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第十七話 初めての都会
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翌朝、オーウェン様のベッドでぐっすりと寝かせてもらった私は、オーウェン様から貰った地図を手に町に向かい始めた。
オーウェン様が言うには、東に向かって真っ直ぐ行くと川に突き当たる、その川の下流の方に行くと、森を抜けて目的地に行けるとのことだ。
さすがに大丈夫だと思うけど、迷子にならないように気を付けないとね。
「あ、この川ね。穏やかでとても良いところだわ……」
朝日が反射してキラキラと輝く川は、流れが穏やかでとても気持ちがいい。ここに立っていると、この美しい自然と一体になっているかのようだ。
オーウェン様と出会う前は、こんな気持ちになんて一切ならなかったのに……きっと頼れる人や帰る場所が出来たから、自然を楽しむ余裕が出来たのね。
「って、呑気に自然を楽しんでいる場合じゃない。なるべく早く帰らないと、オーウェン様とココちゃんが心配しちゃうわ」
転ばないように、でもなるべく早足で川の下流に向かって進んでいくと、目の前に綺麗な平原が広がっていた。
うわぁ……森も綺麗だったけど、どこまでも続いているような平原も素敵だ。そよ風でゆらゆらと揺れる草達は、まるで楽しそうに踊っているみたい。
さっきの川もそうだけど、こんな光景が見れたのも、ハウレウやジル様が私のことを逃がしてくれたおかげね……いつか二人と一緒に森や草原を見ながらのんびりしたいわ。
「二人共、無事なのかしら……いつかアンデルクに帰れた時に、また会いたい……」
私は城から逃げた身だ。そんな私が城に帰ったら、ただでは済まないのは目に見えている。それでも、可能ならもう一度会いたいというのが、私の正直な気持ちだ。
でも、私が無理をして会いに来たと知ったら、ハウレウは怒りそうね。どうして危険を承知で会いに来たんですか! ってね。
「私にもっと力があれば……あっ!」
さっきまでの楽しい気持ちはどこかに消え、自責の念に囚われながら歩いていると、民家のような建物が見えてきた。
「もしかして、あれが目的地?」
まだ完全に疲れが抜けきっていないにも関わらず、走って町の入口まで来た私を出迎えたのは、見たことがないくらいのたくさんの人達で賑わう町並みだった。
「ここがオーウェン様の言っていた町……パーチェなのね! うわぁ……凄い、どこを見ても人だらけだわ!」
私の記憶の中にある場所といえば、離宮の中の狭い部屋が大半を占めている。当然そこには私以外の人が、基本的に存在しない。
だから、こんなに多くの人がいるところに来るのは、初めての経験なの。物心がつく前に、お母さんにこういう場所に連れてきてもらっていたら、話は別だけどね。
「色々なお店がある……あそこは服屋さんで、こっちはカフェ? 食べ物屋さんに雑貨屋さん……どれも見たことがないものばかり!」
私は目の前の見たことがない景色に、興奮しっぱなしだった。我ながら、感情の上下が激しくて笑っちゃうわ。
「観光もほどほどにして……えっと、ギルドはどっちにいけばいいのかな……」
わからなければ、わかる人に聞けばいいのだけど……急に話しかけたら、変な人だって思われないかしら……?
「あのー……ギルドに行きたいのですが、どっちに行けばいいのでしょうか?」
「ギルドですか? あそこの大きな建物が見えますか? あれがギルドですよ」
「ありがとうございます」
勇気を振り絞って、パーチェの入口で見張りをしていた人に聞いたら、場所を教えてもらえた。
はぁ、緊張した……こんなことになるなら、城にいる時にもっと沢山の人と話をして、話すことに慣れておくべきだったわね。
「立派な建物……おじゃましま~す……」
初めての場所ということもあって、恐る恐る建物の中に入る。すると、大広間といくつかの受付が私を出迎えてくれた。
ここがギルドなのね。賑やかな外に比べて、建物の中はとても落ち着いているって印象だ。それと、ギルドの入口の近くの壁に掛けられた、大きな掲示板が目を引く。
張り紙がたくさん……なになに、畑を耕してくれる方募集、カフェの臨時店員、野菜の取引先……色々あるのね。
依頼書の他にも、広告の類もたくさんある……新規オープンした洋服屋さんの依頼人募集に、建設の依頼人募集……こうやってギルドで宣伝することで、依頼したい人が仕事をお願いしやすくしているのだろうか?
