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第百十四話 あれから……
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「よし、これでようやく一段落したかな」
石化病の一件から一年がたったある日の朝、私は目が回るほど来ていた依頼を全て片付け終えた後、ふぅ……と小さく息を漏らした。
「お疲れ様、エリンお姉ちゃん! 無事に時間に間に合いそうで良かったよ!」
「ええ、そうね」
私の手伝いをしてくれていたココちゃんが、額に流れる汗を拭いながらニコリと笑う。
実はこの後、私は大切な予定が入っている。だから、少しでも早く依頼を全て片付けたかったの。
「最近仕事が多すぎないかなぁ? 今日も徹夜だったし……アンデルクを救った凄い薬師だって広まってから、一気に増えた気がするよ」
「仕事が無いよりはいいんじゃない?」
「そうだけどさ~」
薬師の仕事なんて、本来なら暇な方がいいんだけどね。仕事があるということは、病気やケガで苦しんでいる人がいるってことだもの。そんなの、無いに越したことはない。
「まあ、お城の人がひっきりなしに連絡してくるよりはいいけどね」
「あはは……あれは色々と凄かったわね」
アンデルクの国王であるカーティス様と妃のバネッサが捕まり、その罪が白日の下に晒された結果、二人は王位から降ろされたんだけど……新しい王として、私になってほしいってお願いが、何度も来たことがあるの。
もちろんそれは全てお断りしているわよ? 私は田舎から出てきたただの薬師。バネッサみたいに、王族の方と愛し合ったわけでもないし、王位をいただく資格なんて無い。それに、私には王様なんてやる能力も無い。
それで、何人かの候補者を選んだあと、国民の投票によって新しい国王様が決まったって聞いたわ。
一度その方にお会いしたことがあるのだけど、とてもおおらかな人で、今も国や民のために尽力してくれている、素晴らしい方だ。
……ちなみにカーティス様とバネッサだけど……捕まって少し経ってから、ここから遠い地にある教会に連れていかれた。
そこでは男女で完全に別れ、驚くほど質素な生活を強要されるうえに、管理も厳重で逃げることも出来ない。そして、毎日精霊様へのお祈りや、労働に勤しむ場だそうだ。
ずっと贅沢な暮らしを望み、アンデルクを作ったクレシオン様を蔑ろにしていた彼らには、処刑されるよりもつらい罰だと、個人的には思っている。
「ささっ、もうすぐ迎えが来るから、準備しないと!」
「わかったから、そんなに押さないで。転んじゃうわ」
「ごめんごめん!」
少しだけ舌を出して笑うココちゃんにつられて、笑いながら作業小屋を後にした私は、家に戻る前にとある場所に向かった。
そこは、作業小屋の隣に建てられた、小さなお墓だ。ここには、お母さんが眠っている。
実は、家に帰ってきてから少し経ってから、私はもう一度故郷に戻り、お母さんを連れてきてここに埋葬したの。それから毎朝、こうしてお母さんにお祈りをしているのよ。
……正直、いまだにお母さんやハウレウ、ジル様の死を乗り越えられたわけじゃないけど……少しずつ前を向けているとは思っている。
「お母さん、今日もみんな元気だよ。今日は待ちに待ったあの日だから、これから出かけてくるね」
「エリンお姉ちゃんのお母さんも、一緒に行けたらいいのにな……」
「お母さんは、空の上から私達を見守ってくれているもの。だから、今日のこともきっと見てくれているに違いないわ」
雲一つない青空を見上げながら、私は青空に手を伸ばす。この手がお母さん達に届くことはないけど、きっと気持ちは届いているはずだと信じて。
「さてと、お母さんへのお祈りは終わったし……次はクレシオン様へのお祈りをしないと」
「時間は大丈夫?」
「大丈夫よ。ちゃんと計算して動いているからね」
さっきはお母さんに向かってだったけど、今度は空に向けてお祈りをする。
ここはアンデルクではないから、クレシオン様に祈りが届くかはわからないけど、あの一件があってから、また毎日お祈りをするようにしているの。
だって、クレシオン様が暴走した原因の一つが、私がアンデルクを離れてお祈りをしなくなったせいでもあるからね。その償いと、またクレシオン様が苦しまないようにしてあげたいという想いからしているわ。
とは言っても、最近のアンデルクは、精霊様への感謝の気持ちを伝えるようになってきているらしいから、私がお祈りをする必要は無いのかもしれないけどね。
「そろそろ迎えが来る頃ね。家の前で待ってましょうか」
「うんっ! あれ、わたしの着替えって向こうでするんだよね?」
「そうよ。荷物とかも全部用意されてるから、このまま行けば大丈夫」
「ならよかった! 先に行って準備してるお兄ちゃんも、きっと首を長くして待ってるよ!」
ココちゃんとのんびり話をしながら玄関の前で待っていると、一台の馬車がやって来て、私達の前に止まった。
「エリン様、ココ様、お待たせいたしました。こちらにお乗りください」
「ありがとうございます」
「エリンお姉ちゃん、早く乗ろうよ!」
「そんなに急がなくても、馬車は逃げないわよ」
ココちゃんは大はしゃぎで馬車に乗りこむと、大きく手を振って私の早く乗れと催促する。
ココちゃんと出会ってから一年以上経ったけど、まだまだ幼いところがあって、とても可愛らしいわ。
「目的地まで、どれくらいでつくのかな?」
「一時間程度で着く予定です」
「それならすぐだね!」
「そうね。それじゃあ出発してください」
私がお願いすると、馬車はゆっくりと目的地に向かって動き出した。
