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王妃殿下が激怒した件
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「ダミアン!ダミアンをここへ呼びなさい!」
その日、王宮の王妃の執務室に王妃殿下の声が響き渡る。
ベネツィオ王国第五十三代王妃、キャスリーン・ベネツィオ。
豊かな金髪を綺麗に結い上げたキャスリーンは、その少し猫目な金色の瞳をギリリとつりあげていた。
その手に持たれた扇がパキッと音を立てたことに、王妃付きの侍女たちは顔を青ざめる。
もちろん、彼女たちはキャスリーンの怒りの原因が、たった一人の息子のダミアンだと知っている。
そして、キャスリーンが王妃という立場ではあるものの、女性が爵位を継げないベネツィオ王国の慣習に従って、国王陛下を婿に迎えた正統な王家の血筋であるということを。
「もっ、申し上げます!王太子殿下は出かけられた模様です」
ビシリ。
キャスリーンの持つ扇が、不穏な音を立てた。
報告に来た騎士が悪いわけではない。
わけではないが、謹慎を言い渡した息子が出かけるのを、誰が許容したのか。
「ダミアン付きの護衛は?」
「殿下を追って行ったようです」
「侍従は?」
「それが・・・殿下を止めようとして突き飛ばされてテーブルで頭を打ったようで、現在救護室です。侍従の指示ですぐに騎士が追いかけたと聞いております」
バキッ!
扇が真っ二つに割れたのを見て、騎士は深く頭を下げたまま顔を青くした。
「侍従の怪我は?」
「幸いにもすぐに意識を取り戻しました。頭でしたので出血が多かった模様ですが。ただ、念のためにしばらくは様子見だそうです」
「そう・・・侍従にはゆっくり休むように伝えなさい。それから、陛下と宰相、貴族院に連絡を。ダミアンを廃籍します」
王妃キャスリーンの言葉に、騎士も侍女たちも、息を呑んだ。
ダミアンは、このベネツィオ王国王家の唯一の嫡子である。
その嫡子を廃籍するということは、王家に直系の後継がいなくなるということ。
だが、キャスリーンが冗談でそのようなことを口にするわけがない。
ダミアンはそれだけのことをしでかしたのだ。
「それから、ヴァレリア公爵にも別途連絡を。婚約の白紙撤回の書状を準備してちょうだい」
「はっ」
騎士が早急に立ち去ると、キャスリーンは深くため息を吐いた。
王妃キャスリーンに王女時代から付いている侍女が、キャスリーンの好きなハーブティーを淹れてそっとテーブルに置く。
「わたくしは、子育てを間違ったのね。あのように馬鹿な子に育つなんて」
「ただお一人の王子殿下ですので、少し甘えがあったのでしょう。残念なことです」
「そうね。無理にでももう一人産んでおくべきだったわ。今更言っても、仕方ないわね。従弟のゼルビア辺境伯に連絡を」
「はい」
キャスリーンはゆっくりと、ハーブティーを嚥下した。
そう。もう今更だ。
その日、王宮の王妃の執務室に王妃殿下の声が響き渡る。
ベネツィオ王国第五十三代王妃、キャスリーン・ベネツィオ。
豊かな金髪を綺麗に結い上げたキャスリーンは、その少し猫目な金色の瞳をギリリとつりあげていた。
その手に持たれた扇がパキッと音を立てたことに、王妃付きの侍女たちは顔を青ざめる。
もちろん、彼女たちはキャスリーンの怒りの原因が、たった一人の息子のダミアンだと知っている。
そして、キャスリーンが王妃という立場ではあるものの、女性が爵位を継げないベネツィオ王国の慣習に従って、国王陛下を婿に迎えた正統な王家の血筋であるということを。
「もっ、申し上げます!王太子殿下は出かけられた模様です」
ビシリ。
キャスリーンの持つ扇が、不穏な音を立てた。
報告に来た騎士が悪いわけではない。
わけではないが、謹慎を言い渡した息子が出かけるのを、誰が許容したのか。
「ダミアン付きの護衛は?」
「殿下を追って行ったようです」
「侍従は?」
「それが・・・殿下を止めようとして突き飛ばされてテーブルで頭を打ったようで、現在救護室です。侍従の指示ですぐに騎士が追いかけたと聞いております」
バキッ!
扇が真っ二つに割れたのを見て、騎士は深く頭を下げたまま顔を青くした。
「侍従の怪我は?」
「幸いにもすぐに意識を取り戻しました。頭でしたので出血が多かった模様ですが。ただ、念のためにしばらくは様子見だそうです」
「そう・・・侍従にはゆっくり休むように伝えなさい。それから、陛下と宰相、貴族院に連絡を。ダミアンを廃籍します」
王妃キャスリーンの言葉に、騎士も侍女たちも、息を呑んだ。
ダミアンは、このベネツィオ王国王家の唯一の嫡子である。
その嫡子を廃籍するということは、王家に直系の後継がいなくなるということ。
だが、キャスリーンが冗談でそのようなことを口にするわけがない。
ダミアンはそれだけのことをしでかしたのだ。
「それから、ヴァレリア公爵にも別途連絡を。婚約の白紙撤回の書状を準備してちょうだい」
「はっ」
騎士が早急に立ち去ると、キャスリーンは深くため息を吐いた。
王妃キャスリーンに王女時代から付いている侍女が、キャスリーンの好きなハーブティーを淹れてそっとテーブルに置く。
「わたくしは、子育てを間違ったのね。あのように馬鹿な子に育つなんて」
「ただお一人の王子殿下ですので、少し甘えがあったのでしょう。残念なことです」
「そうね。無理にでももう一人産んでおくべきだったわ。今更言っても、仕方ないわね。従弟のゼルビア辺境伯に連絡を」
「はい」
キャスリーンはゆっくりと、ハーブティーを嚥下した。
そう。もう今更だ。
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