「あっ、薬関連の依頼もあるわ」
依頼書には、息子の治療に必要な薬草を探してくれる人を募集している旨が書かれていた。
一応私は、その薬草の名前は知っている。結構貴重な物で、とても寒い地域にしか生えないし、保管方法も難しいものだったと記憶している。すくなくとも、暖かいこの辺りでは、手に入りにくい代物だ。
「この方の息子様に、精霊様のご加護がありますように……って、私の目的を果たさなきゃ」
ここでボーっと依頼書を見ていても始まらない。どうすれば薬師になれるのか、ギルドの人に聞かなくちゃ。
「あの~……」
「ギルドへようこそ。ご用件をお伺いいたします」
「すみません、少々お聞きしたいのですが……薬師になりたくて来たんですけど」
「薬師の登録ですね。推薦状や証明書はお持ちですか?」
受付の女性が言っていることに覚えがなかった私は、首を傾げることしか出来なかった。
推薦状? 証明書? 一体それは何のことだろう? オーウェン様は、そんなことは言ってなかったはず……。
「いえ、持ってません……」
「そうですか……それですと、ギルドはあなたを薬師として登録することは出来ません」
「推薦や証明書って、なんですか?」
「薬師のような一部の職につくには、その道の人間から信頼できると認められた証である推薦状か、専門の勉強をしたと証明できる書類が必要なのです」
そんなものが必要だったなんて、全然知らなかった。でも、ギルドの意向も理解できる。薬師という人の命を預かる仕事が誰でも出来たら、助けられる命も助けられなくなるかもしれないもの。
……わかるけど、困った状況なのは変わらない。推薦も証明書も当然無いし、ここで聖女ですと言っても信じてもらえるはずもない。むしろ、詐欺師と思われてしまう可能性もある。
「わかりました。ご親切に教えてくださり、ありがとうございます」
どうしようもなくなってしまった私は、仕方なくその場を立ち去った。
はぁ……薬師になって頑張ろうと思った矢先に、思わぬハプニングに遭遇してしまった。どうすれば推薦や証明書を手に入れられるんだろう……?
オーウェン様が言うには、東に向かって真っ直ぐ行くと川に突き当たる、その川の下流の方に行くと、森を抜けて目的地に行けるとのことだ。
さすがに大丈夫だと思うけど、迷子にならないように気を付けないとね。
「あ、この川ね。穏やかでとても良いところだわ……」
朝日が反射してキラキラと輝く川は、流れが穏やかでとても気持ちがいい。ここに立っていると、この美しい自然と一体になっているかのようだ。
オーウェン様と出会う前は、こんな気持ちになんて一切ならなかったのに……きっと頼れる人や帰る場所が出来たから、自然を楽しむ余裕が出来たのね。
「って、呑気に自然を楽しんでいる場合じゃない。なるべく早く帰らないと、オーウェン様とココちゃんが心配しちゃうわ」
転ばないように、でもなるべく早足で川の下流に向かって進んでいくと、目の前に綺麗な平原が広がっていた。
うわぁ……森も綺麗だったけど、どこまでも続いているような平原も素敵だ。そよ風でゆらゆらと揺れる草達は、まるで楽しそうに踊っているみたい。
さっきの川もそうだけど、こんな光景が見れたのも、ハウレウやジル様が私のことを逃がしてくれたおかげね……いつか二人と一緒に森や草原を見ながらのんびりしたいわ。
「二人共、無事なのかしら……いつかアンデルクに帰れた時に、また会いたい……」
私は城から逃げた身だ。そんな私が城に帰ったら、ただでは済まないのは目に見えている。それでも、可能ならもう一度会いたいというのが、私の正直な気持ちだ。
でも、私が無理をして会いに来たと知ったら、ハウレウは怒りそうね。どうして危険を承知で会いに来たんですか! ってね。
「私にもっと力があれば……あっ!」
さっきまでの楽しい気持ちはどこかに消え、自責の念に囚われながら歩いていると、民家のような建物が見えてきた。
「もしかして、あれが目的地?」
まだ完全に疲れが抜けきっていないにも関わらず、走って町の入口まで来た私を出迎えたのは、見たことがないくらいのたくさんの人達で賑わう町並みだった。
「ここがオーウェン様の言っていた町……パーチェなのね! うわぁ……凄い、どこを見ても人だらけだわ!」
私の記憶の中にある場所といえば、離宮の中の狭い部屋が大半を占めている。当然そこには私以外の人が、基本的に存在しない。
だから、こんなに多くの人がいるところに来るのは、初めての経験なの。物心がつく前に、お母さんにこういう場所に連れてきてもらっていたら、話は別だけどね。
「色々なお店がある……あそこは服屋さんで、こっちはカフェ? 食べ物屋さんに雑貨屋さん……どれも見たことがないものばかり!」
私は目の前の見たことがない景色に、興奮しっぱなしだった。我ながら、感情の上下が激しくて笑っちゃうわ。
「観光もほどほどにして……えっと、ギルドはどっちにいけばいいのかな……」
わからなければ、わかる人に聞けばいいのだけど……急に話しかけたら、変な人だって思われないかしら……?
