拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな

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聞きたくなくても。

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「・・・」

 どうしよう。その沈黙が怖いのだけど。

 でも、シリルもかつて私の態度にきっとこんなふうに胸が締め付けられる思いをしたんだわ。

 私は・・・
シリルに好かれていたからって、随分と酷いことをしていたのだわ。

 もちろん、マキシミリオン王国の国王陛下や王太子殿下のことは許せないし、シリルだって私に相談してくれたらって思うけど。

 あの頃の私なら、相談されても「国王陛下の命令なら仕方ない」って言いそうだわ。

 モヤモヤした気持ちに気付かずに。

「・・・」

 え?どうして何も言ってくれないの?

 もしかして・・・迷惑だった?

 沈黙が怖くて、俯いていた視線をおそるおそるシリルに向けた。

「!」

 シリルは・・・

 私をジッと見つめたまま、その深紅の瞳から涙を流していた。

 男の人が泣くのを、初めて見たわ。

 そんなに・・・嫌だった?

 そうよね。二年前、あんな風に簡単に切り捨てておきながら、何を今更って思うわよね。

 でも、この二年がなければ、お母様が選んだ婚約者候補のカグレシアン公爵閣下と出会わなければ、私はシリルへの恋心に素直に向き合えなかった。

「ごめんなさい。いまさらよね・・・でも、伝えたかったの。シリルの気持ちが今は私になくても。二年前に聞きたかったと言われても、この二年があったからちゃんと自分に向き合えたの。受け入れてってわけじゃないの。ただ・・・シリルの現在の気持ちを答えて欲しいの」

 シリルはもう、ちゃんと私への気持ちを終わらせて、先に進んでいたのかもしれない。

 本当に、今さらなんだって思うかもしれない。

 でも、私もシリルに本当の気持ちを告げないと、前に進めない。

 フラれたら、たくさん泣いて・・・

 カグレシアン公爵閣下に嫁ぐ。

 だから、安心して?
フッた後に顔を見て、気不味くなることはないわ。

 きっと次に会うのは、お互いの結婚式くらいだもの。

 私も・・・ちょっと泣きそうになって来たから、早く言ってくれないかしら?

 いえ、駄目ね、そんなことを言っちゃ。

 シリルは、私に何を言われても了承してくれたじゃない。

 シリルのことを好きだと言うなら、このくらいの沈黙を我慢できなくてどうするの!

 自分を自分で鼓舞すればするほど、胸は痛くなるし、上げた視線も下がり気味になる。

 どうしよう。泣きそうだわ。

 返事なんていい。伝えたかっただけと言いたい。

 だけど、それはズルいことだから。

 怖い答えでも、聞かなきゃ前に進めないから。

 いつのまにかキツく握りしめていた手を、ちょっと冷たい、でも大きな手が包み込んだ。

「シ・・・リル?」

「クロエ、夢かと思うくらい・・・嬉しい」

 シリルにギュッと抱きしめられた。
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