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どうしても忘れられないのです
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一応諭してみましたし、教育係の侯爵夫人も重ねて言ってくださったのですが、やっぱり聖女様はお勉強をなさることはお好きではないようでした。
仕方がないので、王太子殿下から言っていただくことにしました。
「殿下から言って下さいませんか?」
「どうして。ほっておけばいいよ」
王太子殿下は、アッサリと却下なさいます。
「駄目ですわ。国王陛下は、聖女様の存在を重要視されております。この先、聖女様がこの世界にいらっしゃるのなら、マナーを覚えるのは必要なことです。それに・・・いえ、何でもありませんわ」
「ウェンディ嬢は・・・まだ僕を信じられない?いや、そうだよな。無理もないよな。婚約者であるウェンディ嬢を蔑ろにして、しかも毒殺までしたんだものな」
自嘲気味におっしゃる王太子殿下ですが、信じていないというのとは少し違うのです。
今目の前にいる王太子殿下が、私のことを好きでいて下さる気持ちは、嘘だとは思っていません。
きっと、この先も聖女様とは適切な距離をとって下さるでしょう。
もしも、聖女様に心が惹かれたとしても、その時は正直に言って下さる気がします。
信じられないのは・・・
私自身の心なのです。
私は・・・
この先、王太子殿下をお慕いすることができるのでしょうか。
以前の時も、愛していたわけではありません。
ですが、聖女様が現れるまでは敬愛していましたし、触れることも触れられることも嫌ではありませんでした。
でも今は・・・
駄目なのです。手を触れられるだけで、あの時の「やっと死んでくれる」と言った殿下の声を思い出して、吐きそうになってしまうのです。
殿下のお気持ちは、ありがたいと思います。
私と王太子殿下は政略結婚なのですから、私個人の気持ちなど関係ないことだということは理解っています。
でも、さすがに触れられて吐きそうになる方と閨は出来ません。
ですから、聖女様にマナーを覚えていただこうということは、私のためなのです。
私は、聖女様のお気持ちを利用しようとしているのです。
「ごめんなさい。今の殿下のお気持ちを、疑っているわけではないのです。でも・・・」
「分かったよ。聞いてくれるかどうかは分からないけど、言うだけ言ってみるよ」
「殿下・・・」
「だからというわけじゃないけど、その・・・名で呼んでくれないか?」
少し照れたようにそうおっしゃる王太子殿下に、私は嫌だとは言えませんでした。
私は今回戻ってからは、殿下のことをお名前で呼ぶことができませんでした。
あの時言われた言葉を、忘れることが出来なかったからです。
「その汚れた口で、僕の名を吐くな」
そう言われた、私が死んだ日のことを。
仕方がないので、王太子殿下から言っていただくことにしました。
「殿下から言って下さいませんか?」
「どうして。ほっておけばいいよ」
王太子殿下は、アッサリと却下なさいます。
「駄目ですわ。国王陛下は、聖女様の存在を重要視されております。この先、聖女様がこの世界にいらっしゃるのなら、マナーを覚えるのは必要なことです。それに・・・いえ、何でもありませんわ」
「ウェンディ嬢は・・・まだ僕を信じられない?いや、そうだよな。無理もないよな。婚約者であるウェンディ嬢を蔑ろにして、しかも毒殺までしたんだものな」
自嘲気味におっしゃる王太子殿下ですが、信じていないというのとは少し違うのです。
今目の前にいる王太子殿下が、私のことを好きでいて下さる気持ちは、嘘だとは思っていません。
きっと、この先も聖女様とは適切な距離をとって下さるでしょう。
もしも、聖女様に心が惹かれたとしても、その時は正直に言って下さる気がします。
信じられないのは・・・
私自身の心なのです。
私は・・・
この先、王太子殿下をお慕いすることができるのでしょうか。
以前の時も、愛していたわけではありません。
ですが、聖女様が現れるまでは敬愛していましたし、触れることも触れられることも嫌ではありませんでした。
でも今は・・・
駄目なのです。手を触れられるだけで、あの時の「やっと死んでくれる」と言った殿下の声を思い出して、吐きそうになってしまうのです。
殿下のお気持ちは、ありがたいと思います。
私と王太子殿下は政略結婚なのですから、私個人の気持ちなど関係ないことだということは理解っています。
でも、さすがに触れられて吐きそうになる方と閨は出来ません。
ですから、聖女様にマナーを覚えていただこうということは、私のためなのです。
私は、聖女様のお気持ちを利用しようとしているのです。
「ごめんなさい。今の殿下のお気持ちを、疑っているわけではないのです。でも・・・」
「分かったよ。聞いてくれるかどうかは分からないけど、言うだけ言ってみるよ」
「殿下・・・」
「だからというわけじゃないけど、その・・・名で呼んでくれないか?」
少し照れたようにそうおっしゃる王太子殿下に、私は嫌だとは言えませんでした。
私は今回戻ってからは、殿下のことをお名前で呼ぶことができませんでした。
あの時言われた言葉を、忘れることが出来なかったからです。
「その汚れた口で、僕の名を吐くな」
そう言われた、私が死んだ日のことを。
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