「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

学園卒業編

優しい女神様《マリア視点》

　ハイドランジア王国の王太子夫妻に、子供が産まれたことが発表された。

　王族の懐妊は、暗殺を防ぐために子供が産まれるまでは正式には公表されない。

　真の聖女と正式に認められて、王太子妃であるアニエス様とお会いすることが出来る様になった私は、ご懐妊の時に教えていただけた。

　それからしばらくは、アニエス様の体調が安定されるまで、お会いすることはなかった。

　私自身、アニエス様にご無理をさせたくなかったし、あのアニエス様のことが大好きで仕方ない王太子殿下の、防御壁がものすごかった・・・

　学園時代、とにかくアニエス様にしかご興味のなかった王太子殿下は、卒業後すぐにアニエス様とご結婚された。

　結婚式の時の、アニエス様・・・
女神の如くお美しかった。

　式から10日後に、お祝いの品と共にお伺いしたら、アニエス様に甲斐甲斐しく世話を焼く王太子殿下のお姿があった。

　アニエス様にお聞きしたところ、どうやらはじめての夜に、王太子殿下は少々暴走されたらしい。
　それで、アニエス様から閨を拒否され、殿下は反省された、とのことらしい。

　アニエス様にご無理をさせた王太子殿下には怒りを感じるけど、あの美しい女神に我慢ができなかったというのは、仕方ないことなのかもしれない。

　元々、王太子殿下はアニエス様にとても執着されていた。
　同性の私にすら嫉妬されるほどに。

　その気持ちは、私にも分かる。
私とお付き合いしてくださっているカイさんは、とても素敵な人で・・・

　大人のカイさんには、たくさんご友人がいて。
　その中でも、セリオさんやジグルさんとはすごく仲が良くって。

　もちろん、私を除け者になんか皆さんされないけど、私にはわからない話で楽しそうにされているカイさんを見ると、やっぱり少し嫉妬してしまう。

　そんな王太子殿下だから、アニエス様のご懐妊が分かった時点から、その本領を発揮された。

　全ての王太子妃公務の停止。外部からの面会禁止。

　王太子妃が完全に、表舞台から姿を消した。
　普通、そんなことになれば、王太子夫妻の不仲とか囁かれるものだけど、貴族はもちろん平民の間でも、もしかしたらご懐妊かもって噂が流れて、みんな好意的だった。

　貴族の方々は、王太子殿下の溺愛っぷりをご存知だから、不仲を疑うなんてあり得なかったし、平民の方はどうやらセリオさんたちが「ご懐妊かも」って噂を流したらしい。

　元々、平民の中でリリウム公爵家の評価は高かったことも良い方に動いたのだと思う。

　そんなで、私がアニエス様とお会いできたのは、安定期に入られてからで。

　私は、その日のアニエス様のことを忘れない。

　愛おしげにお腹を撫でるアニエス様。
慈愛に溢れたそのお姿は、本当に女神様のようだったー