「あのー……ギルドに行きたいのですが、どっちに行けばいいのでしょうか?」
「ギルドですか? あそこの大きな建物が見えますか? あれがギルドですよ」
「ありがとうございます」
勇気を振り絞って、パーチェの入口で見張りをしていた人に聞いたら、場所を教えてもらえた。
はぁ、緊張した……こんなことになるなら、城にいる時にもっと沢山の人と話をして、話すことに慣れておくべきだったわね。
「立派な建物……おじゃましま~す……」
初めての場所ということもあって、恐る恐る建物の中に入る。すると、大広間といくつかの受付が私を出迎えてくれた。
ここがギルドなのね。賑やかな外に比べて、建物の中はとても落ち着いているって印象だ。それと、ギルドの入口の近くの壁に掛けられた、大きな掲示板が目を引く。
張り紙がたくさん……なになに、畑を耕してくれる方募集、カフェの臨時店員、野菜の取引先……色々あるのね。
依頼書の他にも、広告の類もたくさんある……新規オープンした洋服屋さんの依頼人募集に、建設の依頼人募集……こうやってギルドで宣伝することで、依頼したい人が仕事をお願いしやすくしているのだろうか?
「あっ、薬関連の依頼もあるわ」
依頼書には、息子の治療に必要な薬草を探してくれる人を募集している旨が書かれていた。
一応私は、その薬草の名前は知っている。結構貴重な物で、とても寒い地域にしか生えないし、保管方法も難しいものだったと記憶している。すくなくとも、暖かいこの辺りでは、手に入りにくい代物だ。
「この方の息子様に、精霊様のご加護がありますように……って、私の目的を果たさなきゃ」
ここでボーっと依頼書を見ていても始まらない。どうすれば薬師になれるのか、ギルドの人に聞かなくちゃ。
「あの~……」
「ギルドへようこそ。ご用件をお伺いいたします」
「すみません、少々お聞きしたいのですが……薬師になりたくて来たんですけど」
「薬師の登録ですね。推薦状や証明書はお持ちですか?」
受付の女性が言っていることに覚えがなかった私は、首を傾げることしか出来なかった。
推薦状? 証明書? 一体それは何のことだろう? オーウェン様は、そんなことは言ってなかったはず……。
「いえ、持ってません……」
「そうですか……それですと、ギルドはあなたを薬師として登録することは出来ません」
「推薦や証明書って、なんですか?」
「薬師のような一部の職につくには、その道の人間から信頼できると認められた証である推薦状か、専門の勉強をしたと証明できる書類が必要なのです」
そんなものが必要だったなんて、全然知らなかった。でも、ギルドの意向も理解できる。薬師という人の命を預かる仕事が誰でも出来たら、助けられる命も助けられなくなるかもしれないもの。
……わかるけど、困った状況なのは変わらない。推薦も証明書も当然無いし、ここで聖女ですと言っても信じてもらえるはずもない。むしろ、詐欺師と思われてしまう可能性もある。
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