聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな

文字の大きさ
19 / 28

人を愛する気持ち《ハルト視点》

しおりを挟む
 震える小さな身体、こぼれる涙。涙に濡れる金と紫の瞳。

 気付いたら抱きしめたサクラの眦に、頬に、旋毛にキスを落としていた。

 僕は一体なにをしているんだ?

 泣いているサクラを可愛いと思った。抱きしめて守ってやりたいと思った。
 あの馬鹿に腕を掴まれているサクラをみた瞬間、脳が沸騰するような、そんな怒りを覚えた。

 この感情はなんだ?

 僕には、生まれた時から強い魔力があった。そして、開かれた瞳が深紅であった時点で、僕は魔王であることが決まっていた。

 聖女の見た目が、聖なる力を宿す金の瞳であると同じように、魔王の見た目も決まっている。その瞳が紅いことだ。

 魔王であると分かった時点で、僕は放逐された。
 魔力の強かった僕は、魔族に拾われ、魔王として生きる道を選んだ。
 人間社会などどうでもよかった。
僕を捨てた家族のことなど気にもならなかった。

 だけど、たまたま気が向いて覗いた王宮で、血だらけで瀕死のリアンを見つけた。

 僕の従兄弟のリアン。僕は赤子の時に捨てられたから、リアンと話したこともなかったけど、その存在は部下の魔族から知らされていた。

 僕は魔王だけど、神様なわけではない。死んだ人間を生き返らせることなど出来ないし、傷を治すことは出来ても、血を失ったことをなかったことにはできない。

 このまま死を迎えさせるか、それとも僕の血を与えるか。選択は2つしかなかった。

 そして僕は、僕を捨てたのと同じように、リアンを捨てようとしている奴らからリアンを奪うことを決めた。

 僕の血を与えたことにより、リアンの傷は塞がり、となった。

 リアンが瀕死の重傷を負った原因が、あの馬鹿が魔力を暴走させたせいだと知って、リアンをあいつらから引き離せたことを心から喜んだ。

 あの日から、僕の信じるものは魔族だけになった。
 大切なのは、リアンと部下の魔族たちだけで、人間などどうでもよかった。

 だからあの日、あの馬鹿に捨てられたという聖女を連れ帰ったのも、ただの気まぐれだった。
 あの馬鹿に対する嫌がらせと言ってもいい。見目の麗しいことに気付いたら、必ず聖女を取り戻そうとするだろう。それを邪魔したいだけだった。

 それなのに。
サクラは簡単に、僕やリアン、ライカ達の心の中に入ってきた。

 感情に任せて、僕たちに文句を言ったり、照れたり、困ったり。
 お菓子を手作りしてみたり、お返しと称してプレゼントを買ってきたり。

 涙を流すサクラを見たくないと思った。あの、花が咲いたような笑顔が見たい、そう思った。

 それは、僕が魔王になってから捨てていたはずの、人を愛する気持ちだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。 薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。 しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。 彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。 拒絶されるも、シルヴィアはめげない。 壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。 「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」 ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。 二人のラブコメディが始まる。 ※他サイトにも投稿しています

国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆるふわ設定です。 連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...