悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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聖女の出現

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「お兄様、こうなったらわたくし国外にでも逃亡するしか……」
「いや、待て待て。まだ出現しただけだろう」
「ですが一匹見掛けたら百匹は居ると言いますわ! 出現しただけでアウトですのよ?」
「え、それ何の話? 聖女ヒロインが百人て普通に怖いし、お兄ちゃんもそれはイヤだから」

 聖女パニックのせいか兄妹で訳の分からない会話を交わしていると、ひょっこりとイアンがバルコニーに姿を見せた。

「やっぱり不穏な話をしてる……何処に逃げるって? リア」

 こちらに近付いて来るイアンの顔が言葉にそぐわない程に素晴らしい笑顔なのだが、逆にそれが怖くて思わずその場でエミリアは固まった。

「こ、国外逃亡がダメなら婚約破棄を」
「しない」
「うぅ……」

 イアンと婚約してから約七年経ったが、何も進歩していないやり取りだ。

「そんな事言わずにエミリアは僕が貰ってあげるから、安心して婚約破棄して良いんだよ? イアン」
「黙れフランク」

 半ば本気な軽口を叩きながらフランシスもやって来た。今日のフランシスはさすがに魔導士姿ではなく正装をしている。その為か美しさに磨きがかかって、妖艶な色気がダダ漏れしている。

「フランクの戯言はどうでも良いが逃亡は許せる事ではないな」

 次に姿を現したのはパトリックだ。ダークブラウンの髪を後ろで一つにまとめ、鋭い眼鏡の奥に見える漆黒の瞳にはやれやれといった表情が浮かんでいる。

 エミリアはこのメンツが揃ってしまっては諦めるしかないと長年の経験から学習してきたので、ガックリと肩を落とすしかなかった。

「あは、あははは……冗談ですわ、国外逃亡も婚約破棄も致しませんわ」

 皆に囲まれながら会場へと戻ると今夜の主役である聖女のサルビアは父親のファフナー伯爵と共に、聖女様とお近付きになりたいと願う貴族達からの挨拶に囲まれていた。

「先代の聖女の出現ってニ~三十年くらい前だったっけ?」
「ああ。何故か聖女の身元は公表されてないが、婚姻と共に引退したという記録は残っている」

 フランシスがサルビアの方を見ながら呟く。それに答えたのはパトリックだ。相変わらず博識な様だ。

(先代の聖女が居たのか……ニ~三十年前だとお母様達の世代?)

「彼女が先代の娘とか?」
「時期的にはあり得るが先代の素性が分からないな。イアンなら何か知っているんじゃないのか?」

 パトリックに答えを求められたイアンはフッと唇の端を持ち上げて微笑む。

「知っていても私がそう軽く口に出すとでも?」
「ないな」
「そうだねー、イアンからの情報収集は無理ゲーだね」

 そんなやり取りをエドワードが苦笑いしながら見ている。

(そうなのよねイアンからは絶対無理。エドワードお兄様も意外と何かしら知ってそうなのよね……)

 ただ、エミリアに甘い兄のエドワードだが肝心な所で口が固い為、欲しい情報が手に入らない事は多い。だからこそ、王太子の側近の中でも筆頭扱いを受けているのだろう。

(それでも、後でお兄様に聖女の事聞いてみなくてはいけませんわね)

 エミリアの今後がかかっているのだ。聖女が出て来た以上、下手な動きをする訳にはいかない。
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