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第一章
信じるだけ
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コンコン……。
夕食後、自室で刺繍をしていると部屋の扉がノックされた。返事をするとタクトお兄様が顔を覗かせた。
「ティアナ、今ちょっと良い?」
「はい、構いませんわ。何かお飲みになりますか?」
「いや大丈夫だよ。少し話がしたいだけだから」
ソファーセットでタクトお兄様と向かい合って座った。そういえば最近はタクトお兄様もスクトお兄様もご多忙で、こうやってゆっくりお話しするのは久し振りだわ。幼い頃は毎日三人で集まって遊んでいたのが懐かしい。
「それで、どうされたのですか」
「うん……その…………ティアナは何か殿下から聞いている?」
「えっと……それはどういった事ですの?」
何の事だろう。いぶかしげにタクトお兄様を見ると何か言いにくそうにして顔を歪ませる。
「んー、ほら……あのピンクのご令嬢の事だよ」
ピンクのご令嬢。その言葉にピクンとあたしの肩が跳ねそうになった。
「……ミンスロッティ様が何か?」
出来るだけ平常を装って言葉を絞り出す。正直あまり話したくない内容だ。
「いや……最近、変じゃないか? アルの奴」
「おかしいのは昔からですわよ、お兄様」
「そっちの変じゃなくて! ……最近ティアナをないがしろにしてないか? 昼飯だってお前じゃなく、あのピンク頭と取ってるし。あんなにお前の事好きだって言ってたのに!」
「……そう、ですわねぇ。婚約からもう長いですから、飽きられたのかもしれませんわね」
無理矢理、口角を上げて笑顔を作ったけど……上手く笑えているかしら。
「お前は、それで……いいのか?」
「わたくしは…………ただ、殿下を信じているだけですわ」
悪役令嬢になってから約半年が経過した現在、お兄様の言う通り殿下はお昼をミンスロッティ様と二人で取る様になっていた。ミンスロッティ様との仲が深まるにつれて、あたしとは段々と距離を置かれる様になられた。屋敷に来る事はあるが、それはお兄様達に用事がある時だけであたしとは会わずに帰られる。学園で偶然すれ違えば挨拶は交わすけれど、それだけ。
殿下とちゃんとお話し出来るのは恒例の婚約者としてのお茶会のみだ。その時でさえ、前の様な甘い雰囲気にはならない。ただお茶を飲んで、お菓子を食べて、互いの近況を少し話すだけだ。
「婚約者になんかさせなきゃ良かった。おれは絶対あいつを許さないからな」
「お兄様……」
「何かあったら遠慮なくおれに言うんだぞ。いつでも話聞いてやるから」
「そのお言葉だけで十分嬉しいですわ」
お兄様はあたしの頭をくしゃっと撫でてから部屋を出て行った。親友の殿下の態度が気に入らないのも無理もないのだろう。それだけ信頼している証拠なのよね。あたしは……お兄様に話した様に、ただ殿下を信じるしか出来ない。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「またですわよ、ティアナ様」
友人の公爵令嬢――ロメリアンヌ・エマーソンの視線の向かう方へチラリと顔をやると、学園の噴水広場にあるベンチに仲良く並んで腰かけて談笑している殿下とミンスロッティ様の姿があった。もう見慣れた筈のその光景に胸がチクリとする。
「本当に殿方に節操がありませんわね、あの方。わたくしが注意してきましょうか?」
ロメリアンヌの隣りに居た侯爵令嬢のジュディ・イーグルが顔をしかめる。それを手に持っていた扇でそっと止めおく。余計な言い争いになるだけだ、それに他の女性に笑顔を向ける殿下の姿をこれ以上近くで見たくない。
「放っておきなさい。ミンスロッティ様には何を言っても無駄でしょうから」
「そう言えば、ティアナ様はご存知? 最近はスクト様にも言い寄ってらっしゃるとの噂ですわよ」
「それだけじゃありませんわよ。パワード様やギュンター様、マーベリー先生ともお噂が……」
「本当に嘆かわしいですわ……あんな方が同じ学園の生徒だなんて」
「その通りですわー」
ロメリアンヌ達の言葉に耳を疑った。ミンスロッティ様は殿下の事が好きなんじゃなかったの?だからあたしに協力させたんじゃなかったのか。心の中にドロドロとした黒い気持ちが沸きあがる。ハッとして、その黒いモノを消し去る様に大きく深呼吸をする。
「ティアナ様、お顔の色が優れませんけど大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫、気にしないで結構よ。さぁ、早く教室に戻りましょう」
何事も無かったかの様にロメリアンヌとジュディを誘ってその場を離れる。
――心の中が誰かに無理矢理かき回された様に気持ちが悪い。あの黒いモノに飲み込まれてはダメよ……そう心が警笛を鳴らしているのが分かる。誰にも見られない様に震える身体をそっと両手で抑えた。
