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五歳

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「みー」

 小さな子猫は、ミィと名付けた。
本当はもっと凝った名前にしたかったんだけど、シアンが発音出来る名前にすると限られてしまったのよね。

 アゼリアとして十五年生きて・・・
 したくても出来なかったことはたくさんある。

 たとえば、家族や友人に甘えること。

 平民で、孤児の私が甘えれる相手なんて限られてて、幼い頃でもお世話をしてくれる相手に上手く甘えることは出来なかった。

 年長になってからは特に。婚約者になら甘えられるかもって最初は期待したけど、あの王太子ではあり得なかったわ。

 それから大好きな猫を飼うこと。

 猫に限ったわけじゃないけど、先立つものがないのに欲しいものを買えるわけがないわよね。

 特に生き物は、命を預かるんだもの。身勝手な真似はできない。

 だから、ミィを飼えることはものすごく嬉しかった。

 なんでも自分のものを与えようとしたら、アマリアが「猫は食べちゃ駄目なものがあるから」と人間の国から取り寄せたご飯をミィにあげてた。

 そっか。
ミィは普通の猫だから、魔国のものは食べちゃ駄目なんだ。

 少しずつ色んなことを学習しながら、魔王様やみんなに甘やかれつつ、私はシアンとして成長していった。

「お父様」

「シアン様!」

 勢いよく魔王様の執務室の扉を開けたところで、メフィストの叱責が飛ぶ。

 ゔぅ、だって魔王様が駄目って言わないんだもの。

「ごめんなさい」

「扉はノックして、返事を待つか中から開けてもらうまで待ちましょう。そもそも、姫様が直接ノックするのでなく、フラウに・・・フラウはどうしました?」

「え?あ、うん」

置いて来ましたね?フラウが心配するでしょう!」

 見た目年齢五歳になった私は、最近はよくメフィストに叱られる。

 甘やかし期間が終わったというよりは、他のみんなが甘いからメフィストしか叱る人がいないっていう感じ。

「メフィスト、うるさい。それよりシアン、どうかしたか?」

「パパ・・・じゃなかった、お父様!再婚するって、本当っ?」

「パパでかまわない・・・というか、シアン、そんなことを知ってる?」

 興奮するとつい出てしまう呼び名を言い直して、詰め寄ると魔王様はパパで良いと言うけど・・・

 隣に立つメフィストが、目で駄目って言ってる。メフィスト、マナーとかにうるさいんだもの。

「・・・ザギのやつが何か作ったな?」

 ザギっていうのは、パパ魔王様の側近のひとり。

 私がアゼリアの記憶を取り戻してすぐくらいに、新しく側近になった魔族。

 悪魔の一族らしくて、色々と研究したり発明したりするのが、すっごく好きみたい。
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