これから向かう場所は、久しぶりに行くところだ。あれからどうなっているか、とっても気になるけど……今は本番に向けて、緊張をほぐしておかないと。
石化病の一件から一年がたったある日の朝、私は目が回るほど来ていた依頼を全て片付け終えた後、ふぅ……と小さく息を漏らした。
「お疲れ様、エリンお姉ちゃん! 無事に時間に間に合いそうで良かったよ!」
「ええ、そうね」
私の手伝いをしてくれていたココちゃんが、額に流れる汗を拭いながらニコリと笑う。
実はこの後、私は大切な予定が入っている。だから、少しでも早く依頼を全て片付けたかったの。
「最近仕事が多すぎないかなぁ? 今日も徹夜だったし……アンデルクを救った凄い薬師だって広まってから、一気に増えた気がするよ」
「仕事が無いよりはいいんじゃない?」
「そうだけどさ~」
薬師の仕事なんて、本来なら暇な方がいいんだけどね。仕事があるということは、病気やケガで苦しんでいる人がいるってことだもの。そんなの、無いに越したことはない。
「まあ、お城の人がひっきりなしに連絡してくるよりはいいけどね」
「あはは……あれは色々と凄かったわね」
アンデルクの国王であるカーティス様と妃のバネッサが捕まり、その罪が白日の下に晒された結果、二人は王位から降ろされたんだけど……新しい王として、私になってほしいってお願いが、何度も来たことがあるの。
もちろんそれは全てお断りしているわよ? 私は田舎から出てきたただの薬師。バネッサみたいに、王族の方と愛し合ったわけでもないし、王位をいただく資格なんて無い。それに、私には王様なんてやる能力も無い。
それで、何人かの候補者を選んだあと、国民の投票によって新しい国王様が決まったって聞いたわ。
一度その方にお会いしたことがあるのだけど、とてもおおらかな人で、今も国や民のために尽力してくれている、素晴らしい方だ。
……ちなみにカーティス様とバネッサだけど……捕まって少し経ってから、ここから遠い地にある教会に連れていかれた。
そこでは男女で完全に別れ、驚くほど質素な生活を強要されるうえに、管理も厳重で逃げることも出来ない。そして、毎日精霊様へのお祈りや、労働に勤しむ場だそうだ。
ずっと贅沢な暮らしを望み、アンデルクを作ったクレシオン様を蔑ろにしていた彼らには、処刑されるよりもつらい罰だと、個人的には思っている。
「ささっ、もうすぐ迎えが来るから、準備しないと!」
「わかったから、そんなに押さないで。転んじゃうわ」
「ごめんごめん!」
少しだけ舌を出して笑うココちゃんにつられて、笑いながら作業小屋を後にした私は、家に戻る前にとある場所に向かった。
そこは、作業小屋の隣に建てられた、小さなお墓だ。ここには、お母さんが眠っている。
実は、家に帰ってきてから少し経ってから、私はもう一度故郷に戻り、お母さんを連れてきてここに埋葬したの。それから毎朝、こうしてお母さんにお祈りをしているのよ。
……正直、いまだにお母さんやハウレウ、ジル様の死を乗り越えられたわけじゃないけど……少しずつ前を向けているとは思っている。
「お母さん、今日もみんな元気だよ。今日は待ちに待ったあの日だから、これから出かけてくるね」
「エリンお姉ちゃんのお母さんも、一緒に行けたらいいのにな……」
「お母さんは、空の上から私達を見守ってくれているもの。だから、今日のこともきっと見てくれているに違いないわ」
雲一つない青空を見上げながら、私は青空に手を伸ばす。この手がお母さん達に届くことはないけど、きっと気持ちは届いているはずだと信じて。
「さてと、お母さんへのお祈りは終わったし……次はクレシオン様へのお祈りをしないと」
「時間は大丈夫?」
「大丈夫よ。ちゃんと計算して動いているからね」
さっきはお母さんに向かってだったけど、今度は空に向けてお祈りをする。
ここはアンデルクではないから、クレシオン様に祈りが届くかはわからないけど、あの一件があってから、また毎日お祈りをするようにしているの。
だって、クレシオン様が暴走した原因の一つが、私がアンデルクを離れてお祈りをしなくなったせいでもあるからね。その償いと、またクレシオン様が苦しまないようにしてあげたいという想いからしているわ。
とは言っても、最近のアンデルクは、精霊様への感謝の気持ちを伝えるようになってきているらしいから、私がお祈りをする必要は無いのかもしれないけどね。
「そろそろ迎えが来る頃ね。家の前で待ってましょうか」
「うんっ! あれ、わたしの着替えって向こうでするんだよね?」
「そうよ。荷物とかも全部用意されてるから、このまま行けば大丈夫」
「ならよかった! 先に行って準備してるお兄ちゃんも、きっと首を長くして待ってるよ!」
ココちゃんとのんびり話をしながら玄関の前で待っていると、一台の馬車がやって来て、私達の前に止まった。
「エリン様、ココ様、お待たせいたしました。こちらにお乗りください」
「ありがとうございます」
「エリンお姉ちゃん、早く乗ろうよ!」
「そんなに急がなくても、馬車は逃げないわよ」
ココちゃんは大はしゃぎで馬車に乗りこむと、大きく手を振って私の早く乗れと催促する。
ココちゃんと出会ってから一年以上経ったけど、まだまだ幼いところがあって、とても可愛らしいわ。
「目的地まで、どれくらいでつくのかな?」
「一時間程度で着く予定です」
「それならすぐだね!」
「そうね。それじゃあ出発してください」
私がお願いすると、馬車はゆっくりと目的地に向かって動き出した。
これから向かう場所は、久しぶりに行くところだ。あれからどうなっているか、とっても気になるけど……今は本番に向けて、緊張をほぐしておかないと。
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