夕食後、自室で刺繍をしていると部屋の扉がノックされた。返事をするとタクトお兄様が顔を覗かせた。
「ティアナ、今ちょっと良い?」
「はい、構いませんわ。何かお飲みになりますか?」
「いや大丈夫だよ。少し話がしたいだけだから」
ソファーセットでタクトお兄様と向かい合って座った。そういえば最近はタクトお兄様もスクトお兄様もご多忙で、こうやってゆっくりお話しするのは久し振りだわ。幼い頃は毎日三人で集まって遊んでいたのが懐かしい。
「それで、どうされたのですか」
「うん……その…………ティアナは何か殿下から聞いている?」
「えっと……それはどういった事ですの?」
何の事だろう。いぶかしげにタクトお兄様を見ると何か言いにくそうにして顔を歪ませる。
「んー、ほら……あのピンクのご令嬢の事だよ」
ピンクのご令嬢。その言葉にピクンとあたしの肩が跳ねそうになった。
「……ミンスロッティ様が何か?」
出来るだけ平常を装って言葉を絞り出す。正直あまり話したくない内容だ。
「いや……最近、変じゃないか? アルの奴」
「おかしいのは昔からですわよ、お兄様」
「そっちの変じゃなくて! ……最近ティアナをないがしろにしてないか? 昼飯だってお前じゃなく、あのピンク頭と取ってるし。あんなにお前の事好きだって言ってたのに!」
「……そう、ですわねぇ。婚約からもう長いですから、飽きられたのかもしれませんわね」
無理矢理、口角を上げて笑顔を作ったけど……上手く笑えているかしら。
「お前は、それで……いいのか?」
「わたくしは…………ただ、殿下を信じているだけですわ」
悪役令嬢になってから約半年が経過した現在、お兄様の言う通り殿下はお昼をミンスロッティ様と二人で取る様になっていた。ミンスロッティ様との仲が深まるにつれて、あたしとは段々と距離を置かれる様になられた。屋敷に来る事はあるが、それはお兄様達に用事がある時だけであたしとは会わずに帰られる。学園で偶然すれ違えば挨拶は交わすけれど、それだけ。
殿下とちゃんとお話し出来るのは恒例の婚約者としてのお茶会のみだ。その時でさえ、前の様な甘い雰囲気にはならない。ただお茶を飲んで、お菓子を食べて、互いの近況を少し話すだけだ。
「婚約者になんかさせなきゃ良かった。おれは絶対あいつを許さないからな」
「お兄様……」
「何かあったら遠慮なくおれに言うんだぞ。いつでも話聞いてやるから」
「そのお言葉だけで十分嬉しいですわ」
お兄様はあたしの頭をくしゃっと撫でてから部屋を出て行った。親友の殿下の態度が気に入らないのも無理もないのだろう。それだけ信頼している証拠なのよね。あたしは……お兄様に話した様に、ただ殿下を信じるしか出来ない。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「またですわよ、ティアナ様」
友人の公爵令嬢――ロメリアンヌ・エマーソンの視線の向かう方へチラリと顔をやると、学園の噴水広場にあるベンチに仲良く並んで腰かけて談笑している殿下とミンスロッティ様の姿があった。もう見慣れた筈のその光景に胸がチクリとする。
「本当に殿方に節操がありませんわね、あの方。わたくしが注意してきましょうか?」
ロメリアンヌの隣りに居た侯爵令嬢のジュディ・イーグルが顔をしかめる。それを手に持っていた扇でそっと止めおく。余計な言い争いになるだけだ、それに他の女性に笑顔を向ける殿下の姿をこれ以上近くで見たくない。
「放っておきなさい。ミンスロッティ様には何を言っても無駄でしょうから」
「そう言えば、ティアナ様はご存知? 最近はスクト様にも言い寄ってらっしゃるとの噂ですわよ」
「それだけじゃありませんわよ。パワード様やギュンター様、マーベリー先生ともお噂が……」
「本当に嘆かわしいですわ……あんな方が同じ学園の生徒だなんて」
「その通りですわー」
ロメリアンヌ達の言葉に耳を疑った。ミンスロッティ様は殿下の事が好きなんじゃなかったの?だからあたしに協力させたんじゃなかったのか。心の中にドロドロとした黒い気持ちが沸きあがる。ハッとして、その黒いモノを消し去る様に大きく深呼吸をする。
「ティアナ様、お顔の色が優れませんけど大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫、気にしないで結構よ。さぁ、早く教室に戻りましょう」
何事も無かったかの様にロメリアンヌとジュディを誘ってその場を離れる。
――心の中が誰かに無理矢理かき回された様に気持ちが悪い。あの黒いモノに飲み込まれてはダメよ……そう心が警笛を鳴らしているのが分かる。誰にも見られない様に震える身体をそっと両手で抑えた。
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