13 / 17
13
しおりを挟む
ルカだ……、ルカ、ルカ、ルカ!
約一年前の卒業式以来の再会に心が決壊し、塞せき止めていた想いが溢れ出す。
自分の名を呼ぶ声に薄く反応して振り向いた、あの人は。
「あ、リサ!」
道路の向こう側、生い茂る木々を背に、変わることのない笑顔をこちらに向けて手を上げた。
間違いなく月日は経っているはずなのに、どうして変わらない。
信号機の人影が青に変わるやいなや、飛び出すように彼の元へ走る。
どうして変わらない。
彼は、自分の元に走り近寄る私を、あの余裕のある態度で待っている。
どうして変わらない。
「ル、ルカ、ど、どうしたの、こんなところで、珍しいね」
息を弾ませ、まだ信じ難い思いで、背の高い彼を見上げた。
どうしてこんなにも、想う気持ちが、変わらない。
「大学の友達の家がこの辺でね、遊びに来てたところ」
よく見ると、綺麗に真ん中で分かれていた前髪に軽くウェーブがかかっている。
「そうなんだ」
目の当たりにしている奇跡の塊が、少しずつ以前とは違うものになっているのではないかという現実に、次第に弾んだ息が退ひいていく。
「そいつがいきなり彼女に呼び出されてさ」
「彼女……」
アニカ。あなたの彼女はアニカよ、私、知ってるのよ。
「だから、まだ昼過ぎなのに暇になっちゃったよ」
友達の彼女の話題は周りを漂う温ぬるい風に自然に溶け、ルカ自身はアニカと付き合っているという報告をしそうな素振りは感じられず。
「リサは?そういえば家、この辺だったか」
「うん」
「スーパーで買い物?」
「うん」
アニカのことは、言わないみたい。
うん、私も、積極的に聞きたいわけじゃ……。
「何?これ、お菓子の材料じゃないの?もしかして」
無遠慮にさり気なく、私の腕に通された袋を覗き込むルカ。
「そうよ、シュト―レン作るの」
心持ちルカから身を遠ざけて、袋の口をキュッとつかんだ。
意味もなく近いの、やめてよ。
「へ~、春にね。それ、見てていい?」
「え?」
ぼんやりとした陽気が、人の思考を狂わせる。
「リサの家、行っていい?」
変わらないあなたの態度に、変わらない自分を通せば良かったのに。
以前みたいに、冷たく突き放すのよ、ねえ、リサ。
ねえ。
「……いいよ」
ぼんやりとした陽気が、私の思考を狂わせた。
嘘、陽気のせいなんかじゃない。
ただの私の欲が、また光の粒になって消えてしまいそうなあなたの袖そでを精一杯つかんでいるだけだ。
本当にもう少しだけ、もう少しだけでいいから。
再び消えてしまうであろう、その青い眼差しと無意味に響く甘い言葉を、今だけ。
約一年前の卒業式以来の再会に心が決壊し、塞せき止めていた想いが溢れ出す。
自分の名を呼ぶ声に薄く反応して振り向いた、あの人は。
「あ、リサ!」
道路の向こう側、生い茂る木々を背に、変わることのない笑顔をこちらに向けて手を上げた。
間違いなく月日は経っているはずなのに、どうして変わらない。
信号機の人影が青に変わるやいなや、飛び出すように彼の元へ走る。
どうして変わらない。
彼は、自分の元に走り近寄る私を、あの余裕のある態度で待っている。
どうして変わらない。
「ル、ルカ、ど、どうしたの、こんなところで、珍しいね」
息を弾ませ、まだ信じ難い思いで、背の高い彼を見上げた。
どうしてこんなにも、想う気持ちが、変わらない。
「大学の友達の家がこの辺でね、遊びに来てたところ」
よく見ると、綺麗に真ん中で分かれていた前髪に軽くウェーブがかかっている。
「そうなんだ」
目の当たりにしている奇跡の塊が、少しずつ以前とは違うものになっているのではないかという現実に、次第に弾んだ息が退ひいていく。
「そいつがいきなり彼女に呼び出されてさ」
「彼女……」
アニカ。あなたの彼女はアニカよ、私、知ってるのよ。
「だから、まだ昼過ぎなのに暇になっちゃったよ」
友達の彼女の話題は周りを漂う温ぬるい風に自然に溶け、ルカ自身はアニカと付き合っているという報告をしそうな素振りは感じられず。
「リサは?そういえば家、この辺だったか」
「うん」
「スーパーで買い物?」
「うん」
アニカのことは、言わないみたい。
うん、私も、積極的に聞きたいわけじゃ……。
「何?これ、お菓子の材料じゃないの?もしかして」
無遠慮にさり気なく、私の腕に通された袋を覗き込むルカ。
「そうよ、シュト―レン作るの」
心持ちルカから身を遠ざけて、袋の口をキュッとつかんだ。
意味もなく近いの、やめてよ。
「へ~、春にね。それ、見てていい?」
「え?」
ぼんやりとした陽気が、人の思考を狂わせる。
「リサの家、行っていい?」
変わらないあなたの態度に、変わらない自分を通せば良かったのに。
以前みたいに、冷たく突き放すのよ、ねえ、リサ。
ねえ。
「……いいよ」
ぼんやりとした陽気が、私の思考を狂わせた。
嘘、陽気のせいなんかじゃない。
ただの私の欲が、また光の粒になって消えてしまいそうなあなたの袖そでを精一杯つかんでいるだけだ。
本当にもう少しだけ、もう少しだけでいいから。
再び消えてしまうであろう、その青い眼差しと無意味に響く甘い言葉を、今だけ。
0
あなたにおすすめの小説
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる