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甘え上手な子猫(シオンside)
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執務室から出たところで、宮廷魔術士のオーウェン侯爵と、ばったり顔を合わせた。
「殿下。たった今、陛下にもご報告させていただきましたが、ルーベンス嬢の体調が回復しましたので、明日から魔法陣での治療に切り替えます」
「ああ、ようやく起きれるようになったのか。よかった」
僕は、ホッと息をつく。
毎日、様子を見に行っていたが、僕が来ていることすら気づかない程、痛みに苦しんでるレティシアを見るのは、辛かった。
「殿下、ルーベンス嬢は本当に、聡明なご令嬢ですね」
「なんだい?急に」
何を改めて言うのかと、僕は首を傾げた。レティシアは、ずっと前から、聡明で、とても大人だ。
「うちの愚息どもと、同い年とは思えません。まだ10歳だというのに。泣き喚いたりすることがあるのでしょうか」
「僕は、見たことがないな。公爵なら知ってるだろうけど」
「魔王にそんなことを聞いたら、寿命が縮まりますよ。あれでもヤツは、家族を大切に思っておりますからね」
オーウェン侯爵は、そう言うと、それでは、と背を向けた。彼は、とても忙しい身の上だ。
そんな中、レティシアの治療を頼むのは申し訳なかったが、彼にしか出来ない為、無理をお願いするしかなかった。
起き上がれるようになったのなら、と僕はレティシアが滞在している客間へと足を向けた。
久しぶりに、レティシアと話がしたい。
コンコンー
「レティシア?入っても構わない?」
ドアを叩いても返答がない。
僕は声をかけてから、ひと呼吸おいて、ドアを開けた。
「・・・」
また、シャワーを浴びてたりしたらと、細く、用心深くドアを開けた僕の目に映ったのは、椅子にもたれたまま、眠っているレティシアだった。
疲れたのだろう。僕は、その頬にそっと触れる。
彼女のまぶたがぴくりと震える。
「レティシア?」
「しおんさま・・・ふふっ、まるで本物みたい・・・」
夢だと思ってるのか、レティシアは僕に抱きついてくる。
え?なに?なんなの?この可愛い生き物は。僕を殺す気なの?
僕は、レティシアを抱き上げると、ソファーに座った、自分の膝の上に座らせる。
甘える子猫のように、僕の手にすりすりと、頭をすり寄せるレティシア。
「ねぇ、レティシア」
「?」
「どうして、僕に何も言わずに、魔法を使ったりしたの?」
僕は、レティシアを責めようと思ったわけでも、怒っていたわけでもない。
悲しかったというのが、一番正しいかもしれない。
だから、この時、なんとなく口にしてしまった気持ちは、少し声が固くなってしまっていた。
レティシアは、何も答えない。僕も答えを求めていたわけじゃないから、気にもしなかった。
だから、レティシアから嗚咽が漏れたとき、慌ててしまった。
「ふっ・・・うっ・・・」
「レティシア?」
「ふぇぇぇぇ・・・ん!」
レティシアの銀色の瞳から、大粒の涙が次々にこぼれる。
「ご、ごめん。泣かないで。変なこと言って、僕が悪かった。だから、泣かないで」
「しおんさま、おこった!しおんさまなんて、きらいー」
「れ、レティシア!怒ってなんかないよ。だから、そんなこと言わないで。レティシアにそんなこと言われたら、僕は・・・レティシアに嫌われたら、僕は生きていけない」
レティシアは、僕の胸元にしがみついたまま、泣き続ける。
こんなに、泣かせてしまうなんて・・・
だけど、キライだけは、撤回してもらわないと。僕が泣きそうだ。
「レティシア、レティシアは僕にキライって言われても、平気?」
僕が、そう言うと、レティシアは胸元から涙に濡れた顔を上げた。ポロポロこぼれる涙を、そっと唇で拭う。
「いやぁ。しおんさま、キライ・・・いや・・・」
いやいやと、首を振る。か、可愛いな。
「僕も嫌だよ。だから、お願い。嫌いだなんて言わないで?」
「・・・ゆわない。しおんさま、すき・・・」
