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悪役令嬢回避編
夢か現か《マリウス視点》
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今日も、眠るアニエスの額に口付けを落とし、帰るつもりだった。
だが、頬に添えた僕の手に擦り寄るように、彼女の顔が動いた。
思わずびくりとしたら、アニエスはその空色の瞳を大きく見開いて、僕を凝視した。
アニエス・・・が目覚めた?
至近距離で視線が絡み合う。
「ま、ま、ま、マリ様。何を・・・」
アニエスの声だ。
目覚めた。目覚めたんだ。
安堵のあまり涙が溢れそうになる。
そんな顔を見られたくなくて、そのままアニエスを抱きしめた。
アニエスは、必ず目覚める。
そう信じてはいたけれど、それでも怖かった。
不安で、どうしようもなくて。情けないと思いながらも、離れないで欲しいと懇願した。
僕は、アニエスのことが好きだ。
たとえアニエスが僕のことを好きでなくても、もう僕はアニエスを手放してあげられない。
まさか、こんなに彼女のことを好きになるとは思わなかった。
生まれた時から決まっていた婚約者。
筆頭公爵家のご令嬢で、青みがかった銀髪に空色の瞳の、とても綺麗な少女、それがアニエスだった。
綺麗な子だなとは思った。
だけど、母上似の僕もそれなりに容姿は優れていて、僕にうっとりとした視線を向けてくるご令嬢は多かったから、彼女からも似たような視線を向けられても、嬉しいとも何とも思わなかった。
だけど、ある時から彼女は変わった。
いつも僕を眩しいものでも見るようにしていた彼女が、僕をその辺の石ころでも見るような目で見るようになった。
僕を特別視しない。
レイノルドやニコラスたちと同等の、普通の友人としてしか見ていない。
そんな気がした。
唯一、クランだけは、大切な家族として僕よりも愛情深く接していて、僕は初めて嫉妬というものを知った。
何事にも執着することがなかった僕が、アニエスのことだけは、手放すことが出来ない。
だから、アニエスが僕のことを友人として見ていなくても、婚約者の座から解放してあげることはできない。
僕は、アニエスがいないと、僕でいられない、そんな気さえしていた。
だから、目覚めた彼女に懇願した。
お願いだから、そばにいて欲しい。どこかへ行ってしまわないで欲しい。
彼女が戸惑っているのが分かって、僕は病み上がりの、目覚めたばかりの彼女に、何を言っているのだと情けなくなった。
「ずっと眠っていたから、声がかれてしまったね。飲み物と、お医者様を呼んでくるから待ってて」
変わらず綺麗な声だけど、出しづらそうな様子に、医師を呼んでこようとする僕の服の袖を、アニエスが掴んだ。
「いか・・・ないで」
「大丈夫。すぐに戻るよ」
目覚めたばかりで、不安なのだろう。彼女に頼られる喜びに胸が震えたけど、安心させるように微笑んで見せる。
だけど、その後、彼女の続けた言葉に、僕は顔をこわばらせた。
「お話が、あります」
だが、頬に添えた僕の手に擦り寄るように、彼女の顔が動いた。
思わずびくりとしたら、アニエスはその空色の瞳を大きく見開いて、僕を凝視した。
アニエス・・・が目覚めた?
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「ま、ま、ま、マリ様。何を・・・」
アニエスの声だ。
目覚めた。目覚めたんだ。
安堵のあまり涙が溢れそうになる。
そんな顔を見られたくなくて、そのままアニエスを抱きしめた。
アニエスは、必ず目覚める。
そう信じてはいたけれど、それでも怖かった。
不安で、どうしようもなくて。情けないと思いながらも、離れないで欲しいと懇願した。
僕は、アニエスのことが好きだ。
たとえアニエスが僕のことを好きでなくても、もう僕はアニエスを手放してあげられない。
まさか、こんなに彼女のことを好きになるとは思わなかった。
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だけど、母上似の僕もそれなりに容姿は優れていて、僕にうっとりとした視線を向けてくるご令嬢は多かったから、彼女からも似たような視線を向けられても、嬉しいとも何とも思わなかった。
だけど、ある時から彼女は変わった。
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僕を特別視しない。
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そんな気がした。
唯一、クランだけは、大切な家族として僕よりも愛情深く接していて、僕は初めて嫉妬というものを知った。
何事にも執着することがなかった僕が、アニエスのことだけは、手放すことが出来ない。
だから、アニエスが僕のことを友人として見ていなくても、婚約者の座から解放してあげることはできない。
僕は、アニエスがいないと、僕でいられない、そんな気さえしていた。
だから、目覚めた彼女に懇願した。
お願いだから、そばにいて欲しい。どこかへ行ってしまわないで欲しい。
彼女が戸惑っているのが分かって、僕は病み上がりの、目覚めたばかりの彼女に、何を言っているのだと情けなくなった。
「ずっと眠っていたから、声がかれてしまったね。飲み物と、お医者様を呼んでくるから待ってて」
変わらず綺麗な声だけど、出しづらそうな様子に、医師を呼んでこようとする僕の服の袖を、アニエスが掴んだ。
「いか・・・ないで」
「大丈夫。すぐに戻るよ」
目覚めたばかりで、不安なのだろう。彼女に頼られる喜びに胸が震えたけど、安心させるように微笑んで見せる。
だけど、その後、彼女の続けた言葉に、僕は顔をこわばらせた。
「お話が、あります」
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