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公爵家当主が非情になれなかった件
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ダグラス・ヴァレリアには、七歳歳下の弟がいる。
父譲りの青い髪と瞳をした弟は、ダグラスとは違い線の細い芸術肌をしていた。
絵が好きで、剣にも文学にも興味を持たないダリルを、両親は最初こそは兄であるダグラスを支えさせようと手を尽くしていたが、やがてそれも諦めざるえなかった。
ダリルがとにかく全くその才がなかったことと、ダグラスがダリルの好きに絵を描かせてやって欲しいと言ったからだ。
ダリルには絵の才能があった。
絵を描き始めると寝食も忘れるほど没頭する弟を、ダグラスはずっと見守っていた。
歳が離れている分、自分にないものを持っているダリルに対して嫉妬や羨望よりも、ダリルを守らなければという気持ちの方が大きかった。
そんなダリルが、自分の妻に淡い恋心を抱いていたと知ったのは、ダリルが絵を描くために旅に出ると書き置きを残していなくなってからだった。
ダリルの部屋の、戸棚の奥に隠してあったスケッチブック。
そこには、妻ルージュの絵姿ばかりが描かれていた。
娘のルーナが、メイドが掃除をしているダリルの部屋に入り込み、戸棚の中に隠れた。
本人はかくれんぼをしているだけのつもりだったようだが、いなくなったルーナに、周囲は大慌てで屋敷中を探した。
そして、戸棚の中でルージュの姿が描かれたスケッチブックを抱いて眠ってしまったルーナを、ダグラスは発見したのである。
ダグラスは、それを見なかったことにした。
ダリルのそれが、若者の一時の熱なのか、それとも本気の恋なのか、ダグラスにはわからない。
だがダリルは、その想いを封印してこの地を離れることを決断した。
ならば、ダリルがその想いを消化して戻ってくるのを待とう、そうダグラスは考えた。
ルーナが七歳の誕生日を迎えた三日後、ダグラスの最愛の妻は帰らぬ人となった。
元々体の弱かったルージュは、ルーナの出産後から寝込みがちになり、ルーナが五歳の頃にはベッドから起き上がれなくなった。
そして風邪をこじらせたルージュは、最愛の夫と可愛い娘に見守られながら息を引き取った。
どこにいるのか連絡もつかないダリルに、ルージュの訃報を届ける術はない。
実際、ダリルが生家に戻ったのは、旅に出てから十五年後のことである。
ダリルは一組の母娘を連れていた。
結婚したのかと思ったのだが、どうやら単に世話をしているだけらしい。
自分が病で後わずかの命なこと、勝手を言って悪いが、絵を売れば母娘の生活資金はどうにかなるが、見目の良い母娘が害されないようにヴァレリア公爵家の目を光らせていて欲しいことを願った。
人の良いダリルに呆れたダグラスだが、大事な弟がルージュの墓の前で息絶えたことで、ダリルの思いを汲んで、母娘の面倒を見ることにしたのだった。
父譲りの青い髪と瞳をした弟は、ダグラスとは違い線の細い芸術肌をしていた。
絵が好きで、剣にも文学にも興味を持たないダリルを、両親は最初こそは兄であるダグラスを支えさせようと手を尽くしていたが、やがてそれも諦めざるえなかった。
ダリルがとにかく全くその才がなかったことと、ダグラスがダリルの好きに絵を描かせてやって欲しいと言ったからだ。
ダリルには絵の才能があった。
絵を描き始めると寝食も忘れるほど没頭する弟を、ダグラスはずっと見守っていた。
歳が離れている分、自分にないものを持っているダリルに対して嫉妬や羨望よりも、ダリルを守らなければという気持ちの方が大きかった。
そんなダリルが、自分の妻に淡い恋心を抱いていたと知ったのは、ダリルが絵を描くために旅に出ると書き置きを残していなくなってからだった。
ダリルの部屋の、戸棚の奥に隠してあったスケッチブック。
そこには、妻ルージュの絵姿ばかりが描かれていた。
娘のルーナが、メイドが掃除をしているダリルの部屋に入り込み、戸棚の中に隠れた。
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そして、戸棚の中でルージュの姿が描かれたスケッチブックを抱いて眠ってしまったルーナを、ダグラスは発見したのである。
ダグラスは、それを見なかったことにした。
ダリルのそれが、若者の一時の熱なのか、それとも本気の恋なのか、ダグラスにはわからない。
だがダリルは、その想いを封印してこの地を離れることを決断した。
ならば、ダリルがその想いを消化して戻ってくるのを待とう、そうダグラスは考えた。
ルーナが七歳の誕生日を迎えた三日後、ダグラスの最愛の妻は帰らぬ人となった。
元々体の弱かったルージュは、ルーナの出産後から寝込みがちになり、ルーナが五歳の頃にはベッドから起き上がれなくなった。
そして風邪をこじらせたルージュは、最愛の夫と可愛い娘に見守られながら息を引き取った。
どこにいるのか連絡もつかないダリルに、ルージュの訃報を届ける術はない。
実際、ダリルが生家に戻ったのは、旅に出てから十五年後のことである。
ダリルは一組の母娘を連れていた。
結婚したのかと思ったのだが、どうやら単に世話をしているだけらしい。
自分が病で後わずかの命なこと、勝手を言って悪いが、絵を売れば母娘の生活資金はどうにかなるが、見目の良い母娘が害されないようにヴァレリア公爵家の目を光らせていて欲しいことを願った。
人の良いダリルに呆れたダグラスだが、大事な弟がルージュの墓の前で息絶えたことで、ダリルの思いを汲んで、母娘の面倒を見ることにしたのだった。
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