完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第二章

バーベンス公爵 アーサーSide

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 アルスト殿下とアーサー殿下が不仲かもしれない……そんな噂が貴族の中であっという間に広まった。それはここ、王立学園でもそうだった。普段は仲の良い二人が、廊下などですれ違ってもアーサー殿下は知らんぷり。アルスト殿下の方はそんなアーサー殿下を見ては溜息をついておられる。その様子を生徒たちも何度も見てはひそひそと囁き合うのだった。

 そのうち、学園の庭園ではアーサー王子とロメリアンヌが仲良くベンチに腰掛けて談笑したり、放課後の図書室でも二人が仲良さげに本を探し歩いたりする様子が日常的に見られるようになっていった。最初の内はロメリアンヌの婚約者であるザッカリーが口出しして来たりしていたが、ある日を境にそれもプツリと無くなった。

「アーサー殿下」

 城の王子宮から出て幾分か歩いた所で、そう声を掛けて来た男が居た。ぶっくりと肥った腹を大きな宝石の付いた指輪だらけの手で撫でながらニヤニヤとした笑みを浮かべたその中年の男は、この国で王族・ローゼン公爵家に次ぐ権力を持っているバーベンス公爵だった。

「……バーベンス公爵」

 ようやく来たか――僕はそう思った。兄上と僕が不仲だとの噂はバーベンス公爵家当主であるクロッカー・バーベンスにはすぐには届いてはいただろうが、この男がそうそう鵜呑みにする訳はない。あの夜会から八ヶ月経過した今、ようやく動き始めたとは……なかなか侮れない相手だ。

「何処かへお急ぎですかな? 出来れば少しお時間を頂けますでしょうか」
「これから外へ視察に行くところだ。それに貴殿と話すような事は私には何もないと思うが」

 元々バーベンス公爵とは特に接点は無い。それも踏まえてわざと突き放すように答えた。するとクロッカーはニヤニヤとした笑いを絶やさないまま、声を潜めながら距離を縮めて来た。

「エマーソン公爵令嬢の事で少々、ご相談がありましてな」
「…………」
「殿下にとって悪い話じゃないと思いますよ」

 無言のまま訝しげにクロッカーを見据える。口角を上げたまま、こちらを見返す瞳はギラリとした光を放っているように見える。

「……後日、少し時間を取ろう。都合の良い日時を知らせてくれ」
「ふはは、畏まりました」

 表情を崩さずその場を立ち去る。――兄上の読み通りだ、とうとう動き出した。用意させていた馬車に側近と乗り込み、暫く走らせてから独り言のように僕は声を発する。

「テッド、そこに居るか」
「はい」

 何処からともなく返事が聞こえる。答えたのは、今回の作戦の為にローゼン公爵家から派遣された暗部の人間だ。魔法を使って姿を消し、こうして常に僕の傍に控えている。

「バーベンス公爵が動き出した。兄上とタクト様、スクト様へ伝えてくれ」
「御意」

 僕は王族だからテッド以外にも王家の暗部の者が護衛として付いてはいる。彼らもとても優秀なのだが、テッドにはとても及ばないらしい。そもそも王家の暗部に所属するローゼン公爵領出身の者たちは、常軌を逸した能力を兼ね備えていて度肝を抜かれる。テッドも近々王家の暗部へと移動となる予定らしく、今回はそれに先駆けて僕に付いてくれていた。タクト様曰く今一番実力のある若者なんだそうな。

 兄上も怖いが、ローゼン公爵家も絶対に敵には回してはいけない相手だと思う。バーベンス公爵家もいくら権力はあるとしても、ティアナ嬢と仲の良いロメリアンヌ嬢をあんな風に蔑ろな扱いをしていては、ローゼン公爵家から反感を買う事だって予想出来そうだが……まぁ、あのザッカリーには無理な話かもしれないな。ザッカリー自身がまともにタクト様に刃向っているからな。

「ようやく、ですか」

 向かい側の席に座る側近のジョエル・ネリネが眼鏡のズレを直しながら溜息を漏らした。漆黒色の癖のない髪がサラリと揺れる。

「あぁ、待たせたな」
「待ちくたびれましたよ。これでようやくアイツを消せると思うと腕が鳴りますけどね」

 ジョエルが不敵な笑みを浮かべた。細められた茶色の瞳が眼鏡の奥で怪しげに光る。いや、その笑みはかなり怖いから!

「待て待て、まだこれからだからな。焦るなよ」
「分かってますよ」

 僕の側近であるジョエルはネリネ公爵家の三男だ。ザッカリーとは同い年で幼い頃から仲が悪く、同じ公爵家でも序列的に二番目のバーベンス公爵家からしたら、ネリネ公爵家は最下位なのでいつも馬鹿にされていたらしい。

 ジョエルと僕は幼少期から遊び相手として引き合わされ、自然に側近としてこうして傍に居てくれるようになった。何故かジョエルはまだ頼りないであろう僕を気に入ってくれている。王位を継がない僕はいずれ何処かの家へ婿入りする事になるのだけど、それでもずっと僕の傍に居たいと言ってくれている。

 今回の計画もジョエルが居てくれるから僕も余計な不安もなく行動が出来る。とても心強い存在だ。

「それにしても兄上は凄いな。こうも予想通りに事が運ぶとは……」
「アルスト殿下でなければ、あのバーベンス家を葬る事は難しいでしょうね」

 バーベンス公爵家は六大公爵家の中でも一番歴史が古い。そして怪しい噂が絶えない。化かし合い騙し合いが常な貴族社会の中でも古狸として歴代当主たちは君臨してきている。武闘派のローゼン公爵家が台頭して来てからはトップの座を奪われてしまったが、それでもバーベンス公爵家を支持する派閥は多く残っている。王家に従順な振りをしてはいるが、それが本心で無い事は誰しも知るところだ。

「…………これから起こる出来事は歴史に残る事件になるのだろうな」

 僕はそう呟きながら馬車の窓から流れゆく景色を見つめた。
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