すりすりと、僕の胸元に顔を寄せて、レティシアは目を閉じた。
すぐに、静かな寝息が聞こえてくる。
寝ぼけ眼の、子猫に翻弄された僕は、その髪をそっと撫でてやりながら、小さく息をついた。
「殿下。たった今、陛下にもご報告させていただきましたが、ルーベンス嬢の体調が回復しましたので、明日から魔法陣での治療に切り替えます」
「ああ、ようやく起きれるようになったのか。よかった」
僕は、ホッと息をつく。
毎日、様子を見に行っていたが、僕が来ていることすら気づかない程、痛みに苦しんでるレティシアを見るのは、辛かった。
「殿下、ルーベンス嬢は本当に、聡明なご令嬢ですね」
「なんだい?急に」
何を改めて言うのかと、僕は首を傾げた。レティシアは、ずっと前から、聡明で、とても大人だ。
「うちの愚息どもと、同い年とは思えません。まだ10歳だというのに。泣き喚いたりすることがあるのでしょうか」
「僕は、見たことがないな。公爵なら知ってるだろうけど」
「魔王にそんなことを聞いたら、寿命が縮まりますよ。あれでもヤツは、家族を大切に思っておりますからね」
オーウェン侯爵は、そう言うと、それでは、と背を向けた。彼は、とても忙しい身の上だ。
そんな中、レティシアの治療を頼むのは申し訳なかったが、彼にしか出来ない為、無理をお願いするしかなかった。
起き上がれるようになったのなら、と僕はレティシアが滞在している客間へと足を向けた。
久しぶりに、レティシアと話がしたい。
コンコンー
「レティシア?入っても構わない?」
ドアを叩いても返答がない。
僕は声をかけてから、ひと呼吸おいて、ドアを開けた。
「・・・」
また、シャワーを浴びてたりしたらと、細く、用心深くドアを開けた僕の目に映ったのは、椅子にもたれたまま、眠っているレティシアだった。
疲れたのだろう。僕は、その頬にそっと触れる。
彼女のまぶたがぴくりと震える。
「レティシア?」
「しおんさま・・・ふふっ、まるで本物みたい・・・」
夢だと思ってるのか、レティシアは僕に抱きついてくる。
え?なに?なんなの?この可愛い生き物は。僕を殺す気なの?
僕は、レティシアを抱き上げると、ソファーに座った、自分の膝の上に座らせる。
甘える子猫のように、僕の手にすりすりと、頭をすり寄せるレティシア。
「ねぇ、レティシア」
「?」
「どうして、僕に何も言わずに、魔法を使ったりしたの?」
僕は、レティシアを責めようと思ったわけでも、怒っていたわけでもない。
悲しかったというのが、一番正しいかもしれない。
だから、この時、なんとなく口にしてしまった気持ちは、少し声が固くなってしまっていた。
レティシアは、何も答えない。僕も答えを求めていたわけじゃないから、気にもしなかった。
だから、レティシアから嗚咽が漏れたとき、慌ててしまった。
「ふっ・・・うっ・・・」
「レティシア?」
「ふぇぇぇぇ・・・ん!」
レティシアの銀色の瞳から、大粒の涙が次々にこぼれる。
「ご、ごめん。泣かないで。変なこと言って、僕が悪かった。だから、泣かないで」
「しおんさま、おこった!しおんさまなんて、きらいー」
「れ、レティシア!怒ってなんかないよ。だから、そんなこと言わないで。レティシアにそんなこと言われたら、僕は・・・レティシアに嫌われたら、僕は生きていけない」
レティシアは、僕の胸元にしがみついたまま、泣き続ける。
こんなに、泣かせてしまうなんて・・・
だけど、キライだけは、撤回してもらわないと。僕が泣きそうだ。
「レティシア、レティシアは僕にキライって言われても、平気?」
僕が、そう言うと、レティシアは胸元から涙に濡れた顔を上げた。ポロポロこぼれる涙を、そっと唇で拭う。
「いやぁ。しおんさま、キライ・・・いや・・・」
いやいやと、首を振る。か、可愛いな。
「僕も嫌だよ。だから、お願い。嫌いだなんて言わないで?」
「・・・ゆわない。しおんさま、すき・・・」
すりすりと、僕の胸元に顔を寄せて、レティシアは目を閉じた。
すぐに、静かな寝息が聞こえてくる。
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