全てを捨てた私に残ったもの

みおな

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「・・・ぅん」

 目覚めて最初に目に入ったのは、天蓋のレースだった。

 次に、寝ているベッドがあり得ないほどフカフカなことに気付く。

「良かった。お目覚めになられましたか?気分はどうですか?どこか痛いとこなどは?」

 濃紺のお仕着せを着た女性に話しかけられて、私はゆっくりと体を起こした。

「ここは・・・」

 買い物に行っていたはずなのに。
早く帰らないとまた叱られてしまう。

「・・・っ!」

 ベッドから降りようとして、頭が痛みそのままベッドに倒れ込んでしまう。

お仕着せ姿の、多分侍女さんだと思うけど、女性が慌てて体を支えてくれた。

「ご無理をされてはいけません。覚えていらっしゃいますか?貴女は馬車とぶつかったのです。頭を打たれたようで、そのまま気を失われて。どちらのご息女かわからなかったので、当屋敷にお連れしたのです」

「私・・・」

 咄嗟に思ってしまったのは、このまま記憶を失ったふりをしようか、ということだった。

 さすがに事故なら父も暴力を振るうことはないと思うが、このまま逃げてしまいたいと思ってしまった。

 だが、それをすると義母だけが父の元に残ることになる。

 打ち解けているわけでないが、それは人としていかがなものかと思う。

 かといって、義母も連れて逃げることは不可能だ。

 だけど記憶がないフリをすれば、義母ともやり直せるのではないか。

 上手く甘えて、上手く頼って、少なくとも今までよりはマシな態度で接することが出来るのではないか。

 そんな考えが頭をよぎった。

「あの・・・ここは、どこですか?」

「ここはクレイモア公爵家のお屋敷です。貴女はクレイモア公爵家のご子息ルヒト様の乗られた馬車とぶつかったのです」

 クレイモア公爵家。
この国で王族に次いで最も力のある公爵家だ。

 駄目だ。
この家の人に嘘なんか吐いて、後でバレたらどんな罰を与えられるか。

 どう言おうかと迷っていると、扉がノックされ、細くドアが開いた。

「メイリン、彼女は・・・あ、気が付いたんだね」

 扉が開いて入ってきたその人に、私の視線は釘付けになってしまった。

 サラサラとした金の髪に、青い瞳。
細身だけど、しなやかな体躯。シンプルなシャツとズボン(高級品だろうけど)姿なのに、一目見て高位貴族だと分かる気品。

 そして、整った容姿。
すれ違う人十人が十人全員振り返る美貌。

 まるで絵本の中の王子様だ。

 それに比べて、自分のなんとみすぼらしいことか。

 洗濯はしてあるが、平民が着るような簡易なワンピース姿。

 それも流行遅れだ。

 男爵家とはいえ貴族だと言えずに、私は俯いてしまった。


 
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