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第三十九話 薬師の武器
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「うっ……あぁぁぁぁ!!」
短剣が深々と刺さった腕から、物凄い痛みが襲い掛かってきた。その痛みは、まるで腕が燃えるように熱く、強烈な痛みのせいで意識が逆にはっきりする。
「エリンさん……どうしてぼくを……」
「あ……当たり前、じゃない。私は沢山の人を助ける薬師なのよ……? 目の前で危ない人を見つけたら助けるのは、当然なのよ」
激痛に耐えながら、ルーク君にこれ以上心配をかけないように必死に笑みを作ってみせた。
しかし、ルーク君は安心するどころか、顔を青ざめさせ、少し垂れた目に大粒の涙をためていた。
「ごめんね……私がもっと早く来れていれば、こんなに太ケガをしなくて済んだのに……!」
「そんな身を挺して守るなんて、あんた本物のバカね。まだ出会って間もないガキに、そこまでして守る価値があるわけ?」
「うるさい……セシリア様……いや、セシリア! あなたにこれ以上の犠牲者は出させないわ!」
「へえ、随分と大きな口を叩くじゃないの。ただの薬師の分際で、丸腰で何が出来るというの?」
「確かに私には、立派な剣も盾もない。武術も体力もからっきし。でもね……薬師にだって、武器があるのよ!」
私は鞄から小さな袋を取り出し、紐を緩めてからセシリアの顔に目掛けて投げつける。すると、袋の中から赤い粉が出てきて、セシリアの顔の辺りを漂い始めた。
「なにこれ、目くらましのつもり? こんな子供だましの手でなんとかなるとでも……い、痛い痛い!? め、目が痛くてあけていられない!! 鼻と口まで!?」
「……油断をするからそうなるのよ!」
セシリアは辺りに絶叫を響かせながら、顔を抑えて苦しみ始めた。
今私が投げつけた袋には、事前に唐辛子より何倍も辛い果実を粉末状にし、緑色のミカンのような果汁を混ぜて乾燥させた粉が入っている。
これはかなりの刺激物で、目や鼻に入ると、激しい痛みに襲われる。その痛みは、大人ですら悶絶するくらいだ。
これが、自分の身を守るために用意しておいた物の一つだ。これをオーウェン様とココちゃんに渡しても良かったけど、私がいない時に扱い方に失敗して、目や鼻に入ってしまったら、大変なことになるから、渡すのを控えたのよ。
「今のうちに……ルーク君、ケガした足を見せて!」
「う、うん……」
痛みに悶えるセシリアからルーク君を取り返すと、近くにあった瓦礫の陰に隠れた。
……出血はあるけど、そこまで深い傷じゃないわね。これくらいの傷なら、用意しておいた傷薬で治せるはずだ。
「染みるけど、すぐに良くなるからちょっとだけ我慢してね」
「うっ……い、痛い……!」
「頑張って!」
先程の薬と同様に、なにかあった時のために事前に用意しておいた傷薬を鞄から取り出し、ルーク君の傷に塗りこませる。すると、傷はみるみると閉じていき……溢れ出ていた血が止まった。
「どう、もう痛くないでしょ?」
「う、うん……凄いです……こんな薬を作れるなんて、エリンさんって一体……!?」
「話は後にしましょう。今すぐここから逃げて、助けを呼んできて」
「えっ!? で、でも……そのケガじゃ……それに、さっきの薬……もうからっぽでしたよね!?」
「この程度の傷、全然大丈夫よ。すぐにどこかに隠れるから」
……嘘だ。さっきから刺された左腕が痛くて、少しでも気を抜いたら、のたうち回りそうだ。
でも、わざわざルーク君に言って心配させる必要ない。今の私がするべきことは、セシリアが痛みに苦しんでいるうちに、ルーク君を逃がすことだ。
「早く行って!」
「わ、わかりました……!」
強い口調で言うことでようやく頷いてくれたルーク君は、私が来る時に持ってきた小さなランプを持って、その場から走り去った。
ふう……これで一安心だわ……うっ、少し安心したら、腕の痛みに割く意識が増えてしまったみたい……さっきよりも強く痛みを感じる。
でも、泣き言なんて言っていられないわ!
「こんなもので……私を止められると思わないことね!」
地面に転がっていたランプが一つ減ったことで、さっきよりも暗くなった廃虚の中で、怒りと痛みで顔を真っ赤にさせたセシリアは、ベールを脱ぎ捨ててから、手に持つ短剣に力を入れて、私を睨みつけていた。
「痛みに耐えているのは驚きだけど……そんなことをしても無駄よ。既に入った粉の痛みは、当分取れることはないわ」
「だからなに!? こんなのがあったって、正義の味方気取りを殺すことくらい、容易いことなのよ!」
痛みでまともに目が見えていないはずなのに、セシリアは真っ直ぐ私の方に来て、短剣を突き出してきた。
さっきに比べて、その動きは格段に落ちているから、何とか避けられたけど……まだこんなに動けるとは思っていなかった。
「殺す、殺してやる! 私に歯向かったことを後悔させてやる!」
「っ……や、やれるものならやってみなさい! 私はこっちよ!」
わざと挑発をするような言葉を吐きながら、ルーク君が逃げていった方向とは逆の方向に逃げていく。
こうすれば、セシリアを倒せなかったとしても、ルーク君が逃げる時間を稼ぐことが出来る。
上手くいく保証はなにもないけど、それでもやり遂げてみせる。そして、必ず生き残って、オーウェン様とココちゃんと一緒に家に帰るんだから!
