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誰かと一緒って楽しい

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「レイ。そこ、ズレてる」

 刺繍針を進める手を止めて、レイの手元を覗き込む。

 アークライン王国への断罪をパパにお願いして、私はレイと一緒に『私がしたいこと』をすることにした。

 ローズリッテの時は、全てがセドリック様やアークライン王国、フェルゼン公爵家のためで、私がしたいことなんて何も出来なかった。

 だから・・・
私に愛情を注いでくれるパパやノイン、手助けしてくれるサウロン様やラーヴァナ様に何かお返しがしたい。

 そう言ったら、レイがハンカチに刺繍などどうですか?と提案してくれた。

 お菓子作りも良かったけど、ノインが作るのが美味しすぎて、チャレンジする勇気がもてないのよ。

 その点、刺繍ならさすがにノインはしない。

 みんなの服とかドレスとか、そういうのはちゃんと、専門の針子さんたちがいるの。

 刺繍糸や無地のハンカチを、パパたちには内緒ねって頼んだけど、多分ノインにはバレてると思う。

 仕方ないわ。
ノインは優秀なんだもの。

 ローズリッテの時に、当然だけど刺繍も学んだ。

 人に贈っても支障のないレベルまでにはなっていたと思う。

 だけど・・・
ロゼはまだ七歳だから、手がちょっと小さいのよ。

 ローズリッテの時のように、滑らかに針を刺していくことが難しい。

 最初は簡単な図案から。
そうして始めた刺繍に、レイが教えて欲しいと言い出した。

 レイの言うところの前世、レイコがいた世界でも刺繍はあったらしい。

 でもそういうのはお針子さんの仕事が好きな方がやることで、貴族の世界のように令嬢が必ず通るべき道ではないんですって。

 しかもレイが言うには、ミシンとかいう機械で、刺繍も出来るのだそう。

 レイコがいた世界って、すごいのね。
想像も出来ないわ。

 それで、拙いながらもレイに刺繍を教えているんだけど、レイって案外不器用だということが分かった。

 そう指摘したら「手芸は苦手なんです」ですって。

 どうして苦手なのに学ぼうと思ったのかしら。

「苦手なら、どうして刺繍を?」

「礼子の時に、友人たちが手芸クラブに入っていて、私も一緒にしたくて入りたかったんですけど、昔からこういう細かい作業は苦手で、結局みんなについて行けなくて辞めちゃったんです。別にみんな私を除け者にしたわけじゃないんですけど、疎外感を感じちゃって距離が出来てしまって。だから、誰かと一緒にやれたらなと思ったんです」

 ローズリッテは上級者の腕前だけど、ロゼにはその知識はあっても技能はまだ追いついていない。

 確かに、レイに教えながらのんびりと進めるのには良いのかもしれない。

 それに、ローズリッテも誰かとこんなふうに話しながら刺繍することなんてなかったわ。

 誰かと一緒って、すごく楽しいことなのね。
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