「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

文字の大きさ
124 / 128
番外編

見てみたい景色《マリウス視点》

しおりを挟む
 その旅は、愛しい妻であるアニエスの一言から始まった。

「ねぇ、マリウス様。ブロッサム皇国に行ってみたいです」

「どうしたの?突然」

「みんなで旅行に行きませんか?」

 旅行?
確かに、アニエスと結婚してからすぐに、アークとマーガレットを授かったから、旅行には行けていない。

 だけど、どうしてブロッサム皇国なんだ?あそことは国交もないし、アニエスが行きたくなる要素があるのか?

「私たちは新婚旅行には行けなかったでしょう?だから、家族旅行になりますけど、みんなで旅行に行きたいのです」

「旅行は構わないけれど、どうしてブロッサム皇国なんだい?知り合いでもいるの?」

 声が剣呑になってしまったのは、それが男かもしれないと思ったからだ。
 結婚して子供もいるというのに、僕のアニエスへの想いは増える一方だ。

 僕の様子に気づいているアニエスは、クスクスと笑いながら僕の頬にキスをしてくれた。

「困った方ね。知り合いなんていませんわ。ただ・・・」

「ただ?」

「あの国にあるという桜が見たいのです」

「サクラ?」

 そういえば、聞いたことがある。
ブロッサム皇国には、ピンク色の儚げな花が咲く木があるのだとか。

「マリア様の髪と瞳のような、綺麗なピンク色の花なのです・・・って。それを見たいのです」

 もちろん、愛しいアニエスの望みだ。
新婚旅行にも行けなかったし、ちょうど今は仕事もそんなに忙しくはない。

 もうすぐ3歳になるアルクとマーガレットも、そう手はかからないし、どちらにせよ侍女たちは連れて行くのだ。

「カイとマリア嬢も誘う?」

「ありがとうございます、マリウス様。でも、やめておきますわ」

「そう?」

 珍しい。
アニエスはマリア嬢のことをとても大切にしているから、彼女と同じ色合いの花なら、見せたいだろうと思ったのに。

「マリアは・・・多分ですけど、赤ちゃんが出来たんじゃないかな、と思いますの。最近の話を聞いてて、そう感じただけなんですけど」

「そうなんだ。それなら、遠出の旅行はやめといた方がいいね。そうか。カイたちも結婚して2年過ぎたし、そろそろかもしれないね。それなら、2人に良いお土産を探してこようか」

「はい」

 嬉しそうに微笑むアニエスに、僕も嬉しくなる。
 カイもマリア嬢も、アニエスの大切な人だ。それを蔑ろにする夫にはなりたくない。

 そうして、僕たち家族は、ブロッサム皇国へと家族旅行に出かけることになった。

 ブロッサム皇国は、小さな国だ。
だが、僕たちの国で見ることのない、木で作られたお風呂や、コメと言われる粒状の食べ物。キモノと言われる不思議なドレスなど、目を見張るものばかりだった。

 そして、アニエスが見たいと言ったサクラは、とても美しい花だった。

 風に吹かれて、ハラハラと散るピンク色の花びらに、アークとマーガレットが喜ぶ横で、アニエスはどこか懐かしそうに木を見上げていた。

「アニエス?」

「私、この花がとても好きです」

 そう言ったアニエスは、ずっと風に舞う花びらを見つめていた。

 その後、ブロッサム皇国皇族から、我がハイドランジア王国へサクラの木が贈られ、王宮の庭に植えられたのは、また別の話である。






しおりを挟む
感想 324

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...