短剣が深々と刺さった腕から、物凄い痛みが襲い掛かってきた。その痛みは、まるで腕が燃えるように熱く、強烈な痛みのせいで意識が逆にはっきりする。
「エリンさん……どうしてぼくを……」
「あ……当たり前、じゃない。私は沢山の人を助ける薬師なのよ……? 目の前で危ない人を見つけたら助けるのは、当然なのよ」
激痛に耐えながら、ルーク君にこれ以上心配をかけないように必死に笑みを作ってみせた。
しかし、ルーク君は安心するどころか、顔を青ざめさせ、少し垂れた目に大粒の涙をためていた。
「ごめんね……私がもっと早く来れていれば、こんなに太ケガをしなくて済んだのに……!」
「そんな身を挺して守るなんて、あんた本物のバカね。まだ出会って間もないガキに、そこまでして守る価値があるわけ?」
「うるさい……セシリア様……いや、セシリア! あなたにこれ以上の犠牲者は出させないわ!」
「へえ、随分と大きな口を叩くじゃないの。ただの薬師の分際で、丸腰で何が出来るというの?」
「確かに私には、立派な剣も盾もない。武術も体力もからっきし。でもね……薬師にだって、武器があるのよ!」
私は鞄から小さな袋を取り出し、紐を緩めてからセシリアの顔に目掛けて投げつける。すると、袋の中から赤い粉が出てきて、セシリアの顔の辺りを漂い始めた。
「なにこれ、目くらましのつもり? こんな子供だましの手でなんとかなるとでも……い、痛い痛い!? め、目が痛くてあけていられない!! 鼻と口まで!?」
「……油断をするからそうなるのよ!」
セシリアは辺りに絶叫を響かせながら、顔を抑えて苦しみ始めた。
今私が投げつけた袋には、事前に唐辛子より何倍も辛い果実を粉末状にし、緑色のミカンのような果汁を混ぜて乾燥させた粉が入っている。
これはかなりの刺激物で、目や鼻に入ると、激しい痛みに襲われる。その痛みは、大人ですら悶絶するくらいだ。
これが、自分の身を守るために用意しておいた物の一つだ。これをオーウェン様とココちゃんに渡しても良かったけど、私がいない時に扱い方に失敗して、目や鼻に入ってしまったら、大変なことになるから、渡すのを控えたのよ。
「今のうちに……ルーク君、ケガした足を見せて!」
「う、うん……」
痛みに悶えるセシリアからルーク君を取り返すと、近くにあった瓦礫の陰に隠れた。
……出血はあるけど、そこまで深い傷じゃないわね。これくらいの傷なら、用意しておいた傷薬で治せるはずだ。
「染みるけど、すぐに良くなるからちょっとだけ我慢してね」
「うっ……い、痛い……!」
「頑張って!」
先程の薬と同様に、なにかあった時のために事前に用意しておいた傷薬を鞄から取り出し、ルーク君の傷に塗りこませる。すると、傷はみるみると閉じていき……溢れ出ていた血が止まった。
「どう、もう痛くないでしょ?」
「う、うん……凄いです……こんな薬を作れるなんて、エリンさんって一体……!?」
「話は後にしましょう。今すぐここから逃げて、助けを呼んできて」
「えっ!? で、でも……そのケガじゃ……それに、さっきの薬……もうからっぽでしたよね!?」
「この程度の傷、全然大丈夫よ。すぐにどこかに隠れるから」
……嘘だ。さっきから刺された左腕が痛くて、少しでも気を抜いたら、のたうち回りそうだ。
でも、わざわざルーク君に言って心配させる必要ない。今の私がするべきことは、セシリアが痛みに苦しんでいるうちに、ルーク君を逃がすことだ。
「早く行って!」
「わ、わかりました……!」
強い口調で言うことでようやく頷いてくれたルーク君は、私が来る時に持ってきた小さなランプを持って、その場から走り去った。
ふう……これで一安心だわ……うっ、少し安心したら、腕の痛みに割く意識が増えてしまったみたい……さっきよりも強く痛みを感じる。
でも、泣き言なんて言っていられないわ!
「こんなもので……私を止められると思わないことね!」
地面に転がっていたランプが一つ減ったことで、さっきよりも暗くなった廃虚の中で、怒りと痛みで顔を真っ赤にさせたセシリアは、ベールを脱ぎ捨ててから、手に持つ短剣に力を入れて、私を睨みつけていた。
「痛みに耐えているのは驚きだけど……そんなことをしても無駄よ。既に入った粉の痛みは、当分取れることはないわ」
「だからなに!? こんなのがあったって、正義の味方気取りを殺すことくらい、容易いことなのよ!」
痛みでまともに目が見えていないはずなのに、セシリアは真っ直ぐ私の方に来て、短剣を突き出してきた。
さっきに比べて、その動きは格段に落ちているから、何とか避けられたけど……まだこんなに動けるとは思っていなかった。
「殺す、殺してやる! 私に歯向かったことを後悔させてやる!」
「っ……や、やれるものならやってみなさい! 私はこっちよ!」
わざと挑発をするような言葉を吐きながら、ルーク君が逃げていった方向とは逆の方向に逃げていく。
こうすれば、セシリアを倒せなかったとしても、ルーク君が逃げる時間を稼ぐことが出来る。
上手くいく保証はなにもないけど、それでもやり遂げてみせる。そして、必ず生き残って、オーウェン様とココちゃんと一緒に家に帰るんだから!
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