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何故気付かないのか?
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王宮に戻ったヴィクターは、目に見えて憔悴していた。
リリーは生きていると信じて疑わなかった。
それをひっくり返されたことで、どうやって王宮に戻ったのかもはっきりしない。
おそらく護衛が馬車に放り込んだのだろう。
生きる意味を失った気がして、学園に行っても授業が全く頭に入らない。
確かにリリーとは、学園でほとんど会えなかったが、それでもいるのといないは全くの別物である。
ただ学園に行き、ただ王宮へ戻る。
そんな日々を繰り返していたある日、ヴィクターは王宮で意外な人物と出会った。
「ギルバート?」
「やあ、ヴィクター。久しぶり」
「め、珍しいな。ギルバートが王宮に来るなんて。隣国に留学してたんだろ?」
「・・・うん。戻ることになったから、挨拶にね」
ギルバートは、ヴィクターの従兄だ。
父親である国王の弟の子供で、公爵家の嫡男である。
ヴィクターの二歳年上のギルバートは、十三歳の年からずっと隣国に留学していた。
帰国もたまにで、それも両親である公爵たちに顔を見せる程度。
王宮にやってきたのは、留学前に来て以来ではないだろうか。
ヴィクターはこの従兄と会うと、胸の奥がモヤモヤする。
ギルバートもそうだし、ヴィクターの二歳年下のギルバートの弟であるテオもである。
別に彼らは、ヴィクターのことを馬鹿にしたり喧嘩をふっかけてきたりはしない。
彼らはただ、優秀なだけだ。
本人たちは、ヴィクターの場所を奪うつもりはなく、ギルバートなど早くから留学してそのアピールをしていた。
だが国の定めとして、王位継承権を持つ者はそれを放棄することは禁じられている。
いつ取って代わられるかわからないことが、ヴィクターに彼らへの苦手意識を植え付けた。
もちろん、良くも悪くも素直なヴィクターは、己のそんな劣等感には気付かない。
あえて見ようとしていないのかもしれないが。
そのギルバートが留学を終えて戻って来る?
いや。年齢から考えても、そろそろ公爵家を継ぐために、下準備に入るのかもしれない。
「そうか。戻って来たのか。公爵や夫人、テオは喜んだだろう?」
「・・・ヴィクター」
「うん?」
「・・・いや、なんでもないよ。今更、何を言ったところでもう遅いんだ」
「なんのことだ?」
何か思い詰めたような顔をしていたギルバートは、数回首を横に振ると、吹っ切ったように顔を上げた。
「それじゃあ、僕は帰るよ」
「ゆっくりしていけば良いのに」
「いや。やらなければならないことがあるからね」
ヴィクターも別に、ギルバートを引き留めたかったわけではない。
いわゆる社交辞令というやつだ。
だから、ギルバートが帰ると言ったのであっさりと背中を向けて立ち去って行く。
その背中を、ギルバートが複雑そうな表情で見ていることにも気付かずに。
リリーは生きていると信じて疑わなかった。
それをひっくり返されたことで、どうやって王宮に戻ったのかもはっきりしない。
おそらく護衛が馬車に放り込んだのだろう。
生きる意味を失った気がして、学園に行っても授業が全く頭に入らない。
確かにリリーとは、学園でほとんど会えなかったが、それでもいるのといないは全くの別物である。
ただ学園に行き、ただ王宮へ戻る。
そんな日々を繰り返していたある日、ヴィクターは王宮で意外な人物と出会った。
「ギルバート?」
「やあ、ヴィクター。久しぶり」
「め、珍しいな。ギルバートが王宮に来るなんて。隣国に留学してたんだろ?」
「・・・うん。戻ることになったから、挨拶にね」
ギルバートは、ヴィクターの従兄だ。
父親である国王の弟の子供で、公爵家の嫡男である。
ヴィクターの二歳年上のギルバートは、十三歳の年からずっと隣国に留学していた。
帰国もたまにで、それも両親である公爵たちに顔を見せる程度。
王宮にやってきたのは、留学前に来て以来ではないだろうか。
ヴィクターはこの従兄と会うと、胸の奥がモヤモヤする。
ギルバートもそうだし、ヴィクターの二歳年下のギルバートの弟であるテオもである。
別に彼らは、ヴィクターのことを馬鹿にしたり喧嘩をふっかけてきたりはしない。
彼らはただ、優秀なだけだ。
本人たちは、ヴィクターの場所を奪うつもりはなく、ギルバートなど早くから留学してそのアピールをしていた。
だが国の定めとして、王位継承権を持つ者はそれを放棄することは禁じられている。
いつ取って代わられるかわからないことが、ヴィクターに彼らへの苦手意識を植え付けた。
もちろん、良くも悪くも素直なヴィクターは、己のそんな劣等感には気付かない。
あえて見ようとしていないのかもしれないが。
そのギルバートが留学を終えて戻って来る?
いや。年齢から考えても、そろそろ公爵家を継ぐために、下準備に入るのかもしれない。
「そうか。戻って来たのか。公爵や夫人、テオは喜んだだろう?」
「・・・ヴィクター」
「うん?」
「・・・いや、なんでもないよ。今更、何を言ったところでもう遅いんだ」
「なんのことだ?」
何か思い詰めたような顔をしていたギルバートは、数回首を横に振ると、吹っ切ったように顔を上げた。
「それじゃあ、僕は帰るよ」
「ゆっくりしていけば良いのに」
「いや。やらなければならないことがあるからね」
ヴィクターも別に、ギルバートを引き留めたかったわけではない。
いわゆる社交辞令というやつだ。
だから、ギルバートが帰ると言ったのであっさりと背中を向けて立ち去って行く。
その背中を、ギルバートが複雑そうな表情で見ていることにも気付かずに。
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