全てを捨てた私に残ったもの

みおな

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「いつまでぐずぐずしているんだ!さっさと片付けろ!」

 毎日のように、父の怒声が家に響き渡る。

 私の名前は、アンリ・ガーデン。
ガーデン男爵家の一人娘だ。

「ごめんなさい」

 義母が謝りながら食器を片付けるのを、私は何も言うことが出来ず見守るしか出来なかった。

 私の生みの母は、私が幼い頃に父と離婚して私を置いて出て行った。

 私がそのことを知ったのは、十歳になった頃だ。

 父が義母に宛てた手紙を見つけ、読んだ私は混乱した。

 私にとって、父も・・・そして義母も決して良い親ではなかった。

 貴族でありながら、使用人を雇うお金もなく、家のことは義母が全てやっていた。

 多分、義母は疲れていたのだろう。

 今ならそう思えるのだが、幼い私はお金のない生活が嫌で、義母に反抗的な態度をとっていた。

 その時に義母に言われた言葉は今でも忘れていない。

「本当の母親じゃないから、そんなことをするのね」

 生みの母のことなど、何ひとつ覚えていない。

 だから、義母のことを本当の母親じゃないなどと考えたことすらなかった。

 なのに言われた言葉は、私の胸に突き刺さった。

 その棘は今も消えていない。

 義母も辛かったのだろう。

 夫は家のことを何ひとつせず、何かにつけて怒声をあげ、暴力をふるう。

 娘は反抗的で、可愛げがない。

 今なら義母の気持ちを理解することは出来る。

 だが、当時は私も子供だったのだ。

 貴族に生まれながら、裕福な平民よりも劣る生活。

 どうして自分は、もっと裕福な家に生まれなかったのだろう。

 どうしてもっと優しい両親の子供に生まれなかったのだろう。

 父の暴力に逆らうことが出来ない自分。

 もし男だったなら、何か変わったのかもしれない。

 だけど、女である私は、父の暴力が怖かった。

 もしも、あの頃に戻れるのなら・・・

 義母にもっと優しくできただろうか。

 義母はあの頃とても生活に疲れていた。

 だから、私は自分は愛されていないと思っていた。

 その気持ちは、今も私の心の中に消えていない。



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