誰が彼女を殺したか

みおな

文字の大きさ
29 / 39

あの日の真相④

しおりを挟む
 王太子ヴィクターの愛妾になる。

 そんな悲壮な覚悟を決めたリリーに、ラティエラはゆっくりと首を横に振った。

「お待ちになって。わたくし、今日学園で殿下に、そのお話をいたしましたの。そうしたら叱責されましたわ。愛しいリリー様に嫉妬してなんて醜いことを言うのかと。王太子妃に相応しくないと」

「「「は?」」」

 マゼンダ男爵家の三人の声が重なる。

 あまりのことに男爵など、ポカンと口を開けていた。

 一国の王太子に不敬極まりないが、脳内が沸いているのかと疑う発言だ。

 正式な婚約者であるご令嬢が、愛妾という存在を許容し譲歩してくれたというのに、それを嫉妬?

 マゼンダ男爵夫妻は、ゾッとした。

 この国にいたら、自分の娘は王太子殿下に

 なれるわけもない王太子妃として求められて、好きでもない相手に嫁がなければならなくなる。

 愛妾という立場ですら、親としては認めたくはないが、それでもお互いが愛し愛されているのならギリギリ許容できるだろう。

 だが殿下はともかく、リリーは嫌悪すらしている様子なのだ。

 そんなリリーは、嫁がされると決まったら自死を選ぶかもしれない。

 愛らしく可憐な容姿だが、意志が強い娘のことを両親は良く理解していた。

 娘が覚悟を決めた時は、自分たちも一緒に逝こう。

 自分たちが命を絶つことで、王太子殿下を諌めることが出来るなら、こうして娘のために心を砕いてくれるウィスタリア公爵令嬢のためになる。

 マゼンダ男爵夫妻は、顔を見合わせ頷き合った。

「そんな・・・」

「わたくし、両親に殿下との婚約解消をお願いいたしました」

 リリーは絶望したように、その場にへたり込んだ。

 そんなリリーを立たせるように、ラティエラは立ち上がり手を差し伸べる。

 完璧なこの人より、自分を選ぼうとするヴィクターの気持ちが理解できない。

「ウィスタリア様・・・」

「マゼンダ様。提案がございますの」

「はい」



 衝撃的な言葉だったが、リリーは驚かなかった。

 もうそれしか手はないと、自分でも分かっていたからだろう。

 だが、覚悟を決めたようなリリーと、諦めを浮かべたマゼンダ男爵夫妻に、ラティエラはクスクスと笑いだした。

「ふふっ。ふふふっ。男爵令嬢にしておくのは、もったいないですわ。殿下の何倍も聡明で、貴族としてもご立派です。わたくしがお願いしたいのは、殿下にマゼンダ様がのですわ」



 

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...