悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな

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本編

リップル王女の歓迎舞踏会①

 久々に参加した王宮での舞踏会は、煌びやかな色とりどりのドレスが今日も華やかだ。わたしは宰相であるお父様にエスコートをして頂いて参加していた。クリス殿下の婚約者から外れたわたしを好奇の目で見る人達も幾人かいるが、今日はそれどころではない。頭の中はこれから発表されるであろう内容で一杯だ。

「緊張しているのかアリー」

 人知れず小さく息を吐いたのだが、どうやらお父様には聞かれてしまったようだ。

「そりゃ、緊張しますよ……」

 上目づかいで軽く睨む様にお父様を見ると、自身の口元に生やした口ひげをするりと撫でながら他人事の様に笑われるお父様。

「お父様はロブ殿下が求婚される事、ご存知だったんでしょ? だから暫くは婚約は考えなくて良いとか、仕事が失敗したら大人しく嫁げとか仰ったのですよね?」
「まぁな。クリストファー殿下との婚約解消時から、こうなるであろうと陛下とは話しておった。お前が受けるかどうかは分からんかったがな」

 わたしがお父様とそんな話をしていると、王家の入場を告げる声が聞こえた。貴族たちが入場する扉とは別の、王族だけが入場する大きな扉が開かれて両陛下とその後ろからロブ殿下、クリス殿下が続いて入って来た。

「皆の者、今日はよく来てくれた。舞踏会を始める前に幾つか発表したい事がある。まずは隣国から留学に来られたコンフォーネ王国のリップル第一王女を紹介しよう」

 陛下の言葉を合図にロブ殿下が檀上から降りて来られて、一人の令嬢の手を取りながら再び壇上へと向かわれた。ふわふわの金色の髪に、深いグリーンの大きな瞳が目を惹くとても可愛らしいお姿に周りから感嘆の声があがる。

「皆さま初めまして、コンフォーネ王国第一王女のリップル・コンフォーネと申します。今宵は私の為に舞踏会を開いて頂いて大変嬉しく思っております。今回の留学も楽しみにしておりました。暫しの期間ですが宜しくお願い致します」

 あれがリップル王女……。悪役令嬢とは思えない可愛らしいお姿にわたしも息を飲む。以前お会いした時はまだ子供って感じだったけど、随分と美しく成長されたのね。

「リップル王女はロビウムシスの婚約者候補として一年間、王立学園に通う。それから、アリエッタ・ネリネ嬢こちらへ……」
「……はい」

 緊張で固まりそうになる身体を何とか奮い立たせて檀上の前へと進む。

「アリエッタ・ネリネ侯爵令嬢の事は皆も良く知っておる通り、少し前までクリストファーの婚約者であった。何やら色々勝手な噂が流れておる様だが、婚約解消はクリストファーの身勝手さによるものであってアリエッタ嬢には何の非もない。そしてアリエッタ嬢はリップル王女と同じく、ロビウムシスの婚約者候補となった」

 陛下の言葉にざわざわとした雰囲気が流れる。噂を信じていた者たちは眉をひそめたり、ひそひそと会話を交わしたりしている。同時にロブ殿下の婚約者候補が発表された事に衝撃を受ける令嬢も何人も居る様だった。これまで婚約者を置いていなかったので、まだ自分にも望みがあると考える令嬢たちも居たのだろう。

「それから最後にクリストファーであるが、新たにココレシア・ビットソン子爵令嬢との婚約が決まったが……此度の身勝手な振る舞いは一国の王子としても、一人の人間としても褒められたものではない。よって、隣国への留学を命ずる。また本人からの希望もあり、帰国後は王位継承権を返上し臣籍降下の上、一代限りの子爵位を授ける。……クリストファー、今後はロビウムシスのサポートをする様に」
「はい、誠心誠意、兄上の助けになれる様努力していきます。反省の機会を与えて頂きありがとう御座います陛下」

 陛下の言葉にクリス殿下は深く頭を下げられた。第二王子の王位継承権の放棄に多くの貴族たちは驚きを隠せない様だが、クリス殿下はそんな反応も特に気にする様子も無い。自分のやるべき事に向かってクリス殿下も少しずつ成長されている。……わたしも前に進んで行かなくちゃ。迷ってばかりいてはいけないのかもしれない。今の自分に出来る事を精いっぱいやるだけ、よね。

「それでは舞踏会を楽しんでくれ」

 楽団が音楽を奏で始め、ロブ殿下がリップル王女を伴われてフロアの中央へ向かう。二人は微笑ながらダンスを踊り始めた。リップル王女は隣国からの大事なお客様で、婚約者候補なのだからお二人がダンスされるのは何もおかしい事じゃない。でも、その姿を見ながらわたしは胸が痛むのを感じた。ロブ殿下が他の女性と一緒に居る姿を見るのがこんなに苦痛に感じるなんて……今まで殿下の隣りには誰も居なかったし、いつもわたしを優先してくれていたから気付かなかったのかもしれない。

 ……わたし、ロブ殿下の事好きなんだわ。

 自覚した途端、余計にお二人の姿を見ていられなくなってその場をそっと離れた。人気ひとけの無いバルコニーへと逃げ込むと、目尻に浮かんだ涙を拭う。

「どうしよう……」

 ロブ殿下の事を好きだと自覚したら、今のこの状況が凄く怖く感じてしまう。ロブ殿下の横に居る為にはリップル王女と競わなければいけない。これからもこうやってお二人が仲良くされている姿を見なければならない。その度に胸が痛むのだろう。

 それだけじゃない。今まで何も考えずにロブ殿下と接してきたけど、ロブ殿下と顔を合わせて会話したり、ダンスを踊ったり……わたしは平常心で出来る自信がない。今だって、どんな顔してロブ殿下と話したら良いのか分からない。好きなのに、緊張して傍に行く事が怖い。考えただけで泣きそうになる。

 何なのよ、恋って……こんなに厄介な気持ちになるの? ただ好きと思うだけで苦しい。

 わたしは初めて芽生えた恋心に戸惑っていた。
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