るなんてことは出来ない。そう思った私は、小さく頷きながら、オーウェン様に手を差し伸べた。
「私、一生懸命頑張るので……よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「やったー! エリンお姉ちゃん、よろしくね!」
オーウェン様と固く握手をしてから、ココちゃんとも握手をする。それが嬉しかったのか、ココちゃんは握った手を上下にブンブン振って、喜びを爆発させた。
思わぬ形で、薬師を目指す形になったわね。とはいっても、悪いわけではないから、前向きに捉えよう。当面の目的は、薬師として仕事をしながら、故郷の情報を集める方向でいこう。
「そうと決まれば、善は急げと……と言いたいところですが、今日はゆっくり休んで、明日の朝にギルドに行くといいでしょう。本当は一緒に行きたいのですが、まだ病み上がりのココを一人にするのは不安なので……」
「大丈夫ですよ。行き方を教えていただければ、一人で行けますから」
「……む~」
今後の予定を話していると、なぜかココちゃんがジトーッとした目で、私達のことを見つめていた。
「一緒に過ごすのに、敬語とか呼び方が変だよ! わたしと話す時みたいにした方が、もっと仲良くなれると思うの!」
「そう言われても……オーウェン様は、確か今年で二十二歳ですよね?」
「そうですけど、どうしてご存知なんですか?」
「先程オーウェン様からお聞きした話から、逆算したんです。ココちゃん、私はまだ十九なの。歳上の方に敬語で話すのは普通なのよ」
「む~! それなら、お兄ちゃんだけでも私と話す時みたいにしてよ~!」
よほど私達がよそよそしく話しているのが嫌なのか、ココちゃんはついに涙目になってしまった。なんだか罪悪感が凄い。
「オーウェン様、せっかくココちゃんが私達のことを考えて提案してくれたので、よければ砕けた話し方にしてもらえませんか?」
「……エリンさんがそう言うなら。えっと……エリン、これからもよろしくな……こんな感じでいいか?」
「はい」
「えへへぇ~」
改めてオーウェン様と挨拶をしながら、チラッとココちゃんに視線を向けると、嬉しそうにニコニコしていた。
……正直な話をすると、丁寧な口調よりも砕けた口調の方が、親しみやすくて良いわね。
私もその方が良いのだろうか……でも、年上の男性に砕けた話し方は良くないわよね……うーん、とりあえず今まで通りで接して、もっと親しくなった時に考えましょう。
「寝床は俺が使っていた所を使ってくれ」
「えっ、オーウェン様は?」
「俺は適当に何とかするから大丈夫だ」
「本当ですか?」
「ああ。いずれはちゃんと、エリン用のベッドを用意するつもりだから安心してくれ。ああそれと、一つ提案があるんだ」
そう言うと、オーウェン様は私を小屋の外に連れ出した。行き先は、小屋の裏手にある、さらに小さな小屋だった。
こんなものが裏にあったのね。全然気づかなかったわ。
「この小屋は?」
「物置として作ってもらったんだが、全然使っていないんだ。だから、エリンが薬を作る部屋……つまり、作業小屋にするのはどうかと思ったんだ」
私の作業部屋? 確かにそういうのがあるのはとても助かるけど、ここまでしてもらって本当に良いのだろうか?
「この小屋も、何の役目もなく建っているよりも、有効に使ってもらった方が幸せだろうから、気にせず使ってくれ」
「……もしかして、私の考えていたことがわかっちゃいましたか?」
「ああ。エリンはわかりやすいからな」
「そ、それって褒めてます? 貶してます?」
「もちろん褒めてるさ」
クスっと笑うオーウェン様に対して、ちょっとだけ口を尖らせてみせる。まあ、オーウェン様が人のことを本当に馬鹿にするとは思えないから、きっと本当なのだろう。
それにしても、こんなに色々としてもらえるなんて……なのに、私は自分のことをオーウェン様に隠していて……本当にいいのだろうか? ちゃんとなにがあったのか話しておいたほうが良い気がしてきた。
「あの……オーウェン様にお話したいことがあるんです」
「俺に?」
「はい。私が経験してきたことを、ちゃんと話させてほしいんです」
「いいのか? あまり話したくないように見えていたんだが……」
「先程は、私の面倒ごとに巻き込むのは申し訳ないと思ってまして……でも、私に色々話してくれたり、色々としてくれたあなたに、隠し事をする方が不誠実だと思ったんです」
「わかった。それじゃあ中で聞こうか」
オーウェン様と一緒に裏の小屋に入ると、中はガランとしていた。本当に全然使っていないみたいね。
「それで、一体何があったんだ?」
「実は……」
私は、ゆっくりと自分の過去について話し始める。聖女の力が目覚めてお城に無理やり連れてこられたところから、オーウェン様と出会うまでの、思い出したくない出来事を。
その間、オーウェン様はとても真剣な表情を私に向けながら、黙って聞いてくれていた。
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「…………」
自分のことではないのに、オーウェン様は唇を強く噛みながら、握り拳を作って怒りを露わにしていた。
「オーウェン様が怒る必要はありませんよ」
「そんな酷い話を聞いたら、怒りたくもなる。いや、俺が怒っても何も解決にならないか……すまない、忘れてくれ」
「どうしてオーウェン様が謝るんですか? 私のことを考えてくれたから、怒ってくれたのでしょう?」
「それはそうだが……」
ここだけの話、オーウェン様が怒ってくれて、ちょっとだけ嬉しかったりする。私のことをちゃんと心配してくれたのって、ハウレウしかいなかったからね。カーティス様とバネッサも心配してくれてたけど、あれは演技だったからね。
「過去は過去ですから。それに、もう別れた二人のことを思い出すよりも、目的を果たすために努力をする方が有意義ですし!」
「……エリンは強いな……話してくれてありがとう。話に出てきたハウレウ殿やジル殿と再び会った時に、良い報告ができるように、俺にも協力させてくれ」
「本当に、色々とありがとうございます」
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