「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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聖女覚醒編

ご愁傷様です

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「他国の貴族ですか?でも、聖女を他国の貴族の婚約者になんて・・・」

 私がそう言うと、マリウスは首を振った。

「実際には、婚約なんてさせないよ。マリア嬢の気持ちだってあるし。知り合いに名前だけ借りようと思ってるんだ。我が国だと、偽装婚約ってわけにもいかないしね」

「そう・・・ですわね。婚約者なのに、会っていないとか、色々噂になりそうですものね」

 でも、そんなことをして、マリウスが困ったことにならないのだろうか。

 確かに、ローラ様が言うように婚約者が嫉妬深いからと言えば、学園でも男子との接触は避けられるだろう。
 あとは、私や他のご令嬢たちがガードすれば何とかなるかもしれない。

 でもそれは、根本的な解決ではない。
時間が解決してくれればいいけれど、ああいう精神的な問題は、他人が思うよりも複雑だ。

 前世でも、DVとか問題になってた。
マリアのはそれではないけど、心の傷って見えないから治ったように見えて、そうでない場合も多い。

「マリア・・・に聞いてみます。それからでもいいですか?」

「ああ、もちろん。マリア嬢の望まないことなら、他の方法を考えよう。だから、アニエス。自分を責めては駄目だよ」

「はい、マリ様。ありがとうございます」

「お兄様とアニエスお姉様が仲良くされていて、ホッとしましたけど、お兄様少々、お姉様に触れすぎではありませんの?私だって、お姉様にぎゅっとしたいですわ」

 マリウスに抱きしめられたまま話していると、ローラ様が呆れたようにそう言った。

 えーと、えーと、ローラ様ってば、まだいたのね。
 いるわよね。すっかり忘れてたわ。
私、ずっとマリウスに抱きしめられたままだったのに。

 顔に熱がたまる。
多分、真っ赤になっているだろう。それが恥ずかしくて、私はマリウスの胸に顔を埋めた。

「お前は、カール殿とだけぎゅっとしてなさい。アニエスは僕のだよ」

「ズルいですわ。お兄様なんてちょーっと顔が良くて、頭が良くて、王太子ってだけなのに、アニエスお姉様を独占できるなんて」

「独占して何が悪い。アニエスは僕の婚約者だよ」

「ズルいわ。お兄様なんて、フラれてしまえばよかったのよ!」

 全く、この兄妹は。
そんなことを言いながらも、マリウスのことを大切に思っているくせに。

「そんなことを言うなら、ノックもせずに入室したことを母上に言うぞ」

「ひどいわ。横暴よ!」

「あらぁ。随分と楽しげなお話だこと。ローラ。じっくり聞かせてくれるかしら」

 言い合う兄妹の声に被せるように聞こえて来た声に、マリウスとローラ様がピシリと固まる。

 先ほどの私のように、ゆっくりとしたスピードで振り返る2人の目に、王妃様の姿が映った。

「ノックしても返答がないからと心配してみれば、随分と面白い話をしているわね。ローラ。ゆっくりと聞かせてもらいましょうか」

 壮絶な笑みを浮かべた王妃様に、ひきつった笑みのローラ様は引きずられて行った。

 あ・・・ご愁傷様です。
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